第34話 もう一つの紋章
王都からの使者を待つ間も、依頼は溜まっていく。
ギルドの掲示板を眺めながら、リリアが一枚の紙を指さした。
「これ、どう?」
【古い街道の調査・依頼主:アルト冒険者ギルド】
依頼内容には、街道沿いの廃教会や古い橋の点検、周辺の安全確認とある。
「ちょうどいいかもな。」
レオンは頷いた。
旧採掘場と忘れられた洞窟。
二つの遺構に共通する星の紋章が、この街道にもあるかもしれない。
そんな予感があった。
依頼を受け取ろうとカウンターに向かうと、受付嬢が心配そうな顔をした。
「今日はガレスさんは……。」
「別の依頼で街を離れてます。」
「そうですか……。お気をつけて。」
「大丈夫です、フェンもいますから。」
レオンの足元で、フェンが自信ありげに胸を張った。
「わふっ!」
その様子に、受付嬢も思わず笑ってしまった。
◇◆◇
翌朝、レオンとリリア、フェンの二人(と一匹)は、古い街道へ向かった。
アルトの外に出ると、街の喧騒が嘘のように静かになる。
しばらく歩くと、街道の様子は少しずつ変わっていった。
道はところどころ石畳が崩れ、雑草に覆われている。
しばらく進むと、蔦に覆われた廃教会が見えてきた。
「ここ、依頼にあった場所だよね。」
「ああ。」
崩れかけた壁を片眼鏡で調べていくと、扉の上部に彫られた紋様が浮かび上がった。
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【解析】
星をかたどった紋章
旧採掘場・忘れられた洞窟と同型
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「やっぱり、あった。」
レオンは思わず声を上げた。
「本当に繋がってるんだね……。」
リリアが紋章に触れながら呟く。
教会の中は、長年放置されていたせいで屋根の一部が崩れ、床には落ち葉が積もっていた。
祭壇らしき台座には何も残っておらず、目立った異変も見当たらない。
それでも、レオンは念のため図鑑を開いて確認する。
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図鑑更新
《古代遺構》
廃教会が新規登録されました
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「また一つ、埋まった。」
小さくガッツポーズをするレオンを、リリアが呆れたように見る。
「こんな時まで、その調子なんだから。」
「これが俺の生きがいだからな。」
レオンは真顔でそう返した。
次に向かったのは、街道の途中にある古い石橋だった。
橋脚の根元、水面近くの石に、同じ紋章が刻まれている。
「ここにも。」
レオンは簡易地図を取り出し、これまで見つけた紋章の場所に印をつけていった。
忘れられた洞窟。
旧採掘場。
廃教会。
石橋。
四つの点を地図上で結んでみると、微妙に歪んだ円のような形が浮かび上がる。
「……この形、なんとなく中心がありそうじゃない?」
リリアが地図を覗き込みながら言った。
「言われてみれば。」
レオンは目を細めた。
四つの点から等距離とまではいかないが、おおよそ森の奥、まだ足を踏み入れていない一帯に、線が集まっていくように見える。
「もし本当に中心があるなら、そこが一番大きい遺構だったりして。」
リリアがそう言うと、レオンの目がわずかに輝いた。
「……その可能性、ちょっと楽しみだな。」
「絶対そう言うと思った。」
リリアが小さくため息をつきながらも、口元は笑っていた。
「今日はもう十分調べたし、これは持ち帰って考えよう。」
「そうだね。」
二人が地図をしまいかけた、その時。
フェンが突然、低く唸り声を上げた。
「わふっ……!」
「フェン?」
橋の下、川の対岸の茂みが、大きく揺れる。
姿を現したのは、これまで見たことのない魔物だった。
全身を覆う灰色の甲殻。四本の脚は、蟹のように節くれ立っている。
背には、うっすらと光る星の紋様。
「……あれも、紋章持ちか。」
レオンは息を呑んだ。
片眼鏡を構える。
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【未確認種】
危険度★★★★
紋章持ち カテゴリ:古代遺構関連
詳細不明
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「危険度4……。ロックホーンより上だ。」
「新種、ってこと?」
リリアが杖を構え直す。
「たぶんな。図鑑にも載ってない。」
レオンは口の端をわずかに上げた。
怖さより先に、図鑑が埋まる予感の方が勝っていた。
我ながら、単純なものだと思う。
「フェン、無理はするなよ!」
「わふっ!」
甲殻の魔物が、橋の下から這い上がってくる。
水しぶきを上げながら、四本の脚が石橋を叩く。
鋭い爪の先端が、石畳を軽々と削っていくのが見えた。
「あの爪、当たったら只では済まなそうだね。」
「ああ。距離を取りつつ、隙を探すぞ。」
レオンは腰のナイフに手をかけながら、周囲の地形を素早く見渡した。
橋の欄干、積まれた石材、そして川の流れ。
使えそうなものは、いくつかある。
その重い足音が、これから始まる戦いの厳しさを物語っていた。
(第35話へ続く)
【あとがき】
第34話を読んでいただき、ありがとうございました!
古い街道沿いの廃教会と石橋、どちらにも星の紋章を発見。地図に印をつけていくと、どうやらこの一帯には「中心」となる場所がありそうなことが見えてきました。
そして最後に現れたのは、紋章を背負った未確認の危険度★4の魔物。図鑑未登録の新種かもしれません。
次回、いよいよ本格的な戦闘です。お楽しみに!




