第33話 ギルドと王都からの影
アルトに着く頃には、街の明かりがちらほらと灯り始めていた。
冒険者ギルドの扉を開けると、受付嬢がすぐに気付いて駆け寄ってくる。
「お帰りなさい! 旧採掘場の様子は……」
そこまで言いかけて、レオンたちの表情を見て言葉を止めた。
「……何か、あったんですね。」
「はい。少し、大きな話になりそうです。」
レオンは収納鞄から石版の欠片――いや、正確には持ち帰れる範囲で写し取った拓本を取り出した。
旧採掘場の奥で見つかった星の紋章、石の番人との戦闘、そして新たに解放された図鑑カテゴリ《古代遺構》。
順を追って説明すると、受付嬢の顔がみるみる強張っていった。
「……少々お待ちください。支部長を呼んできます。」
「支部長?」
リリアが目を丸くする。
「ここまでの話になると、私の一存では判断できません。」
受付嬢は足早に奥へと消えていった。
◇◆◇
しばらくして現れたのは、白髪交じりの初老の男だった。
落ち着いた物腰だが、目つきには長年冒険者ギルドを取り仕切ってきた者特有の鋭さがある。
「アルト支部長のバロンだ。話は聞かせてもらった。」
バロンはガレスへ視線を向ける。
「ガレス、お前も同行していたそうだな。」
「ええ。俺の目から見ても、只事じゃない代物でした。」
「そうか……。」
バロンはしばらく黙り込んだ後、レオンとリリアへ向き直った。
「率直に言おう。この規模の遺構発見は、アルト支部だけで抱えていい案件じゃない。」
「王都、ですか。」
レオンが静かに尋ねる。
「察しがいいな。」
バロンは頷いた。
「星の紋章、古代の言葉、そこを守っていた人型の魔物――お前たちの話を聞く限り、これはただの遺跡発掘じゃない。国としても、放っておける話じゃないだろう。」
バロンは腕を組み、少し考えるように目を細めた。
「それに、以前お前たちが見つけた《忘れられた洞窟》と同じ紋章、というのも引っかかる。あれと今回の場所、間違いなく何か繋がりがある。」
「俺も、そう思います。」
レオンは静かに頷いた。
忘れられた洞窟で見た壁画。
そこに描かれていたのは、今のガチャ師とは違う、英雄として扱われていた誰かの姿だった。
(図鑑に新しいカテゴリが増えたことも、あの紋章と関係があるんだろうな。)
その考えは、口には出さなかった。
図鑑や運命ポイントのことは、まだリリア以外の誰にも話していない。
「実を言うと、似たような報告が最近、別の地方からも王都へ上がっている。星の紋章を持つ古い遺構が、各地でぽつぽつと見つかり始めているそうだ。」
「各地で……。」
リリアが息を呑む。
「王都はすでに、専門の調査団を編成しているという噂もある。中には……《勇者》パーティも関わっているとか。」
「勇者……。」
レオンの頭に浮かんだのは、村で一緒だったアレスの顔だった。
「そういえば、同じ村にSSR《勇者》を授かった奴がいるんです。」
「知り合いか?」
「幼なじみ、というほどでもないですけど、同じ村の出身です。」
特別な感慨があるわけではない。
ただ、あいつも頑張ってるんだな、くらいの気持ちだった。
それよりも今のレオンの頭を占めているのは、《古代遺構》という新しい図鑑カテゴリの方だった。
バロンは二人のやり取りには気付かず、話を続ける。
「近いうちに、王都から正式な使者が来るだろう。今回の発見者であるお前たちにも、話を聞きたいと言ってくるはずだ。」
「俺たちに、ですか。」
「当然だ。実際に足を運び、戦い、発見したのはお前たちなんだからな。」
バロンは静かに、しかしはっきりと言った。
「心の準備だけは、しておくといい。」
◇◆◇
宿に戻る道すがら、フェンがいつもより静かだった。
「フェン? どうした?」
レオンが覗き込むと、フェンは小さく身震いした。
「わふ……。」
その瞬間、フェンの身体をうっすらと淡い光が包んだ。
「な……!?」
驚いて足を止めるレオンとリリアの前で、光はすぐに収まる。
フェンの体は、ほんの少しだけ――だが確かに、一回り大きくなっていた。
「フェン、大きくなった……?」
リリアが目を見張る。
毛並みも心なしか艶を増し、瞳の色がわずかに濃くなったように見える。
子犬らしいあどけなさは残っているものの、佇まいのどこかに、少しだけ精悍さが加わっていた。
レオンは慌てて図鑑を開いた。
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【フェン】
召喚獣・ウルフ系
成長段階:幼体 → 若年体
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「成長したのか。」
レオンは思わず微笑んだ。
「今日、色々あったからかな。」
「かもな。」
フェンは自分の変化にまだ戸惑っている様子で、前足を見つめたり、身体を左右に揺すったりしていた。
「わふっ?」
「大きくなったんだよ、お前。」
レオンがしゃがんで頭を撫でると、フェンは嬉しそうに尻尾を振った。
◇◆◇
その夜、レオンは宿の寝台でいつもの画面を開いた。
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無料10連
READY
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白い空間に、黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱。
白、白、白、白、白、青、白、白、白、白。
「今日はRが一つ、か。」
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【NEW】
《旅の携行食》(R)
日持ちがよく、栄養価の高い保存食。
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地味な結果だったが、レオンは気にせず鞄にしまった。
今日はそれよりも、大きな出来事がありすぎた。
旧採掘場、古代遺構、そして――王都。
隣の寝台では、リリアがすでに静かな寝息を立てている。
床の隅では、一回り大きくなったフェンが丸くなって眠っていた。
窓の外には、静かな夜空が広がっている。
王都かぁ、とレオンは思う。
正直、行った先で何が待っているかより、《古代遺構》の図鑑がどこまで埋まるのか、そっちの方がずっと気になっていた。
あの石版の続き、まだ見ぬ遺構、そして――もしかしたら、新しいガチャ演出。
考え始めると、なかなか寝付けそうにない。
レオンは布団の中で小さく笑いながら、ゆっくりと目を閉じた。
(第34話へ続く)
【あとがき】
第33話を読んでいただき、ありがとうございました!
旧採掘場での発見をギルドに報告したところ、話は一気に大きくなり、ついに王都の名前が出てきました。
各地で見つかり始めている古代遺構、そしてその調査に関わっているという《勇者》の存在。レオンと同郷のアレスも、王都でどこかに関わっているのかもしれません。
フェンも一段階成長し、パーティに新たな変化が訪れています。
次回、第34話もお楽しみに!




