第38話 旅立ちと見送り
王都行きが決まった翌日、レオンたちはギルドでバロンと今後について話し合っていた。
「王都には、しばらく滞在することになるだろう。だが、アルトの登録を抹消する必要はない。」
バロンはそう言うと、腕を組んだ。
「派遣、みたいなものだと思っておけばいい。落ち着いたら、また戻ってくればいい話だ。」
「ありがとうございます。」
レオンは頭を下げた。
アルトは、初めて冒険者として登録した街だ。
完全に離れるつもりは、レオンにもリリアにもなかった。
「ガレスさんには?」
リリアが尋ねると、バロンは苦笑した。
「別の依頼で街を出ている。戻ったら伝えておく。あいつのことだ、『無理するなよ』くらいは言うだろうな。」
「想像できます。」
レオンも思わず笑った。
「王都の方には、こちらから話を通しておく。着いたらまずギルド本部に顔を出せ。」
「分かりました。」
バロンは少し間を置いてから、付け加えた。
「……あの手甲、大事にしろよ。何が起きるか分からん時代だ。」
運命ポイントや図鑑のことは知らなくても、バロンなりにレオンたちの背負っているものの大きさを、なんとなく察しているようだった。
「はい。」
レオンは静かに頷いた。
◇◆◇
王都へ向かう前に、レオンとリリアはベルン村に立ち寄ることにした。
久しぶりに見る村は、記憶よりも少しだけ小さく感じられる。
「ただいま。」
実家の扉を開けると、母が驚いた顔で振り返った。
「レオン! それにリリアちゃんも!」
妹のエマが真っ先に飛びついてくる。
「お兄ちゃん! 久しぶり!」
「エマ、大きくなったな。」
レオンはその頭を撫でながら、父の方へ視線を向けた。
父は寡黙にレオンを見つめ、小さく頷く。
「元気そうだな。」
「うん。」
短いやり取りだったが、それで十分だった。
夕食の席で、レオンは旅の出来事をかいつまんで話した。
古代の遺構、危険な魔物、そして王都からの招聘。
ガチャ師の詳しい仕組みまでは話さなかったが、それでも十分すぎる内容だった。
「最弱職なんて言われてたのに、王都から呼ばれるなんてねぇ。」
母がしみじみと呟く。
「まあ、色々あってな。」
レオンは曖昧に笑ってごまかした。
「本当に、何をしてきたのやら。」
母は半分呆れ、半分誇らしげな顔でそう言った。
「王都かぁ……。」
エマが目を輝かせる。
「お兄ちゃん、すごい人になっちゃうの?」
「さあ、どうだろうな。」
レオンは正直、そこにはあまり興味がなかった。
それよりも、王都にどんな図鑑の枠があるのか、そちらの方がずっと気になっている。
我ながら、変わらないものだと思う。
翌朝、村を出る二人を、家族総出で見送ってくれた。
「気をつけてね。」
「うん。」
「生きて帰ってこい。」
父の口癖は、今日も変わらなかった。
昔から変わらないその一言に、レオンは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
「わふっ!」
フェンも元気よく吠え、見送りに応える。
シスター・エレナが教会の前で小さく手を振っていた。
「立派になりましたね、レオン。」
「エレナさんのおかげです。」
レオンは深く頭を下げた。
あの日、片眼鏡の使い方を教えてもらわなければ、ここまで来ることはできなかった。
◇◆◇
村を出て、街道を歩き始めると、リリアがぽつりと言った。
「なんだかんだ、いい家族だよね。」
「ああ。」
レオンは素直に頷いた。
特別な感慨に浸るタイプではないが、それでも、大事な人たちだという実感はある。
「それより、王都までどれくらいかかるんだろうな。」
「気になるのそっち?」
リリアが呆れたように笑う。
「道中で何か拾えるかもしれないだろ。」
「はいはい、いつも通りだ。」
フェンも二人の間を、機嫌よく歩き回っていた。
見送ってくれたベルン村が、少しずつ遠ざかっていく。
二人と一匹は、王都への長い道のりを歩き始めた。
(第39話へ続く)
【あとがき】
第38話を読んでいただき、ありがとうございました!
王都行きを前に、ベルン村への里帰りを描きました。家族との再会、そして旅立ち。レオンらしく、感傷よりも好奇心が勝っている様子も見えたかと思います。
次回からいよいよ王都までの道のりが始まります。お楽しみに!




