第35話 中心への道
甲殻の魔物が、鋭い爪を振り上げる。
「散開!」
レオンの声に、二人と一匹はそれぞれ橋の左右へ跳んだ。
爪が石畳を叩き、破片が飛び散る。
巻き上がった砂埃の向こうで、魔物がこちらを睨みつけていた。
四本の脚が、橋板を軋ませながらじりじりと迫ってくる。
「硬そうな甲殻だな……。」
レオンは片眼鏡に魔力を込めた。
────────────────
【解析】
甲殻は非常に硬い
弱点:脚の付け根(継ぎ目)
────────────────
「脚の付け根が弱点か。」
「石の番人の時と、似たような弱点だね。」
リリアが苦笑する。
「わふっ!」
フェンがすでに動き出していた。
低い姿勢で橋の欄干沿いを駆け、魔物の側面へ回り込む。
魔物の爪が空を切り、橋の石材が大きく削れた。
「危ない……ッ!」
リリアが思わず声を上げる。
「大丈夫、あいつは見えてる。」
レオンの言葉通り、フェンは紙一重で爪をかわし、さらに距離を詰めていった。
「リリア、援護を!」
「うん!」
リリアが杖を構えた。
「ウィンドカッター!」
風の刃が、魔物の脚の一本をかすめる。
完全に切断とはいかないが、明らかに動きが鈍った。
「今だ、フェン!」
「わふっ!」
フェンが跳び上がり、脚の継ぎ目に鋭く噛みついた。
魔物が甲高い声を上げ、体勢を崩す。
その隙を、レオンは見逃さなかった。
橋の欄干を蹴り、魔物の背後から一気に距離を詰める。
「そこだ!」
ナイフの切っ先が、背の紋様めがけて突き刺さる。
紋様が一瞬強く輝き、次の瞬間には粒子となって崩れ始めた。
甲殻の魔物は、力なく橋の上に沈み込む。
やがてその姿は、旧採掘場の石の番人と同じように、静かに光となって消えていった。
「……終わった、か。」
レオンは息をつきながらナイフを収めた。
「うん。」
リリアが駆け寄る。
「フェン、すごかったね。」
「わふっ!」
フェンは誇らしげに尻尾を振った。
成長したばかりだというのに、動きには確かな伸びがある。
以前なら避けきれなかったような爪の一撃も、今日は危なげなくかわしていた。
レオンは目を細めた。
こいつも、着実に強くなっている。
自分だけじゃない。
仲間もちゃんと、前に進んでいる。
そう思うと、なんだか胸の奥が温かくなった。
◇◆◇
その場でレオンの前に、見慣れた表示が浮かんだ。
────────────────
【未確認種・討伐】
+15Pt
【新種登録】
+10Pt
【今回の獲得】
+25Pt
【運命ポイント】
32Pt → 57Pt
────────────────
「57Pt……。」
レオンは呟いた。
「100まで、あと少しじゃない?」
リリアが覗き込む。
「ああ。この調子なら、そう遠くないうちに届きそうだ。」
レオンは静かに拳を握った。
次のSSR確定ガチャで何が出るか。
考えるだけで、胸の奥が高鳴る。
◇◆◇
アルトに戻り、ギルドへ報告を済ませると、バロンが険しい顔で腕を組んだ。
「紋章持ちの未確認種、か。厄介な話だな。」
「地図から見えてきた『中心地点』とも、無関係じゃないと思います。」
レオンが簡易地図を広げると、バロンはしばらくそれを見つめていた。
「なるほどな。忘れられた洞窟、旧採掘場、廃教会、石橋……確かに、一箇所に向かって集まっているように見える。」
バロンは眉間に皺を寄せながら、地図の中心を指でなぞった。
「王都からの使者が来るまで、待った方がいい気もするが……。」
バロンは少し考えてから、レオンたちを見た。
「いや。お前たちなら、無茶はしないだろう。行くなら、日を改めて態勢を整えてからにしろ。ガレスにも同行を頼んでおく。」
「はい。」
レオンは頷いた。
地図の上、四つの紋章が示す先。
まだ誰も足を踏み入れていない、森の奥。
そこに何があるのか。
図鑑には、まだ埋まっていない枠がある。
その先を想像するだけで、レオンの心は静かに逸っていた。
宿への帰り道、リリアがふと呟いた。
「なんだかんだ言って、レオンって本当にガチャと図鑑のこと考えてる時が一番楽しそうだよね。」
「否定はできないな。」
レオンは素直に頷いた。
「命の危険がある場所に向かうのに、それでいいの?」
「いいんだよ、これが俺だから。」
夕暮れの空の下、二人と一匹は笑い合いながら宿への道を歩いていった。
(第36話へ続く)
【あとがき】
第35話を読んでいただき、ありがとうございました!
紋章持ちの未確認種を撃破し、運命ポイントは32Ptから57Ptへ大きく前進。100Ptまで、あと一歩というところまで来ました。
そしてついに、地図が示す「中心地点」へ向かう準備が整いつつあります。
次回、いよいよその場所へ足を踏み入れます。お楽しみに!




