第12話 旅立ちの日
夕日に染まるベルン村を、レオンはゆっくりと歩いていた。
ポーチの中には古代の石板。
腰には『幸運の羅針盤』。
そして胸元には、大切にしまった『星詠みの片眼鏡』。
石板に浮かび上がった言葉は、今も頭から離れない。
――図鑑を完成せし者。
――世界を巡り。
――真実へ至る。
「世界を巡る……。」
小さく呟き、村の外へ続く街道へ視線を向ける。
あの先には、まだ見ぬ景色が広がっている。
出会ったことのない魔物。
埋まっていない図鑑。
そして、ガチャ師だけが辿り着ける真実。
「よし。」
レオンは静かに頷き、家へ向かった。
◇ ◇ ◇
「ただいま。」
「おかえり。」
母が優しく迎え、父は薪を割る手を止めて振り返った。
いつもと変わらない光景。
けれど、今日は違う。
レオンは深く息を吸い込んだ。
「父さん、母さん。」
「話がある。」
二人はレオンの真剣な表情を見て、すぐに手を止めた。
「座りなさい。」
三人は食卓を囲む。
少しだけ沈黙が流れたあと、レオンは口を開いた。
「旅に出たい。」
母が小さく息をのむ。
父は驚いた様子もなく、静かにレオンを見つめていた。
「理由を聞かせてくれ。」
「洞窟へ行って分かったんだ。」
石板のことは話せない。
だから、嘘ではない言葉だけを選ぶ。
「この村しか知らないままじゃ、ガチャ師がどんな職業なのかも分からない。」
「もっと世界を見たい。」
「もっと強くなりたい。」
「そして……自分にしかできないことを見つけたい。」
父は腕を組み、しばらく考え込んでいた。
やがて静かに口を開く。
「レオン。」
「お前は昔から、一度決めたことは曲げなかったな。」
レオンは小さく頷く。
「はい。」
「だったら止めても無駄だ。」
父は立ち上がり、レオンの肩へ手を置いた。
「行ってこい。」
「……!」
思っていたよりもあっさりした返事だった。
「ただし。」
父の表情が少しだけ厳しくなる。
「どんな宝を見つけてもいい。」
「どんな名声を手に入れてもいい。」
「でも、一番大事なのは生きて帰ってくることだ。」
「約束できるか。」
「……うん。」
レオンは力強く頷いた。
「約束する。」
母は少し寂しそうに笑う。
「無理だけはしないこと。」
「ちゃんとご飯を食べること。」
「体調が悪い時はちゃんと休むこと。」
「心配しすぎだよ。」
「母親は心配するものなの。」
三人は顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。
その笑顔を見て、レオンは改めて思う。
必ず帰ってこよう、と。
◇ ◇ ◇
その夜。
旅支度を終えたレオンは、自室で荷物を確認していた。
その時だった。
コンコン。
控えめなノックが響く。
「レオン。」
聞き慣れた声だった。
扉を開けると、そこには幼馴染のリリアが立っていた。
「リリア?」
少し息を切らした彼女は、真っすぐレオンを見つめる。
「……旅に出るって、本当?」
レオンは少し驚く。
「なんで知ってるんだ?」
「さっき、おばさんに頼まれた物を届けに来たの。」
「その時に……偶然、おじさんたちと話してるのが聞こえちゃって。」
少し申し訳なさそうに俯くリリア。
レオンは苦笑しながら頭をかいた。
「聞かれちゃったなら仕方ないか。」
そして、小さく頷く。
「ああ。」
「明日の朝、旅に出る。」
その言葉を聞いたリリアは、ぎゅっと拳を握り締めた。
しばらく沈黙が流れた。
やがて、リリアは真っすぐレオンを見つめる。
「私も行く。」
「……え?」
思わず聞き返す。
「だから行くの。」
「昔から一緒だったでしょ。」
「ガチャ師なんて弱い職業なんだから、一人で行かせられない。」
「そこまで言うか。」
「だから、私が守る。」
リリアは迷いなく言い切った。
レオンは苦笑しながら頭をかく。
「いや、俺が守るつもりなんだけど。」
「期待してる。」
そう言って微笑むリリアに、レオンは思わず笑ってしまった。
「……敵わないな。」
一度こうと決めたリリアは、絶対に考えを曲げない。
昔からそうだった。
木登りをすると言えば誰よりも先に登り、川へ遊びに行くと言えば最後まで付き合ってくれた。
その頑固さは、誰にも止められない。
「でも、本当に危ない旅になるかもしれないぞ。」
「それでも行く。」
「後悔するかもしれない。」
「しない。」
迷いのない返事だった。
レオンは小さく息を吐く。
「分かった。」
「そこまで言うなら、一緒に行こう。」
その言葉を聞いたリリアは、ようやく安心したように笑った。
「ありがとう。」
◇ ◇ ◇
翌朝。
ベルン村の門には、レオンとリリアの姿があった。
旅支度を終えた二人の前には、父と母が立っている。
「レオン。」
父は力強く頷いた。
「世界は広い。」
「迷うことも、失敗することもあるだろう。」
「だが、それも全部お前の力になる。」
「はい。」
レオンは深く頭を下げた。
母はリリアの手を優しく握る。
「リリアちゃん。」
「この子、無茶をするところがあるから。」
「ちゃんと見ていてあげてね。」
リリアは優しく微笑む。
「任せてください。」
「私も守ってもらいますから。」
その言葉に、その場にいた全員が笑った。
レオンも照れくさそうに笑う。
「どっちなんだよ。」
和やかな空気の中、父が最後に口を開く。
「行ってこい。」
「はい!」
二人は声をそろえて答えた。
レオンは幸運の羅針盤を取り出す。
針は迷うことなく、村の外へ続く街道を指していた。
「行こう。」
「うん。」
二人が一歩踏み出した、その瞬間。
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図鑑更新
エリア図鑑
No.002
旅立ちの街道
登録
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<図鑑>
ベルン村から外の世界へ続く最初の街道。
多くの冒険者が、この道からそれぞれの夢を胸に旅立っていく。
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「新しい図鑑だ。」
レオンは思わず笑みを浮かべる。
まだ見ぬ景色。
まだ見ぬ仲間。
まだ埋まっていない図鑑。
そのすべてが、自分たちを待っている。
二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
そして、新たな世界へ向かって歩き始める。
(第13話へ続く)
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
これにて第1章「ガチャ師の始まり」は完結です。
レオンは自分だけの使命を見つけ、リリアという心強い幼馴染とともに、新たな一歩を踏み出しました。
第2章からはいよいよ村を飛び出し、ガチャ・図鑑・冒険が本格的に動き始めます。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
これからもレオンたちの旅を見守っていただけたら嬉しいです。




