第30話 旧採掘場へ
翌朝。レオンたちは朝食を済ませると、宿を出た。昨日手に入れた簡易地図を片手に、アルトの外へ向かう。
「今日はここだね。」
「旧採掘場か。どんな場所なんだろうな。」
「行ってみれば分かるよ。」
フェンが二人の前を歩きながら、時々振り返る。
「フェン、今日は迷子になるなよ。」
「わふっ!」
街を出てしばらくすると、昨日歩いた街道とは別の道へ入った。道幅は狭く、ところどころ草が伸びている。人があまり通っていないのは見れば分かった。
「本当にこっちで合ってる?」
「地図だと合ってる。」
レオンは何度か地図を確認しながら進む。
森が近づくにつれて、鳥の声が少なくなっていった。昨日、集落で聞いた話を思い出す。
「……静かだな。」
「昨日の人が言ってたこと、ちょっと分かる気がする。」
リリアが周囲を見る。
フェンも足を止め、森の奥を見つめている。
「また何か感じた?」
「わふ……。」
レオンは片眼鏡を取り出した。
「一応、見てみるか。」
森の入口へ近づき、片眼鏡を覗く。
魔力の流れに、特に変わったところはない。
「今のところは大丈夫そうだ。」
「じゃあ行こう。」
三人はそのまま森の中へ入った。
しばらく進むと、木々の間から古びた建物が見えてきた。崩れかけた木造の小屋と、岩肌に開いた大きな穴。
「……あれかな。」
「たぶん。」
レオンは地図を見る。
印の場所と一致している。
「旧採掘場、到着。」
フェンが先に近づき、入口の前で匂いを嗅ぐ。
「わふ……。」
「何かいる?」
フェンは答えず、暗い坑道の中を見つめた。
レオンも入口へ近づく。
中は真っ暗だった。
「入ってみる?」
「昨日みたいなことがあるかもしれないよ。」
「それは分かってる。」
レオンは腰のナイフを確認する。
「だから、慎重に行こう。」
リリアが頷く。
「うん。」
三人は坑道へ足を踏み入れた。
入口から少し進むと、壁に古い採掘道具が残されていた。木箱もいくつかあるが、ほとんどが壊れている。
「ずっと使われてないみたいだね。」
「かなり古そうだ。」
レオンが壁へ片眼鏡を向ける。
その時だった。
フェンが突然、低く唸った。
「……わふ。」
「また?」
レオンが振り返る。
フェンは前方ではなく、足元を見ていた。
レオンも視線を落とす。
薄暗い地面に、小さな黒い跡が残っている。
「これ……。」
指で触れることはせず、片眼鏡を近づける。
表示が浮かんだ。
────────────────
【不明な魔力痕】
微量の魔力が残留しています。
詳細不明。
────────────────
レオンは黙った。
侵食核で見た黒い魔力とは違う。
だが、完全に無関係とも言い切れない。
「どうしたの?」
「……ちょっと気になる。」
レオンは前方を見る。
坑道の奥は、まだ暗い。
そして。
奥から、かすかな音が聞こえた。
コツ。
コツ。
何かが、石を踏むような音だった。
レオンは音のした方向へ視線を向けた。
「今の、聞こえた?」
「うん。」
リリアが杖を構える。
フェンは二人の前へ出た。耳を立て、坑道の奥を睨んでいる。
「フェン、無理はするなよ。」
「わふ。」
三人はゆっくりと進んだ。足元には古い石や木材が散らばっている。奥へ進むほど坑道は狭くなり、壁には掘りかけの跡が残っていた。
コツ。
また音がした。
今度は近い。
レオンが足を止める。
暗闇の向こうで何かが動いた。
「来る。」
フェンが飛び出した。
「わふっ!」
黒い影が横から飛び出し、フェンとぶつかる。小さな身体が転がった。
「フェン!」
レオンが駆け寄る。
影はそのまま坑道の奥へ走っていった。
「待て!」
レオンが追いかける。
「レオン、危ない!」
リリアの声が後ろから飛んでくる。
だが、影はすぐに暗闇へ消えた。
レオンは足を止める。
「……速い。」
フェンが戻ってきた。
「怪我は?」
「わふ。」
フェンは元気そうに尻尾を振った。
「よかった。」
レオンが頭を撫でる。
リリアが追いついてくる。
「何だった?」
「分からない。小さかったけど、動きが速すぎて見えなかった。」
レオンは片眼鏡を構えた。
その瞬間、坑道の奥に小さな反応が浮かんだ。
「……いた。」
暗闇の中に、二つの目が光る。
今度は逃げない。
レオンがナイフを構える。
「リリア。」
「うん。」
「フェンは俺の横で。」
「わふ。」
影がこちらへ飛び込んできた。
レオンは横へ避ける。
リリアの風が走った。
「《風刃》!」
魔物が地面へ着地する。
フェンがすぐに飛びかかり、魔物の動きを止めた。
「今!」
レオンが踏み込む。
ナイフが魔物の身体を捉えた。
「ギャッ!」
魔物が倒れる。
しばらく待ったが、動かない。
「倒した……?」
リリアが近づく。
「片眼鏡で確認する。」
レオンが覗き込む。
────────────────
【シャドウラット】
暗い場所を好む小型魔物。
警戒心が強く、群れで行動する。
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「シャドウラット。」
「一匹だけだったのかな?」
「どうだろう。」
レオンが周囲を見る。
すると、坑道の奥から小さな音が聞こえた。
カサ。
カサカサ。
「……一匹じゃないな。」
暗闇の中で、いくつもの小さな目が光った。
「いっぱい……。」
リリアが息を呑む。
「逃げた方がいい?」
「いや。」
レオンは少し考えた。
数は多い。
でも、こちらを襲う様子はない。
シャドウラットたちは、レオンたちではなく坑道のさらに奥を気にしている。
「何かから逃げてるのか?」
その瞬間。
坑道の奥から、低い音が響いた。
ゴゴゴ……。
地面が小さく震える。
シャドウラットたちが一斉に走り出した。
「何だ?」
レオンたちも身構える。
坑道の奥。
暗闇の中から、何か大きなものがゆっくりと近づいてくる。
フェンが唸った。
「わふ……。」
レオンはナイフを握り直した。
「今度は、さっきの奴とは違うな。」
暗闇の中で、二つの赤い光が浮かび上がった。
坑道の奥で、二つの赤い光がゆっくりと近づいてくる。レオンはナイフを握り直した。
「リリア、下がって。」
「うん。」
フェンが二人の前へ出る。耳を立て、暗闇を睨んでいる。
「フェン、無理するなよ。」
「わふ。」
赤い光が大きくなる。やがて暗闇から姿を現したのは、巨大な獣だった。四本の脚に灰色の硬そうな皮膚。そして頭部から伸びた二本の角。
「……でかい。」
レオンが星詠みの片眼鏡を向ける。
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【ロックホーン】
岩場を好む大型魔物。
非常に頑丈な身体を持ち、角による突進攻撃を得意とする。
危険度:★★★☆☆
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「星三つ……。」
レオンが息を呑む。ロックホーンが地面を蹴った。
「来る!」
巨体が一直線に突っ込んでくる。
「右!」
レオンとリリアが左右へ飛ぶ。ロックホーンが壁へ激突し、坑道全体が揺れた。
「この場所で戦うのはまずい!」
「外へ誘導しよう!」
レオンはロックホーンの前へ走った。
「こっちだ!」
ナイフを振って注意を引く。ロックホーンが再び突進してきた。
レオンは直前で横へ飛ぶ。そのままロックホーンの横を抜け、出口へ向かって走る。
「リリア!」
「分かってる!」
リリアが風魔法を放つ。
「《風刃》!」
風の刃がロックホーンの脚を切り裂いた。
「グォォッ!」
ロックホーンが体勢を崩す。その隙にフェンが飛びかかった。
「わふっ!」
フェンが足へ噛みつく。
「そのまま!」
レオンが背後へ回る。
ロックホーンが身体を大きく振った。
「フェン!」
フェンが吹き飛ばされ、地面を転がる。
「大丈夫か!」
「わふっ……。」
フェンはすぐに立ち上がった。
「よし。」
レオンはロックホーンへ向き直る。
「リリア、もう一度!」
「うん!」
リリアが魔力を集中させる。
レオンもナイフを構えた。
「いくぞ!」
風の刃がロックホーンの動きを止める。
その瞬間、レオンが懐へ入り込んだ。
「これで!」
ナイフを突き立てる。
「グォォォッ!」
ロックホーンが大きく身体を震わせる。
そして。
ドォン!
巨体が地面へ倒れた。
坑道に静寂が戻る。
「……倒した?」
「片眼鏡で確認する。」
レオンが覗き込む。
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【ロックホーン】
討伐済み
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「倒した。」
「やった!」
リリアが笑う。
「わふっ!」
フェンも嬉しそうに尻尾を振った。
レオンはその場に座り込む。
「疲れた……。」
その時だった。
倒れたロックホーンの身体から、小さな光が浮かび上がった。
「……?」
光はゆっくりとレオンへ近づき、そのまま消える。
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【運命ポイント】
6Pt → 7Pt
【今回の獲得】
+1Pt
獲得理由
・危険度★★★☆☆の魔物を討伐
・討伐による周辺への脅威排除
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「1ポイントか。」
レオンは表示を確認する。
「これで7Pt。」
100Ptまで、まだ先は長い。
それでも、SSR確定ガチャをもう一度使うためには、少しずつでも貯めていくしかない。
「今日はもう十分じゃない?」
リリアが言う。
「そうだな。」
レオンは立ち上がった。
「今日は戻ろう。」
「うん。」
フェンが先に歩き出す。
「わふっ!」
「お前は元気だな。」
レオンは笑いながら、その後を追った。
三人は来た道を戻り、旧採掘場を後にした。
帰り道、レオンは一度だけ振り返る。
古びた採掘場は、夕暮れの森の中で静かに佇んでいた。
まだ何かが隠れているような気もする。
けれど、今は確かめる必要はない。
「明日また来るか考えよう。」
「そうだね。」
レオンたちはそのままアルトへの道を歩き始めた。
◇◆◇
【あとがき】
第30話を読んでいただき、ありがとうございました!
今回は旧採掘場で《シャドウラット》と《ロックホーン》に遭遇しました。
ロックホーンを討伐し、運命ポイントは6Ptから7Ptへ。
100Ptまではまだまだ遠いですが、少しずつ貯めていきます。
旧採掘場にはまだ気になる部分も残っています。
次回、レオンたちはアルトへ戻り、次の冒険へ。
第31話もお楽しみに!




