第23話 冒険者としての一歩
アルトの街が見えてきた頃には、すっかり日が傾いていた。
レオンは歩きながら、何度目か分からないため息をつく。
「疲れた……。」
「顔に出てるよ。」
隣を歩くリリアが笑った。
「リリアだって疲れてるだろ。」
「私はまだ大丈夫。」
「本当か?」
「……ちょっとだけ疲れた。」
そう言って、リリアは小さく笑う。
レオンもつられて笑った。
昨日は薬草を採るだけのつもりだった。
それがブラッドファングウルフに襲われ、黒い結晶を見つけて。
今日はその先にあった洞窟へ入り、訳の分からない魔物と戦った。
冒険者になってから、まだたいして日が経っていない。
なのに、妙に濃い毎日を送っている気がする。
「ほら、ぼーっとしてないで行くぞ。」
前を歩いていたガレスが振り返る。
「ギルドへの報告が残っている。」
「はい!」
三人はそのまま冒険者ギルドへ向かった。
◇◇◇
ギルドの扉を開ける。
夕方の時間帯ということもあり、中には帰還した冒険者たちが多かった。
受付へ向かうと、昨日の受付嬢がすぐに気付いた。
「お帰りなさい!」
笑顔で声を掛けたものの、三人の姿を見るなり表情が変わる。
「……その様子、何かありました?」
「かなりあった。」
ガレスが答えた。
「詳しく話す。」
受付嬢がすぐに姿勢を正す。
「はい。お願いします。」
ガレスは昨日発見した裂け目のことから話し始めた。
黒い魔力。
洞窟。
内部で発見した魔物。
そして、最奥にあった《侵食核》。
「侵食核を破壊したあと、洞窟そのものが崩れた。」
「……。」
受付嬢は黙ったまま話を聞いている。
「外へ出た時には、裂け目は完全に塞がっていた。黒い魔力も確認できない。」
「分かりました。」
受付嬢は急いで帳簿へ書き込んでいく。
「それで……討伐した魔物というのが?」
レオンは魔導収納鞄から素材を取り出した。
「これです。」
カウンターへ置かれた黒い毛。
そして牙。
受付嬢が目を見開く。
「これは……。」
「《侵食獣》です。」
レオンが答える。
「星詠みの片眼鏡では、そう表示されました。」
受付嬢は素材を見つめたまま固まっている。
「……星四つ。」
「はい。」
「少々お待ちください!」
受付嬢は素材を抱えて奥へ走っていった。
「忙しいな。」
ガレスが苦笑する。
「そりゃ驚きますよ。」
レオンも苦笑した。
しばらくすると、受付嬢が別の職員を連れて戻ってきた。
二人は素材を確認し、何度か顔を見合わせる。
「間違いありません。」
受付嬢が言った。
「《侵食獣》の討伐、正式に確認します。」
その言葉と同時に、レオンの目の前に見慣れた表示が浮かんだ。
────────────────
【運命ポイント】
99Pt
↓
100Pt
【今回の獲得】
+1Pt
獲得理由
・異変に関する情報提供
・人々への貢献
────────────────
「……100。」
レオンは思わず呟いた。
「どうしたの?」
リリアが覗き込む。
「運命ポイントが100になった。」
「本当だ!」
リリアが嬉しそうに笑う。
レオンも表示を眺める。
運命ポイントが増えるほど、ガチャの結果が良くなる。
それはもう分かっている。
100Ptという数字に、特別な意味があるとは知らない。
ただ。
「これで、次のガチャも少し期待できるかな。」
「きっといいの出るよ。」
リリアが笑う。
レオンも頷いた。
「そうだといいな。」
受付嬢が二人を不思議そうに見ている。
「お二人とも、何かありました?」
「いえ、こっちの話です。」
レオンは表示を消した。
「それより、報酬の話を聞いてもいいですか?」
「はい!」
受付嬢が帳簿を開く。
「今回の報酬ですが……かなり特殊な案件でしたので、通常の依頼報酬とは別に特別報酬が出ます。」
「特別報酬?」
「はい。」
銀貨を数える音が、カウンターに響き始めた。
レオンは並べられていく銀貨を見つめる。
冒険者になって、まだ間もない。
それでも。
自分たちがやったことが、ちゃんと誰かの役に立った。
その実感が、少しずつ胸に広がっていった。
受付嬢が銀貨を数え終える。
「今回の報酬は、依頼達成分を含めて銀貨三十枚です。それと、素材の買い取りがこちらになります」
さらに銀貨が追加された。
「素材の買い取りは銀貨十五枚。合計で銀貨四十五枚です」
「四十五枚……。」
レオンは思わず呟いた。
初めての依頼でもらった報酬は銀貨八枚だった。
それが今回は四十五枚。
「こんなにもらっていいんですか?」
「それだけ危険な仕事だったということです」
受付嬢は苦笑する。
「普通なら、E級冒険者が受けるような仕事ではありませんから」
レオンは銀貨を魔導収納鞄へしまった。
重みがある。
それが妙に嬉しかった。
「ガレスさんも、ありがとうございました」
「礼を言われるようなことはしていない」
ガレスは首を振る。
「お前たちが自分で戦った結果だ」
「でも、何度も助けてもらいました」
「なら、次は助けられないように強くなれ」
ガレスはそう言って、レオンの肩を軽く叩いた。
「冒険者を続けるならな」
「……はい!」
レオンは頷いた。
ガレスは満足そうに笑うと、ギルドの出口へ向かう。
「俺は別の報告がある。またな」
「ありがとうございました!」
リリアと二人で頭を下げる。
ガレスは手を上げただけで、そのままギルドを出ていった。
「行っちゃったね。」
「ああ。」
「でも、いい人だったね。」
レオンは少し考える。
「怖いけどな。」
「それは分かる。」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇◇◇
ギルドを出ると、すっかり夕暮れになっていた。
街を歩きながら、レオンは今日一日のことを思い返していた。
昨日までは、薬草を採るだけのつもりだった。
それが今では、ギルドから特別報酬まで受け取っている。
「冒険者になったんだな。」
「今さら?」
「いや……なんとなく。」
リリアが笑う。
「私は昨日からそう思ってたよ。」
「昨日はブラッドファングウルフに襲われただろ。」
「それも含めて冒険者じゃない?」
「そうかもしれない。」
二人は宿へ戻った。
部屋へ入ると、レオンはベッドへ腰を下ろす。
「疲れた……。」
「今日は早く寝た方がいいね。」
「そうする。」
リリアも荷物を置く。
その時。
レオンがふと顔を上げた。
「……あ。」
「どうしたの?」
「まだ引いてない。」
「何を?」
「無料十連。」
「あっ!」
リリアの顔が明るくなる。
「今日まだだった!」
「危ないところだった。」
レオンは笑った。
毎日一回の無料十連。
冒険で疲れていても、これだけは忘れたくない。
「じゃあ、今日も引こう。」
「うん!」
レオンはいつものように手をかざす。
「無料十連、開始」
視界が白く染まった。
次の瞬間。
いつもの白い空間。
目の前に巨大な本が現れる。
ページがゆっくりと開いていく。
白。
白。
青。
白。
青。
レオンはページをめくっていく。
────────────────
【無料10連】
《登録済》
・保存食
・水袋
・火打石
・薬草
・回復薬
・丈夫なロープ
・携帯食器
・小型ナイフ
・魔石(小)
────────────────
最後の一枚。
青い光が広がった。
────────────────
★★☆☆☆
《防水布》
雨や水をある程度防ぐことができる布。
【NEW】
────────────────
「今日はこれか。」
「便利そうじゃん。」
「うん。冒険には使えそうだ。」
レオンは防水布を手に取る。
ガチャの結果を確認し終えると、いつものように本が閉じる。
これで終わり。
そう思った。
だが。
白い空間が消えない。
「……?」
レオンが顔を上げる。
「どうしたの?」
「いや……。」
巨大な本が、閉じたはずのページを再び開いた。
今までとは違う。
ページが一枚。
また一枚。
勝手にめくられていく。
「何これ……?」
リリアの声が小さくなる。
レオンも答えられない。
やがて本の動きが止まった。
目の前に、見たことのない文字が浮かび上がる。
────────────────
【条件達成】
運命ポイント
100Pt
────────────────
「条件……?」
レオンが呟く。
その下に、さらに文字が現れる。
────────────────
【新機能解放】
────────────────
ページがゆっくりと開く。
その先から、今までとは比べものにならないほど強い光が溢れ出した。
白い光。
金色の光。
そして、その中心に四つの星が浮かび上がる。
────────────────
★★★★☆
【SSR確定ガチャ】
解放
────────────────
「……SSR?」
レオンは目を見開いた。
リリアも言葉を失っている。
これまで何度もガチャを引いてきた。
その中で、一番上だったのはSR。
だが。
今、目の前にあるのは、そのさらに上だった。
「SSR確定……。」
レオンがゆっくり呟く。
すると最後に、一つの表示が現れた。
レオンは表示を見つめた。
────────────────
【SSR確定ガチャ】
ガチャを開始しますか?
▶ はい
いいえ
────────────────
「SSR……確定。」
その言葉を、もう一度口にする。
今まで引いてきたガチャで、一番上だったのはSRだった。
それより上。
しかも、確定。
見たことのない文字が、目の前に浮かんでいる。
「レオン。」
リリアも画面を覗き込んでいる。
「これ……すごいんじゃない?」
「たぶん。」
レオンは頷いた。
運命ポイントが増えるほど、ガチャの結果が良くなる。
それは今までの経験で分かっている。
でも、こんな機能が隠されていたなんて知らなかった。
「何が出るんだろうね。」
「分からない。」
レオンは表示を見つめた。
武器かもしれない。
道具かもしれない。
もしかしたら、今まで見たこともない何かが出てくるのかもしれない。
考えているだけで、少し胸が高鳴る。
レオンは表示へ手を伸ばした。
指先が「はい」の文字へ近づいていく。
あと少し。
その時。
「待って。」
リリアがレオンの手を止めた。
「どうした?」
「せっかくだから、ちゃんと休んでからにしようよ。」
「……。」
レオンは少し考えた。
確かに今日は朝から洞窟へ入り、強敵と戦い、街まで戻ってきた。
さすがに疲れている。
「それもそうだな。」
手を引っ込める。
巨大な本は静かに閉じていく。
白い空間も、少しずつ薄れていった。
「明日、引こう。」
「うん。」
最後にもう一度だけ、表示を見る。
────────────────
【SSR確定ガチャ】
解放済み
────────────────
レオンは笑った。
「明日が楽しみだ。」
次の瞬間、視界が白く染まった。
◇◇◇
気が付くと、宿の部屋へ戻っていた。
窓の外はすっかり暗い。
レオンはベッドへ腰を下ろした。
「今日は本当に色々あったな。」
「うん。」
リリアも椅子へ腰掛ける。
冒険者になった。
初めて依頼を受けた。
異常な魔物と戦った。
黒い洞窟へ入り、侵食核を破壊した。
そして今まで知らなかったガチャの新機能まで見つかった。
「明日、どうなるんだろうね。」
「さあ。」
レオンは笑う。
「でも、楽しみだ。」
リリアも頷いた。
「私も。」
窓の外では、アルトの街に明かりが灯っている。
レオンはベッドへ横になった。
明日になれば、あのガチャを引ける。
今まで見たことのない、SSR確定ガチャを。
その先に何が待っているのか。
まだ、誰にも分からない。
ただ一つ。
レオンの冒険は、これからも続いていく。
◇◆◇
【あとがき】
第23話を読んでいただき、ありがとうございました!
今回、ついに運命ポイントが100Ptに到達し、新機能《SSR確定ガチャ》が解放されました!
ですが、今回はまだガチャを引きません。
いったい何が出てくるのか。
次回から新たな章が始まります。
これまでとは違うガチャの結果を、ぜひお楽しみに!




