第14話 初めての共闘
五匹のホーンラビットが、ゆっくりとレオンたちを取り囲む。
額の一本角をこちらへ向け、低く唸り声を上げていた。
「一匹なら新人向けじゃなかったのかよ……。」
レオンが短剣を握り直す。
リリアは苦笑しながら杖を構えた。
「群れは聞いてないね。」
次の瞬間だった。
一匹が地面を蹴る。
「来る!」
鋭い突進。
レオンは木の盾を構え、正面から受け止めた。
ガンッ!
衝撃が腕へ伝わる。
「うっ……!」
思った以上に重い。
だが、盾のおかげで勢いは止まった。
「レオン!」
「今だ!」
リリアの杖の先へ白い光が集まる。
「ライトアロー!」
放たれた光の矢が、ホーンラビットの脇腹を貫いた。
魔物は小さく悲鳴を上げ、その場へ倒れる。
「一匹!」
しかし安心する暇はない。
残る四匹が、一斉に飛び出した。
「左右に分かれた!」
レオンは素早く周囲を見る。
このまま囲まれれば不利だ。
「リリア!」
「任せて!」
リリアはすぐにレオンの意図を理解した。
後ろへ飛び退き、距離を取る。
レオンはその前へ立ち、四匹の注意を引きつける。
「こっちだ!」
二匹が同時に突進してきた。
木の盾で一匹を受け流し、その勢いを利用して体勢を崩す。
だが、もう一匹が横から迫る。
「しまっ……!」
その瞬間。
白い光が魔物の前へ降り注いだ。
「ライト!」
突然の閃光に、ホーンラビットが一瞬だけ動きを止める。
「助かった!」
レオンは体勢を立て直し、初心者ナイフを振るう。
ザシュッ。
二匹目が倒れた。
「あと三匹!」
リリアが叫ぶ。
「思ったより連携できてる!」
「昔から遊んでたからな!」
レオンは笑いながら答える。
昔、鬼ごっこや森遊びで息を合わせてきた経験が、思わぬところで生きていた。
しかし。
残る三匹は距離を取り、じっとこちらを見つめている。
「何か狙ってる……?」
リリアが小さく呟いた。
その直後だった。
三匹が同時に地面を蹴る。
「三方向!」
「避けきれない!」
レオンは咄嗟に腰のポーチへ手を伸ばいた。
指先が触れたのは、ガチャで手に入れた丈夫なロープだった。
「これだ!」
レオンはロープを勢いよく投げる。
偶然にも先頭のホーンラビットの足へ絡みついた。
「ギィッ!」
魔物は体勢を崩し、そのまま後ろの一匹へぶつかる。
二匹まとめてもつれる。
「リリア!」
「任せて!」
杖が輝く。
「ライトアロー!」
二本の光の矢が放たれ、もつれた二匹へ命中した。
ホーンラビットはそのまま動かなくなる。
「あと一匹!」
最後の一匹は仲間を失ったことで警戒したのか、ゆっくりと後退し始める。
レオンは深呼吸し、短剣を構えた。
「逃がさない。」
地面を蹴る。
一直線に距離を詰め、最後の一撃を振り下ろした。
短剣は正確に急所を捉える。
ホーンラビットは小さく鳴き、その場へ静かに倒れた。
辺りは再び静寂に包まれる。
「終わった……。」
レオンはその場へ腰を下ろした。
思っていた以上に体力を使った。
リリアも額の汗を拭きながら笑う。
「初めての旅で、この数は大変だったね。」
「でも、勝てた。」
「ああ。」
レオンは周囲を見回す。
そして笑った。
「一人だったら危なかった。」
「私も。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。
これが、冒険者としての最初の共闘だった。
五匹のホーンラビットを倒し終え、レオンは大きく息を吐いた。
「ふぅ……。」
短剣についた血を軽く払い、鞘へ納める。
木の盾には角がぶつかった跡がいくつも残っていた。
「思っていたより強かったな。」
レオンが苦笑すると、リリアも額の汗を拭いながら笑う。
「でも、一人じゃなかったから勝てた。」
「ああ。」
レオンは素直に頷いた。
「リリアの魔法がなかったら危なかった。」
「レオンが前にいてくれたから撃てたんだよ。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑う。
これが二人にとって、冒険者として初めての本格的な共闘だった。
レオンはホーンラビットの亡骸へ近付き、短剣を取り出す。
「せっかくだし、持って帰れるものは回収しておこう。」
「うん。」
二人は角と肉を丁寧に取り分ける。
「図鑑には食べられるって書いてあったよね。」
「初心者冒険者の定番らしい。」
「今日はごちそうだね。」
リリアは嬉しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
しばらく街道を歩いていると、前方から一台の荷馬車が近付いてきた。
「あっ!」
御者が二人に気付き、嬉しそうに手を振る。
「君たち、無事だったか!」
さっき出会った商人だった。
「はい!」
「ホーンラビットの群れに襲われましたけど、何とか倒せました。」
「群れを?」
商人は目を丸くした。
「新人でよくやったな。」
「運が良かっただけですよ。」
レオンは照れくさそうに笑う。
「運も実力のうちさ。」
商人は荷台から小さな包みを取り出した。
「助けてもらったお礼だ。」
「干し肉と水だよ。」
「ありがとうございます。」
二人はありがたく受け取る。
「そうそう。」
商人は街道の先を指差した。
「このまま進めば、大きな石橋がある。」
「そこを渡れば冒険都市アルトはもうすぐだ。」
「助かります!」
「気を付けて行くんだぞ。」
商人は荷馬車を走らせ、街道の向こうへ消えていった。
◇ ◇ ◇
教えられた通り街道を進むと、大きな石橋が姿を現した。
橋の下には澄んだ川が流れ、太陽の光を受けてきらきらと輝いている。
「きれい……。」
リリアは橋の欄干から川を覗き込んだ。
「少し休憩しようか。」
「うん。」
二人は橋のたもとへ腰を下ろす。
レオンは母が持たせてくれたお弁当を取り出した。
「いただきます。」
包みを開くと、彩り豊かなサンドイッチが並んでいる。
「おばさんの料理、本当に美味しいよね。」
リリアは幸せそうに頬張る。
「旅に出て初めて分かったよ。」
レオンも一口食べて微笑む。
「いつも食べてた味なのに、今日は特別美味しく感じる。」
「帰ったら、お礼言わないとね。」
「ああ。」
二人は穏やかな時間を過ごし、再び歩き始めた。
◇ ◇ ◇
夕日が西へ傾き始めた頃。
街道の先に、巨大な城壁が姿を現す。
「……!」
レオンは思わず足を止めた。
高く積み上げられた石壁。
何本もの見張り塔。
大勢の人や荷馬車が行き交う巨大な門。
「これが……。」
リリアも目を見開く。
「冒険都市アルト。」
近付くにつれ、人々の話し声や武器を打つ音、商人たちの呼び込みが聞こえてくる。
ベルン村とは比べものにならないほどの活気だった。
その瞬間。
━━━━━━━━━━━━━━
図鑑更新
エリア図鑑
No.004
冒険都市アルト
登録
━━━━━━━━━━━━━━
<図鑑>
王都への玄関口として栄える交易都市。
冒険者ギルド支部が置かれ、多くの冒険者や商人が集まる。
新人冒険者が最初の一歩を踏み出す街としても知られている。
━━━━━━━━━━━━━━
「いよいよだな。」
レオンは図鑑を閉じる。
ここから先は、誰も自分たちを知らない世界。
ガチャ師という職業も、きっと珍しい目で見られるだろう。
それでも、不思議と不安はなかった。
胸にあるのは期待だけだった。
「行こう、リリア。」
「うん!」
二人は笑顔で頷き合い、冒険都市アルトの門をくぐった。
(第15話へ続く)
⸻
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ついにレオンとリリアは冒険都市アルトへ到着しました。
次回はいよいよ冒険者ギルドへ。ガチャ師という珍しい職業がどのように受け止められるのか、そして二人は無事に冒険者として第一歩を踏み出せるのか。
ぜひ次回もお楽しみください!




