第22話 侵食核
グルルルル……。
低い唸り声が広間に響く。
レオンは短剣を握ったまま、目の前の魔物から視線を外さなかった。
大きい。
昨日戦ったブラッドファングウルフとは比べものにならない。
黒い毛並みの隙間から、赤い光が覗いている。
「来るぞ!」
ガレスが叫んだ。
次の瞬間、巨体が地面を蹴った。
「速っ!」
レオンが横へ飛ぶ。
直後、さっきまで立っていた場所を爪が薙ぎ払った。
ドンッ!
岩壁が砕け、破片が飛び散る。
「レオン!」
「大丈夫!」
返事をしながら距離を取る。
あれをまともに受けたらまずい。
「リリア、援護を頼む!」
「分かった!」
リリアが杖を掲げる。
「ウィンドカッター!」
風の刃が魔物の横腹へ向かって飛んだ。
だが。
ザシュッ!
確かに毛皮を切り裂いた。
しかし、傷は浅い。
「効いてる……けど!」
魔物が振り返る。
赤い瞳がリリアを捉えた。
「しまった!」
レオンが駆け出す。
「こっちだ!」
短剣を投げる。
魔物の顔を狙った一撃は、爪で弾かれた。
キィン!
短剣が地面を転がる。
その隙にガレスが割り込んだ。
「よそ見するな!」
剣が魔物の前脚を斬りつける。
黒い血が飛び散った。
魔物が咆哮を上げる。
「グォォォォッ!」
広間全体が震えた。
「ぐっ……!」
ガレスが押し返される。
剣を両手で構え、どうにか爪を受け止めていた。
「ガレスさん!」
「来るな!」
怒鳴り声が飛ぶ。
「今はこいつを抑える!」
レオンは足を止めた。
ガレスの腕が震えている。
それでも、一歩も引かない。
「リリア!」
「分かってる!」
リリアが杖を振る。
「ファイア!」
炎の塊が魔物の背中へ直撃する。
ゴウッ!
黒い毛が燃え上がる。
魔物が苦しそうに身をよじった。
「今!」
ガレスが踏み込む。
剣が深く腹へ食い込んだ。
「グァァッ!」
魔物が大きく後退する。
レオンは落ちた短剣を拾い上げた。
「やった……?」
魔物の身体から黒い血が流れ落ちる。
かなりの傷だ。
これなら倒せる。
そう思った。
次の瞬間。
ドクン。
広間の中央にある《侵食核》が脈打った。
黒い靄が魔物へ向かって伸びていく。
「……え?」
傷口から黒い光が溢れた。
そして。
ゆっくりと傷が塞がっていく。
「嘘だろ……。」
レオンが呟く。
さっきまで血が流れていた腹部が、何事もなかったかのように元へ戻っていく。
ガレスも目を見開いた。
「再生した……?」
魔物が立ち上がる。
傷は完全に消えていた。
リリアが青ざめる。
「そんなの、どうやって倒すの……?」
レオンは《侵食核》へ目を向けた。
黒い結晶は、何事もなかったように脈打っている。
ドクン。
ドクン。
そのたびに魔物へ黒い魔力が流れ込んでいた。
「……あれだ。」
「何?」
「魔物を回復させてる。」
レオンは侵食核を指差した。
「だったら、先にあれを壊さないと。」
ガレスが魔物を睨む。
「簡単に言うな。」
「ですよね……。」
魔物が再び身を低くする。
赤い瞳がレオンを捉えた。
「来るぞ!」
ガレスが叫ぶ。
巨体が跳んだ。
レオンは《風走りの靴》へ魔力を込める。
身体が一気に軽くなった。
爪が目の前を通り過ぎる。
「速い……!」
そのまま横へ跳ぶ。
魔物が振り返る。
また来る。
今度は避けるだけではない。
レオンは短剣を握り直した。
「リリア!」
「分かってる!」
炎が魔物の足元へ飛ぶ。
魔物が一瞬だけ動きを止めた。
「今だ!」
ガレスが斬り込む。
魔物の注意がガレスへ向いた。
レオンはその横をすり抜ける。
目指すのは魔物ではない。
広間の中央。
脈打つ《侵食核》だった。
「レオン!」
背後からガレスの声が飛ぶ。
レオンは振り返らない。
「これを壊せば……!」
左手首の《魔力探知の腕輪》が、突然強く熱を持った。
「っ!」
腕輪の光が一点へ集中する。
巨大な黒い結晶。
その中心に、ほんの僅かだけ色の違う場所があった。
「そこか!」
レオンは短剣を構えた。
あと少し。
その瞬間、背後から巨大な影が迫る。
「レオン、避けろ!」
ガレスの叫び声が広間に響いた。
レオンは振り返った。
目の前まで、侵食獣が迫っていた。
巨大な爪が振り下ろされる。
「くっ!」
レオンは横へ飛んだ。
ドンッ!
さっきまで立っていた場所が砕け散る。
飛び散った石が頬をかすめた。
「レオン!」
「大丈夫!」
立ち上がる。
侵食獣はすぐにこちらへ向き直った。
赤い瞳が、レオンを捉えている。
「俺を狙ってる……?」
「だったら、俺が引きつける!」
ガレスが踏み込んだ。
剣が侵食獣の前脚を斬りつける。
「こっちは任せろ!」
侵食獣がガレスへ向きを変えた。
その隙に、リリアが杖を掲げる。
「今よ!」
「ウィンド!」
風が巻き起こり、侵食獣の巨体を横から押し流す。
ほんの一瞬。
魔物の動きが止まった。
「レオン!」
「分かってる!」
レオンは侵食核へ向かって駆け出した。
左手首の《魔力探知の腕輪》が熱を持っている。
さっき見つけた一点。
そこだけが、他とは違う。
「ここだ……!」
短剣を突き立てる。
ガキンッ!
「硬っ……!」
刃が弾かれ、腕が痺れた。
それでも離さない。
もう一度、ひびの入った場所へ狙いを定める。
「今度こそ!」
ガキィン!
黒い結晶に亀裂が走った。
「入った!」
その直後。
「グォォォォッ!」
侵食獣がガレスを弾き飛ばした。
「ガレスさん!」
「俺はいい!」
ガレスはすぐに立ち上がる。
「続けろ!」
「はい!」
リリアが杖を構える。
「レオン、今!」
「ありがとう!」
炎が侵食獣の前で弾ける。
魔物が一瞬だけ怯んだ。
レオンは短剣を振り上げた。
「これで……!」
亀裂へ刃を叩き込む。
バキィィン!
巨大な黒い結晶が砕け散った。
黒い靄が一気に広間へ広がる。
「きゃっ!」
リリアが腕で顔を覆う。
侵食獣も苦しそうに身体を震わせた。
「グ……グォォォ……!」
身体を覆っていた黒い光が、少しずつ消えていく。
そして。
さっきまで塞がっていた傷が、そのまま残った。
「再生しない……。」
レオンが呟く。
ガレスが剣を構え直す。
「今なら倒せる!」
三人が同時に動いた。
ガレスが正面から斬り込む。
リリアの風が侵食獣の足元を崩す。
レオンは横へ回り込んだ。
魔物がガレスへ爪を振り下ろす。
ガレスが剣で受け止めた。
「今だ!」
レオンは踏み込む。
短剣を振り抜いた。
ザシュッ!
侵食獣の身体が大きく揺れる。
赤い瞳から光が消えた。
巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
そして、黒い霧となって消えていった。
広間に静寂が戻る。
「……終わった?」
リリアが荒い息を吐く。
「たぶん。」
レオンも肩で息をしながら答えた。
ガレスが侵食核のあった場所を見る。
「魔力が消えている。」
その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……。
地面が大きく揺れた。
「え?」
天井から小さな石が落ちてくる。
「洞窟が崩れるぞ!」
ガレスが叫ぶ。
「走れ!」
三人は一斉に駆け出した。
来た道を戻る。
頭上から岩が次々と落ちてくる。
「レオン!」
「こっち!」
レオンは《風走りの靴》へ魔力を込めた。
身体が軽くなる。
リリアの手を取り、崩れかけた通路を駆け抜ける。
背後から轟音が迫ってくる。
「出口!」
前方に光が見えた。
三人は一気に裂け目から飛び出した。
その直後。
ズズンッ!
大地が大きく揺れた。
振り返る。
さっきまで開いていた裂け目は、崩れ落ちた岩によって塞がれていた。
黒い靄もない。
あれほど濃かった魔力の気配も消えている。
しばらく、誰も口を開かなかった。
「……終わったんだね。」
リリアが呟く。
「ああ。」
ガレスが頷く。
「少なくとも、あの黒い魔力はもう感じない。」
レオンは片眼鏡を取り出した。
倒した魔物へ向ける。
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【討伐完了】
《侵食獣》
レア度:★★★★☆
侵食核から流れ込む黒い魔力によって
強化されていた魔物。
【NEW】
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「星四つ……。」
レオンが呟く。
続いて、地面に残された黒い欠片へ片眼鏡を向ける。
────────────────
【NEW】
《侵食核の欠片》
砕けた侵食核の一部。
強い魔力を帯びている。
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レオンが欠片を拾い上げる。
すると、見慣れた表示が浮かび上がった。
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【運命ポイント】
34Pt
↓
99Pt
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さらに、その下へ今回の獲得ポイントが表示される。
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《今回の獲得ポイント》
・《侵食獣》討伐・登録 +10Pt
・《侵食核》破壊 +20Pt
・黒い魔力による異変の解決 +35Pt
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【今回の獲得】
+65Pt
【現在】
99Pt
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「……99Ptか。」
レオンは表示を見つめた。
運命ポイントを貯めるようになってから、かなりの数になった。
このポイントが増えるほど、ガチャの結果も良くなる。
それは、これまでの経験から分かっている。
「結構貯まったね。」
リリアが横から覗き込む。
「ああ。これなら、次のガチャも期待できそうだ。」
レオンは少しだけ笑った。
まだ何ポイントあれば、どんなものが出るのか。
その仕組みまでは分からない。
それでも、貯めて損はない。
むしろ、もっと貯めたい。
「帰ろう。」
ガレスが剣を鞘へ収める。
「まずはギルドへ報告だ。」
「はい。」
三人はアルトの街へ向かって歩き始めた。
レオンは一度だけ振り返る。
そこには、ただ岩場が広がっていた。
昨日まであった裂け目も。
黒い魔力も。
もう何もない。
レオンは前を向いた。
今日の戦いで、また一つ分かったことがある。
自分のガチャは、まだ知らない力を隠している。
それを確かめるためにも。
これからも、運命ポイントを貯めていこう。
そう思いながら、三人は街へ向かって歩いていった。
【あとがき】
第22話を読んでいただき、ありがとうございました!
黒き洞窟での戦いも、ついに決着しました。
《侵食核》を破壊し、謎だった黒い魔力の異変もひとまず収束。
そしてレオンの運命ポイントも、かなりのところまで貯まりました。
冒険者として少しずつ経験を積み、ガチャ師としても新しい力を手に入れていくレオン。
次回はアルトへ戻り、今回の冒険についてギルドへ報告するところから始まります。
引き続き、レオンたちの冒険をお楽しみください!




