第16話 E級への第一歩
朝日が宿の窓から差し込み、レオンはゆっくりと目を開けた。
見慣れない天井。
アルトで迎える初めての朝だ。
「よく寝た……。」
ベッドから起き上がると、部屋の隅へ置いてあった革鞄へ目を向ける。
昨夜手に入れた《魔導収納鞄》。
見た目は、ごく普通の革鞄だった。
「本当に全部入るのか?」
レオンは試しに荷物をまとめ始める。
保存食。
ロープ。
火打石。
水筒。
投げナイフ。
予備の服。
さらにホーンラビットから回収した角や肉まで入れてみる。
「……まだ入る。」
思わず鞄の中を覗き込んだ。
見た目は変わらない。
それなのに、中にはまだ十分な空間が残っている。
「すごい。」
着替えを終えたリリアが後ろから覗き込む。
「全部入っちゃったの?」
「ああ。」
レオンは苦笑した。
「これなら荷物の心配をしなくて済みそうだ。」
「SRってやっぱり特別なんだね。」
二人は荷物をまとめると、一階の食堂で朝食を済ませ、宿をあとにした。
◇ ◇ ◇
朝のアルトは、昨日以上に活気づいていた。
商人たちは店を開き始め、冒険者たちは武器を背負って街の外へ向かっていく。
「急がないと。」
「試験に遅れたら笑えないからな。」
二人は足早に冒険者ギルドへ向かった。
昨日よりも多くの人が集まっている。
受付嬢はレオンたちを見ると、にこりと笑った。
「おはようございます。」
「仮登録証をお預かりします。」
木札を渡すと、受付嬢は確認して頷く。
「登録試験はまもなく始まります。」
「こちらへどうぞ。」
二人は他の受験者たちと一緒に奥の訓練場へ案内された。
広い訓練場には木剣や木盾が並び、すでに数人の職員が準備を進めている。
やがて、一人の壮年の男性が前へ出た。
日に焼けた肌。
鍛え上げられた体。
歴戦の冒険者だと一目で分かる。
「俺は試験官のガレスだ。」
低く響く声が訓練場へ広がる。
「これから登録試験を始める。」
受験者たちの表情が引き締まった。
「勘違いしている者が多いが、この試験は勝ち負けだけを見るものじゃない。」
ガレスは受験者を見回す。
「危険を察知する力。」
「仲間を守る判断。」
「自分にできる戦い方を理解しているか。」
「それも冒険者には必要な資質だ。」
レオンは静かに頷いた。
勝たなければならないわけではない。
自分らしい戦い方を見せればいい。
そう思うと、不思議と肩の力が抜けた。
「それでは試験を始める。」
「名前を呼ばれた者から前へ。」
訓練場に緊張が走る。
レオンは無意識に木札を握りしめた。
受験者たちが順番に名前を呼ばれ、訓練場の中央へ出ていく。
木剣を握る者。
杖を構える者。
それぞれが試験官と向き合い、短い試験を終えて戻ってきた。
勝った者もいれば、あっという間に木剣を弾き飛ばされる者もいる。
それでも試験官は、一人ひとりに何かを伝えながら評価を書き込んでいた。
「本当に勝ち負けだけじゃないんだ。」
レオンが小さく呟く。
「少し安心した?」
リリアが笑う。
「少しだけな。」
その時だった。
「リリア。」
試験官が名前を呼ぶ。
「はい。」
リリアは落ち着いた足取りで前へ出た。
「始め!」
開始の合図と同時に、リリアは一歩だけ後ろへ下がる。
距離を取る動き。
試験官はすぐに踏み込んだ。
しかし、その瞬間。
「ライトアロー。」
白い光が一直線に飛ぶ。
試験官は木剣で受け流す。
だが、その隙にリリアはさらに距離を取っていた。
「ほう。」
試験官が笑う。
「無理に勝負へ来ないか。」
リリアは何も答えない。
次々と魔法を放ち、決して相手へ近付かない。
試験官は何度か距離を詰めようとしたが、そのたびに足を止められる。
数分後。
「そこまで。」
試験官が木剣を下ろした。
「合格だ。」
リリアはほっと息を吐き、頭を下げる。
「ありがとうございました。」
戻ってきたリリアは、少し照れくさそうに笑った。
「思ったより緊張した。」
「でも合格じゃないか。」
「うん。」
レオンも自然と笑顔になる。
「次。」
試験官が受験票へ目を落とす。
「レオン。」
「……はい。」
レオンはゆっくりと立ち上がった。
木の盾を左手へ。
鉄の短剣は預け、試験用の木剣を受け取る。
試験官と向かい合う。
「ガチャ師だったな。」
「はい。」
試験官はレオンを一度見て、小さく笑う。
「どんな戦いを見せてくれる。」
レオンは深く息を吸う。
緊張はしている。
それでも、不思議と逃げたいとは思わなかった。
ここまで旅をしてきた。
ゴブリンとも戦った。
ホーンラビットの群れも乗り越えた。
あとは、自分の力を見せるだけだ。
「始め!」
試験官が一歩踏み込む。
その動きは、思っていたよりずっと速かった。
「っ!」
レオンは慌てて木盾を構える。
ガンッ!
木剣が盾へぶつかり、腕が痺れる。
「重い……!」
力任せではない。
無駄のない一撃だった。
試験官は追撃せず、一歩下がる。
「どうした。」
「そんなものか。」
レオンは木剣を握り直した。
(落ち着け。)
(真正面から勝てる相手じゃない。)
頭の中で、これまでの戦いを思い返す。
ゴブリン。
ホーンラビット。
どちらも力では勝っていない。
工夫して勝った。
それが、自分の戦い方だ。
レオンは小さく息を吐くと、盾を構え直した。
試験官を真っすぐ見据える。
勝負は、ここからだった。
(第17話へ続く)
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ついに始まった冒険者登録試験。
リリアは見事に合格し、次はいよいよレオンの番です。
ガチャ師ならではの戦い方で、この試験をどう乗り越えるのか。
次回もぜひお楽しみください!




