第31話 石の番人
旧採掘場から戻ったレオンたちは、その足で冒険者ギルドへ向かった。
カウンターの向こうで報告を聞いた受付嬢は、途中で何度も手を止めた。
「シャドウラットの群れに、危険度★★★の《ロックホーン》……。旧採掘場に、そんな大物が潜んでいたんですね。」
「あそこは長年、放置されていた場所のはずなんですが……。」
受付嬢は困惑した様子でペンを走らせる。
「奥に、まだ何かありそうな雰囲気だった。」
レオンが正直に伝えると、受付嬢は少し考えてから、カウンターの奥へ引っ込んだ。
戻ってきた手には、色あせた台帳が一冊。
「旧採掘場について、古い記録を確認してみました。閉鎖されたのは、今から三十年ほど前のようです。」
「三十年……。」
リリアが呟く。
「表向きの理由は『採算が合わなくなったため』となっていますが……。」
受付嬢はページをめくりながら、眉をひそめた。
「その割には、閉鎖の決定がずいぶん急だったみたいで。当時の記録も、途中からほとんど残っていないんです。」
「何かを隠してる、みたいな感じですね。」
ガレスが横から台帳を覗き込み、腕を組む。
「そう見えなくもないな。」
レオンは片眼鏡の縁にそっと触れた。
忘れられた洞窟。星の紋章。そして、記録の消えた採掘場。
それぞれがばらばらの出来事だとは、もう思えなくなっていた。
「明日、もう一度行ってみます。」
「気を付けてくださいね。念のため、ガレスさんにも同行をお願いしておきます。」
「もとよりそのつもりだ。」
ガレスが軽く肩をすくめる。
「ありがとうございます。」
三人はギルドを後にした。
◇◆◇
宿に戻る頃には、日はすっかり暮れていた。
フェンは夕食を食べ終えると、部屋の隅で丸くなり、あっという間に寝息を立て始めた。
「今日もよく動いたもんな、お前。」
レオンは苦笑しながら、その頭を軽く撫でる。
寝台に腰かけ、静かに目の前へ画面を開いた。
毎日この瞬間だけは、前世の癖が抜けない。
どんなに疲れていても、この十連だけは絶対に見逃したくない。
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無料10連
READY
運命ポイント 7Pt
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白い空間に、見慣れた黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱が立ち上る。
白、白、白、青、白、白、白、青、白、白。
「今日はRが二つ、か。」
光が収まり、カードが姿を現す。
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【NEW】
《採掘用ランタン》(R)
魔石を灯りに変換する携帯用ランプ。
坑道内でも安定した明るさを保つ。
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【NEW】
《耐震のブーツ》(R)
わずかな振動や落石の予兆を足裏に伝える。
崩落地帯での探索に適する。
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「……これ、絶対明日使えって言われてる気がする。」
レオンは思わず笑ってしまった。
残りはNランクの食料や薬草類、それに火口用の火打ち石。地味だが、旅を支える大切な補充品だ。
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【運命ポイント】
7Pt(変動なし)
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今日は討伐がなかったぶん、ポイントの増加はない。
それでも、装備は着実に整っている。
「明日は、これを試す番か。」
レオンは新しい装備を魔導収納鞄へしまうと、静かに目を閉じた。
◇◆◇
翌朝、レオンとリリア、そしてガレスは、フェンを連れて旧採掘場へ向かった。
「例の反応があった場所まで案内してくれ。」
ガレスの言葉に、レオンは頷いて先を歩き出す。
昨日と同じ道をたどり、ロックホーンと戦った広間を抜ける。
その先――昨日は片眼鏡でしか捉えられなかった、奥へと続く道。
新しいランタンの光が、これまでよりずっと広く坑道を照らし出す。
耐震のブーツが、かすかな振動を足裏に伝えてきた。
「……この先、少し不安定だ。」
ガレスが低い声で言う。
「気を付けて進もう。」
三人と一匹は、慎重に暗闇の奥へと足を進めた。
道は徐々に狭くなり、天井も低くなっていく。
やがて、坑道の壁に彫り込まれた模様が、ランタンの光に浮かび上がった。
星をかたどった紋様。
忘れられた洞窟で見たものと、まったく同じ形だった。
「これ……。」
レオンは思わず足を止める。
「知ってる紋様か?」
ガレスが尋ねた。
「はい。前に見つけた、隠し洞窟にあったものと同じです。」
リリアも壁に近づき、紋様をなぞるように見つめる。
「まさか、繋がってるの……?」
誰も、すぐには答えられなかった。
石壁には他にも、擦り減った文字らしきものが刻まれている。
片眼鏡を向けても、判読できたのはわずか数文字。
――守ル者、番、眠リ。
その断片だけが、闇の中に浮かび上がった。
その時だった。
カツン、と乾いた音が、奥の暗闇から響いた。
石を打つような、硬質で規則的な音。
カツン。
カツン。
フェンが低く唸り、三人の前へ進み出る。
「わふ……!」
「来るぞ。」
ガレスが剣を抜いた。
ランタンの灯りの端に、灰色の輪郭が浮かび上がる。
高さはレオンの腰ほど。両腕の先は、鋭く尖った石の刃になっている。
胸の中央には、淡く光る星の紋様。
それは、忘れられた洞窟で戦った《星の番人》と、どこか似た姿をしていた。
「キィィン……ッ!」
金属を擦り合わせたような甲高い声が、坑道に響き渡る。
石の身体が、ぎこちなく――しかし確かな意思を持って動き出す。
「小型版、ってところか。」
レオンはナイフを構えた。
「油断するな。動きは遅くても、あの腕に当たれば只では済まん。」
ガレスが前へ出る。
「はい!」
リリアが杖に魔力を込めた。
石の番人が、両腕を大きく振り上げる。
その刃の先が、坑道の天井を掠め、パラパラと小石を降らせた。
「散開だ!」
ガレスの声と同時に、三人と一匹はそれぞれの方向へ動き出した。
ガレスの剣が石の腕を受け止める。
鈍い衝撃音とともに、火花が散った。
「重いな……ッ。見た目より力がある!」
「リリア、右から!」
「うん!」
レオンの声に応じ、リリアが風魔法を放つ。
「ウィンドカッター!」
空を切る刃が、石の番人の脇腹に食い込んだ。
だが、表面が削れただけで、大きなダメージには見えない。
「硬い……ッ。」
フェンが低い姿勢のまま、石の番人の足元へ回り込む。
「わふっ!」
鋭い牙が、脚の継ぎ目に噛みついた。
石の番人の動きが、わずかに乱れる。
「そこか……!」
レオンは片眼鏡に魔力を込めた。
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【石の番人(小型)】
古い遺跡を守るために作られた、意思を持つ石像。
急所:胸部の紋章。
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「胸だ! 紋章のところが弱点だ!」
「了解!」
ガレスが石の番人の視界を塞ぐように前へ出た瞬間、胸の紋章が一段と強く輝いた。
まるで、こちらの言葉に反応したかのように。
(第32話へ続く)
【あとがき】
第31話を読んでいただき、ありがとうございました!
旧採掘場の奥で見つかったのは、忘れられた洞窟と同じ星の紋章。そして、そこを守るように現れた小型の石の番人でした。
ギルドの記録にも残っていない、旧採掘場閉鎖の本当の理由。二つの遺跡を繋ぐ紋章の意味。次回、その手がかりに少しずつ近づいていきます。
次回、第32話もお楽しみに!




