10 聖女様の嫉妬
ケーキは料理長に頼んで渡して貰った。
今は受け取って貰えなそうだし。
そんな事を思いつつ、翌日の日曜日は部屋の掃除とテスト勉強で一日が終わってしまう。
要領悪い私らしいけど、もう少し有効的に時間を使ってみたいものだ。
朝、登校すると聖女様は本日もキラキラした笑みで民達を相手してた。
時折私に視線が来るけど、思ったより怒ってなさそうで少しホッとする。
原因を作った親友は三時間目に重役出勤かましてきたけど、先日の行いを覚えてすら居なさそうで実に元気だ。
覚えてても罪悪感とか感じないタイプだろうけど。
そんなこんなで昼になり、部室に一足先に行ってると、数日ぶりの聖女様が顔を出す。
「昨日は急に休みにしてごめんなさいね」
「お気になさらず」
怒ってないと思いたいのと怒ってて欲しいという気持ち。
女心とは罪だなぁと思いながら顔色を伺うが、聖女様は比較的穏やかそうだ。
良かったと思うのと同時に少し残念なんて思っちゃいけない。
そんな事を思っていると、聖女様は部室の鍵をかけるとつかつかとこちらに歩いてきて、私を立たせてから壁際に追い込む。
ドンがつく壁ドンというやつを初めてされた瞬間だった。
「水蓮寺さんとは随分仲良しなんですね」
「中学からの腐れ縁ってだけ」
「ご謙遜を。休日に二人で出かけて、腕を組むほどの仲なのは知ってますよ」
「あれはイタズラというか……瑞希が面白がって」
ジーッと見上げてくる視線が凄く強い。
背だけは私の方が高いので見上げてくる視線がこうも怖いとは。
「鈴木さんは自分が誰のものか分かってますか?」
「私のものだけど」
はぁ、とため息をつく聖女様。
「違います。鈴木さんは私のものです」
言いきられた。
言いきられてしまった。
「誓ってください。二度と私の許可なくあんな事しないと」
「誓います」
「本当に?」
「疑り深すぎじゃない?」
「面倒な女だと思いますか?」
普通はね。
でも、この状況を喜んで受け入れてしまってる自分がいる時点でそんなことは思わない。
「私も十分面倒だから」
恋をする気はない。
しない方がいいと言いながら、聖女様とはお友達と言いながら求めてしまっている。
友達以上を。
ダメだと本能が言ってる。
きっと聖女様を縛り付けると、そしたら私は母のようになると、豹変すると分かってて逆らえない。
答えは出てる気がするけど、まだ抵抗はしておく。
形にしなければまだ逃げられるから。
「約束するよ。二度と愛染さんの許可なくあんなことはしないって」
そう答えると聖女様は暫く私と視線を合わせてかは、ふぅと息を吐くと何事もなかったように椅子に腰掛けた。
「分かればいいんです」
一応許してくれたようだ。
分かってるけど、私も聖女様も友達以上の感情が渦巻いてて、聖女様はそれを直接形にしてないだけなのかもしれない。
それはつまり……。
いや、これ以上は今はよそう。
「お弁当、作ってきたから食べよう」
聖女様用と自分用を取り出して置くと、聖女様は少ししてボソリと呟いた。
「……我慢というのは難しいですね」
どんな意味にしろ分かりみが深い言葉だった。
「鈴木さん」
「なに?」
「ケーキ、美味しかったです」
「ん、なら良かった」
「あれはなんで買ってきてくれたんですか?」
なんでと聞かれても。
「……愛染さん好きかなって思って」
「私の為ってことですね」
「そう」
「私のために私を想って選んでくれたと」
「誤解を恐れずに言えば」
「……なら許します」
そう言ってお弁当に手をつける聖女様。
「手荒いことしてしまいましたね」
「気にしてないよ」
「それに少々我欲が出すぎました。不快に思いましたか?」
「さっきも言ったけど私も面倒な女みたいなんだ」
それも親から遺伝の。
「強引なのも嫌じゃないよ。愛染さんなら」
そう答えると少し間を開けてから、聖女様がくすりと笑って言った。
「相性が良いのも考えものですね」
全くもってその通り。
「来週テストが終わってから二人で出かけましょうか」
お弁当もデザートも満足して貰えたようで、残った昼休みの時間をのんびりしているとそんな事を言い出す聖女様。
「私はいいけど、時間大丈夫なの?」
「暇つぶし程度の習い事ですから。それに鈴木さんと出掛けたいと常々思ってましたから」
それは私も悪くないとは思うけど……。
「あんまり高い店はちょっと……」
「私が鈴木さんにそんな事求めると?」
「だよねー。良かった」
小市民かつ、貧乏な私からしたらそんな事を求められても答えられないし。
「一人では回ったこと無い場所が多いんですよ。鈴木さんのエスコート楽しみにしてますね」
つまり貧乏女子高生としての私らしいエスコートがご所望ってことね。
気楽でいいや。
「その前にテスト赤点にならないようにしないとね」
「鈴木さんは確か前回余裕で大丈夫でしたよね」
「私要領悪いから、いつも余裕回避は無理なんだよね」
不器用かつ要領が悪いのを自覚してるので、人よりも努力が必要なんだよね。
何よりもある程度成績は良くしておきたいし。
私みたいなのが進路を考えるのに早すぎるなんてことないから。
「では、家ではなるべく一緒に勉強しましょうか」
「いいの?仕事なのに」
「鈴木さんを手取り足取り教えてるのは悪い気はしませんから」
穿った見方をすればリードしてるのが楽しいってことだろうか。
何にしても有難い。
「お礼はテスト後の楽しみにとっておきますね」
ハードル上がった気がしたけど、私としてもせっかく二人で出掛けるならそれなりに頑張りたいとは思うし、少しプランは考えておこう。
「ちなみに水蓮寺さんとはよく遊ぶんですか?」
「それなりかな」
瑞希は恋多き女だから、遊ぶ頻度はまちまちなんだよね。
たまに恋人より私優先することもあるけど、割と稀だし。
「そうですか」
「一応言っておくと、瑞希とはただの親友だよ」
「知ってます。でも水蓮寺さんは手が早いようなので」
親友の悪癖をご存知らしい。
「去年のことでしたか。三十代くらいの女性と歩いてるとこを見かけました」
人妻でないことを願おう。
「最近までは2つ上の学年の先輩がお相手だったとか」
「詳しいね」
「調べましたから」
それは私の一件があったからだろか?
そうだったら嬉しいなんて業が深い自分に呆れてしまう。
「鈴木さんのことも調べていいですか?」
「まだ調べてないんだ」
「大体は調査が終わってます」
「聞くまでもない疑問だったってことか」
「そうなります」
まあ、知られて困ることはあんまりないしいいけど。
そんな事を思っていると、聖女様はそっと懐から何かを取り出すと私の前に置いた。
これは……鍵?
何の鍵だ。
「これは?」
「私の部屋の鍵です」
お茶を吹かなかった自分を褒めたい。
「冗談です」
「だよねー」
「それはもう少ししたら渡します。こちらの鍵は別のものです」
そう言って聖女様は動かすように指を部室の隅に向ける。
よく見ると見覚えのない金庫が増えてた。
気づけよ私と思いつつも、さっきまでそれなりに冷静さを欠いてたと言い訳はさせてもらおう。
「私を知りたいと本気で思ったら開けてみてください」
つまり聖女様の何かしらが分かるものが入ってると。
「出来ればそれは本人から聞きたいんだけど」
「伝えにくいこともありますよ。添い寝してくれたらペラペラ喋りますけど」
「……気が向いたらにしておきます」
「それは残念」
まあ、私は聖女様みたいにお金をかけて探偵とかに依頼して身元を洗うとは調べることが出来ないから、見たい気もするが、そういうのはゆっくり本人から知りたい気持ちもある。
そのうち、必要な時かどうしてもって時、最悪卒業までには見るとしてだ。
「ちなみにこの中に入ってるのって……」
「私のプライベート写真ですよ」
今すぐ開けたい気がするけど絶対嘘だ。
顔に書いてある。
「冗談です。私はこれでも結構面倒な場所に居ますから。何かと保険を残しておきたいんですよ」
意味深なことを言う聖女様だこと。
「さて、そろそろ時間ですね」
時計に目を向けるともうじき昼休みが終わる。
あっという間だなぁと思いながら片付けて部室を出ると、聖女様は先に教室へと向かっていく。
一緒に行くと色々面倒だもんね。
少し残念な辺り、我ながら欲深いものだ。




