第21話 黒き洞窟
翌朝。
レオンたちがギルドへ入ると、ガレスはすでに入口で待っていた。
「よく来た。」
短く言うと、腰の剣を軽く叩く。
「今日は昨日見つけた裂け目の調査だ。」
「はい。」
「昨日は入口までしか確認していない。何がいるかも分からん。」
ガレスは二人を見渡す。
「無理はするな。危険だと思ったら、俺が撤退を命じる。」
レオンとリリアは同時に頷いた。
◇◇◇
三人はベルン平原を抜け、昨日見つけた裂け目へ辿り着く。
そこに立った瞬間、レオンは思わず顔をしかめた。
「昨日より……濃い。」
裂け目から漏れ出す黒い靄が、目に見えて増えている。
昨日は地面を這う程度だった。
今日は胸の高さまでゆっくりと漂っている。
リリアが足元へ視線を落とした。
「草が……。」
裂け目の周囲だけ、草木が黒く変色している。
枯れているわけではない。
生きたまま、黒く染まっていた。
ガレスは静かに剣へ手を添える。
「昨日より侵食が進んでいる。」
その一言で十分だった。
三人は裂け目へ足を踏み入れる。
◇◇◇
洞窟の中は静かだった。
静かすぎた。
水滴の音も。
風の音も。
虫の羽音すら聞こえない。
聞こえるのは、自分たちの足音だけ。
コツ……
コツ……
コツ……
妙によく響く。
「変な感じ。」
リリアが小声で呟いた。
「音が……近い。」
レオンも同じことを感じていた。
まるで洞窟全体が耳を澄ませているようだった。
その時だった。
左手首がじんわりと熱を帯びる。
魔力探知の腕輪。
昨日手に入れたSR装備が、初めて自分から反応した。
レオンは足を止める。
「どうした?」
「……何かある。」
腕輪は熱を失わない。
視線を落とすと、足元の岩陰に青白く光るものが見えた。
しゃがみ込み、星詠みの片眼鏡を掛ける。
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《魔光苔》
レア度:★☆☆☆☆
洞窟内にのみ生息する植物。
微弱な魔力を放ち続ける。
【NEW】
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「苔……?」
リリアが覗き込む。
「光ってる。」
「初めて見る植物だ。」
図鑑へ登録される音が静かに響く。
さらに数歩進く。
今度は壁の一部が黒く光っていた。
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《黒晶石》
レア度:★★☆☆☆
黒い魔力を吸収して成長する鉱石。
加工用途は未判明。
【NEW】
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レオンは小さく欠片を採取し、魔導収納鞄へしまう。
「また新種か。」
ガレスが感心したように笑う。
「普通なら気にも留めん石だ。」
レオンは苦笑した。
「片眼鏡がなかったら、僕もただの岩だと思ってました。」
ガチャから手に入れた道具が、一つずつ世界を広げてくれる。
そんな感覚が少し嬉しかった。
歩き出そうとした、その時だった。
腕輪がまた熱くなる。
今度はさっきより強い。
「待って。」
レオンは反射的に右手を上げた。
二人が足を止める。
その一歩先。
床に細い亀裂が走っている。
よく見なければ分からないほど細い。
ガレスが近くの石を拾い、軽く放り投げた。
カチッ。
乾いた音が響いた次の瞬間。
ガコンッ!!
地面が崩れ、大きな穴が口を開けた。
底は見えない。
石が落ちる音だけが、いつまでも暗闇へ吸い込まれていった。
リリアの顔から血の気が引く。
「危なかった……。」
ガレスはレオンを見る。
「また腕輪か。」
レオンは黙って頷いた。
偶然じゃない。
この腕輪は、本当に危険を教えてくれている。
三人は崩れた穴を慎重に迂回し、さらに洞窟の奥へと歩き始めた。
穴を大きく迂回しながら、三人はさらに奥へ進んだ。
進むにつれ、洞窟の様子が少しずつ変わっていく。
黒い結晶が壁や天井からいくつも突き出し、まるで洞窟そのものを侵食しているようだった。
レオンは何気なく片眼鏡を掛ける。
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《黒晶石》
レア度:★★☆☆☆
黒い魔力を帯びた鉱石。
加工用途は未判明。
【登録済】
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「さっきの鉱石が、こんなに……。」
見渡す限り、黒晶石が広がっている。
リリアは思わず壁へ手を伸ばしかけたが、ガレスが静かに止めた。
「不用意に触るな。」
「……はい。」
どこまでが岩で、どこからが侵食なのか。
誰にも分からなかった。
その時。
バサッ……
天井から小さな羽音が響く。
レオンは咄嗟に顔を上げた。
「来ます!」
黒い影が一斉に襲い掛かる。
リリアはすぐに杖を構えた。
「ウィンド!」
風の刃が二匹を吹き飛ばす。
体勢を崩した一匹へ、レオンが踏み込む。
短剣を振り抜くと、黒い影は悲鳴を上げて地面へ落ちた。
残る個体はガレスが一太刀で斬り伏せる。
戦闘は一瞬だった。
倒れた魔物は黒い霧へ変わり、静かに消えていく。
「消えた……。」
リリアが目を丸くする。
レオンは片眼鏡を向けた。
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《シャドウバット》
レア度:★★☆☆☆
黒き洞窟に棲みつく魔物。
黒い魔力を糧として生息している。
【NEW】
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登録音が静かに鳴る。
その直後。
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運命ポイント
28Pt
↓
31Pt(+3)
【NEW】
・シャドウバット +3Pt
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「また増えた。」
レオンは画面を閉じる。
図鑑が埋まるたび、運命ポイントも積み重なっていく。
百ポイントまで、あと六十九。
◇◇◇
三人はさらに奥へ進む。
やがて通路が途切れ、巨大な空間へと出た。
思わず息を呑む。
広間の中央には、巨大な黒い結晶が地面から突き出していた。
ドクン。
ドクン。
脈打つたびに黒い靄が広がり、洞窟全体を包み込んでいく。
レオンは片眼鏡を向ける。
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名称
《侵食核》
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表示されたのは名前だけだった。
説明はない。
能力も分からない。
「侵食核……。」
その名を口にした瞬間だった。
ゴゴゴ……
侵食核の前の地面が盛り上がる。
黒い土を押しのけ、一体の巨大な魔物がゆっくり姿を現した。
赤い双眼。
漆黒の毛並み。
ブラッドファングウルフをはるかに上回る巨体。
低いうなり声が、広間に響く。
ガレスは剣を抜いた。
「下がるな。」
レオンは短剣を握り直す。
リリアも杖を構え、息を整えた。
黒い魔物は三人を見据えたまま、一歩、前へ踏み出した。
◇◆◇
【あとがき】
第21話を読んでいただきありがとうございました!
黒き洞窟の最奥で、《侵食核》と、それを守る巨大な魔物が姿を現しました。
次回は、この異変の中心へ挑みます。




