9 聖女様に見られた
「おー、悪くない雰囲気」
「だね」
目的のカフェは土曜日ということもあって、混んではいたけど、清潔感があってオシャレな雰囲気の良い店だった。
少し待ってから席に案内されるとメニューを見て瑞希は悩む。
「むむ、クリームソーダとパンケーキは確定として……パフェも美味しそう」
「メニュー結構あるね」
「迷うからもう少し少なくても……いや、やっぱり多い方がいいかも。迷うのも楽しいし」
前向きだねぇ。
「幸恵はコーヒー?」
「喫茶店に来たしね」
「パフェ頼も」
「今パフェはいいかなぁ」
「えー、頼もうよ〜。そして私に少しちょうだい」
「やだよ。瑞希絶対メインのやつ持ってくし」
私相手だと容赦ないんだよね、この親友。
「おすすめはチョコレートパフェか季節のパフェだよ。もしくはプリンアラモードも可」
「瑞希が食べたいだけじゃん」
「悪い?」
「別にいいけど、今日はそういう気分じゃないかな」
「むー、じゃあどれにするの?」
オムライスとかサンドイッチは重いし……チーズケーキ辺りが無難かな。
「うん、コーヒーとチーズケーキかな」
「じゃあ、頼もうか。すみませーん」
注文を取りに来てくれたのは若くて綺麗な店員さんだった。
大学生かな?
忙しそうな中で、笑顔で明るい感じでめちゃくちゃモテそうな感じ。
無論、瑞希が放っておく訳もなく。
「さらっとよく聞けるね」
「ふふふ、こういうのは場数が物を言うのだよ」
だからといって少し話しただけで連絡先交換まで行くものだろうか。
私には真似できそうもないなぁ。
「宗教勧めてくる人も口説いてそう」
「何回か神様より私の方が素敵だって言わせたことはあるよ〜」
あるだもんなぁ。
「ベッドの上で負けはないよ」
キリッと言い切るのだから凄まじい。
確か、家に来た人もたらしこんだことあるらしいし、恐ろしい親友だ。
「幸恵も一回どう?私結構上手いよ?」
「止めておく」
「勿体ない。ちなみになんの事だと思ったの?」
「マッサージでしょ」
「ふっふっふ。まあ間違ってないかな」
マッサージ(意味深)なのはよく分かったよ。
「お待たせしました」
「ありがとうね〜」
そうしてアホな話をしていると、さっきの店員さんが注文した品を持ってきてくれた。
瑞希はクリームソーダとパンケーキ。
私はコーヒーとチーズケーキ。
まずはコーヒーから。
熱々の湯気が昇るのを眺めて香りを味わう。
流石にそこそこ値段するだけあって、良い豆使ってそうだ。
そう思いながら一口。
苦味と一緒に深い味わいが口の中を広がる。
これはいいなぁ。
そう思って今度はチーズケーキを食べる。
うん、こっちも美味しい。
「幸恵よくコーヒー飲めるよね〜」
「瑞希は苦手だもんね」
「カフェオレとかコーヒー牛乳ならいいんだけど、コーヒーオンリーは苦いもん」
そんなものかね。
まあ、私も叔父さんの影響で飲んでるだけで、最初飲んだ時は苦くて舌出した記憶がある。
「少し頂戴」
「言う前に取ってるじゃん」
「ん、これ美味しいね」
三分の一くらい豪快に持ってかれたけど、その意見は同意かな。
「コーヒーはいいの?」
「私には愛するクリームソーダ様が居るから」
「浮気性なくせに」
「失礼な。純愛だよ」
二股してても純愛と言えるメンタルは凄いよね。
「あ、ケーキ持ち帰り出来るんだ。どうしよっかなぁ」
「たまには家にお土産買っていったら?」
「んー、お姉ちゃんがそういうのはしてるからなぁ。私は末っ子らしく遠出した時だけにするよ」
瑞穂姉は確かにそういうのマメだよね。
女の子に全てのマメさを注いでるから家族や友人には控えめなのは瑞希らしいか。
「迷うなぁ。ドーナツ今日安いらしいからそっちもいいよね」
「あー、100円セールだっけ?」
「そう!こういう時は買っておきたいじゃん」
全国チェーンのドーナツ屋さんのセール日と重なってるので持ち帰りは悩ましいか。
とはいえ、私は買っておこうかな。
「幸恵はどうする?」
「私はチョコケーキにする予定」
「あれ?幸恵チョコケーキそんな好きだっけ?」
「んー、なんとなくね」
「へー、ほー」
ニマニマすんでないよ。
全く。
「じゃあ、私はチーズケーキ買っちゃお」
「ドーナツはいいの?」
「両方買えばいいって気づいたし」
つまり付き合わされると。
「カラオケとかも行きたいけど、今度でいっか」
「テスト前だしね」
分かってたけど「何それ?」みたいな顔はよしなさい。
普通はテスト前は控えるものだから。
「麗奈ちゃん。じゃあまた今度ね」
「うん。また」
「今度は二人で会おうね〜」
ナチュラルに口説いている親友と持ち帰りのケーキを買って店外に出る。
「彼女にバレてさされればいいのに」
「残念、フラグ管理は怠ってないんだなぁ、これが」
知ってるよ。
「でも最近は学生が多いし、今度は社会人狙ってみようかな」
「向こうが捕まらないことを願うよ」
「大丈夫だって。制服コスとか言えば納得するし」
何が大丈夫なんだか。
「幸恵、久しぶりにうち来ない?」
「今朝も行ったじゃん」
「来たっけ?」
「瑞希を今朝着替えさせたの私だよ」
「いや〜ん。幸恵ちゃんのえっち」
思ってもないことを。
「それで?何かあるの?」
「久しぶりにゲームもいいかなぁって」
瑞希の家、テレビゲーム多いんだよね。
昔はよく遊ばせてもらったものだ。
「新作前の肩慣らししたんだ」
「テスト前によくやる気になるね」
うん、だから「テストだから何?」と素直に疑問符を浮かべないように。
「む」
不意に瑞希がビビんと反応すると、何故か私の腕に抱きついてくる。
「なに?なんの真似?」
「いいからいいから。にっしし」
なんでそんな楽しげに抱きついてくるのか。
分からないがとても嫌な予感がする。
あと胸の二つのスイカさんが私の怒りのボルテージを上げてく。
コノヤロ、むしり取ってやろうか。
そんな怒りがふつふつと湧くけど、ふと何処からか鋭い視線が私を射抜いた気がした。
私は瑞希や聖女様みたいに視線に敏感ではないけど、どこか既視感のある視線を勘で辿ってみる。
「……図ったね、瑞希」
「なんの事やら」
楽しげに笑う親友が忌々しくなる。
少し離れた場所、視線の元はお稽古の後か途中の車で移動中の麗しき聖女様であった。
それほど鋭くない私でも分かる。
聖女様のご機嫌が宜しくないのは。
「いや〜。この視線は何度浴びてもゾクゾクするね〜」
「実は瑞希、Mでしょ」
「そりゃあ、名前にMついてる人だもの」
それだと瑞穂姉もそうなるんだけど。
「聖女様、名前何だったけ?」
「覚える気なさすぎでしょ」
「覚えて欲しいの?」
「……覚えなくていいよ」
なんかそれはそれでモヤモヤしそうだし。
「うんうん。素直になってきたね」
一人楽しげに笑ってから、見せつけるように私に顔を寄せてくる瑞希。
「ついでに、そろそろ名前呼べるようになったら
なおいいかな」
カレンと呼べと?
「線引するのは幸恵らしいけど、どうせ心の中でも線引して距離とってるんでしょ?素直になった方がいいよ」
悪化させてる人に言われてましても。
まあ、心の中で聖女様呼びして、無意識に遠くにしてるのは確かだけど。
「いい機会じゃん。少し確かめてみなよ」
狡猾でお節介な親友はそう笑って駆け出す。
はぁ……明日会うのが怖くなってしまった。
せっかく聖女様に渡そうと、ケーキ買ったのに。
とはいえ、仕事だ。
サボるわけにもいかないし、明日正直に話すとしよう。
そんな事を思っていると、不意にスマホがメッセージを受信する。
噂の聖女様だ。
『明日はお休み。明後日いつもの場所で』
怒ってらっしゃる。
ついでに仕事減っちゃった。
どうしたものか。
そう思ってると少ししてもう一件メッセージが。
『お弁当とデザート』
明後日お昼はちゃんと用意しろと。
解雇でないのならマシかな。
しかし、買ったケーキ早めに渡したいんだけど……むむ、仕方ない。




