11 聖女様は遊びたい
聖女様の屋敷である愛染家は主に4人の使用人が中心となって主の留守とご息女の安全を守っている。
聖女様の両親に変わって家の管理を実質的に任されてる家令とでも言うべきイケおじの近藤さん。
聖女様の運転手兼足役の伏黒さんとその同僚の小沢さん。
そして料理長であり、私の叔父と親交があるらしい長谷川さん。
広い屋敷の掃除やら細かな雑務をする人は無論居るが、ほとんどが中心となってる4人の関係者らしい。
そんな中に入った私はある位置特例なのかもしれないが、その四人との明確な違いは雇い主が聖女様かその両親かの違いだろう。
前者は私。
後者は他の4人やその関係者。
後にも先にも聖女様が雇った唯一が私らしい。
まあ、正社員とアルバイトじゃかなり役割が違うのもあるけど、私は基本聖女様の身の回りのお世話と夕食を作るのが主な仕事。
お昼はあくまで個人的に作ってるのだが、材料費を渡されてるし手を抜いてはいない。
むしろめっちゃ頑張ってる。
美味しいって言われたいし。
さて、身の回りのお世話と言っても朝から晩まで付きっきりな訳でもないのでやる事は限られる。
夕飯を作ることを除けば身の回りの世話よりも聖女様の暇のお相手の方が恐らく仕事内容として正しい。
「今日はこんな所でいいでしょう」
聖女様の言葉に一息つく。
アルバイトしに来てるのに、その時間に勉強を雇い主から習うとはこれ如何に。
恵まれ過ぎどころかお金を取られてないのが不思議だが、自身の勉強が問題ない以上向こうとしてはこれくらい訳ないどころかむしろ教えるのが楽しいとさえ思ってくれてるようだ。
「鈴木さんはやれば出来る子ですね」
「褒められてるの?」
「ええ。色々仕込みがいがあります。私色に染めるのが楽しいと言うべきでしょうかね」
「染められてるんだ」
「嫌ですか?」
「悪い気はしない」
くすりと笑う聖女様。
聖女様は教えるのが凄く上手い。
それは間違いない。
私みたいな要領悪いのがほとんど躓くことなく理解できるのがその証拠だ。
「さて、次はゲームでもしましょうか」
時間を見ると夕飯の用意までまだ時間はある。
短時間でここまで捗るなんて滅多にない経験をしながら、勉強部屋から続いてる聖女様のゲーム部屋に移動する。
「いつ来ても凄いね」
勉強部屋には参考書の類や本なんかが多いが、ゲーム部屋にはレトロゲームからはじまり最新のゲーム機のハードとソフトが揃ってる。
聖女様の趣味でジャンルは偏り気味だが、それでもメジャーなのはほぼ網羅してる様子。
「最近になって種類が増えましたから」
「そうなの?」
「ええ。鈴木さんとやりたいゲームで棚をいくつか増やしました」
よく見ると確かに少し棚の年季が違うような。
とはいえ日々の管理でほとんど分からないレベルなんだけど。
「愛染さんってこんなにゲーム好きだっけ?」
「普段はそれ程やりませんよ。棚にある中の半数は手すらつけてませんし」
確かに未開封品も結構あるな。
「勿体ないなぁ」
「そう思うなら一緒にやってください」
「いいけど、私そこまでゲーム得意じゃないよ?」
親友の瑞希なんかはゲーム得意でランクマとかあるゲームで上位にもくい込んでたらしいけど、私はそれ程ゲームはしない。
家庭用のゲーム機とかは基本持ってないし、持ってるのは携帯ゲーム機が中心で持ってるタイトルも、モンスターをゲットしたりあつまってくだせぇ、アニマル様やら以外だとノベルゲーばかり。
文字を追いかけるのが好きというか、物語性のあるストーリーのある物が好きなんだろうけど、その点で言えばラノベや漫画の方が恐らく持ってる。
「得意でなくてもお好きでしょう?」
「まあ、それはそうかな」
フルプライスは懐に悪いからなぁ。
ラノベや漫画も全巻買うと馬鹿にできない値段になるけど、電子はセールが多くて助かる。
「これで漫画やラノベコーナーが増えたらここの子になってそう」
「それはいいですね。早急に取り掛かります」
冗談だろうけど、割とマジで聖女さまの家の財力ならそのうち実現しそう。
「とはいえ、それはもう少し先ですね」
「そうなの?」
「ええ。持ってない物の方が餌になりそうですし」
「単純な生き物を釣ってるようで」
「可愛いんですよ。早く水槽で飼いたいです」
来る途中で見た犬の居ない犬小屋だけでなく、大きくて綺麗な水槽も要注意するべきかもしれない。
「それに私、鈴木さんから借りるのが好きなんです」
そう微笑む聖女様。
趣味も割と合うし喜んでくれてるならいいけど。
「それで?何のゲームするの?」
「せっかくなのでこれでどうでしょう?」
私達が小学生くらいの時に流行ってたハードとソフトか。
「ついでにちょっとした罰ゲームでも賭けましょうか」
「スカート丈はどうか勘弁を……!」
一昨日、日曜日に着る予定だった衣装とやらを着せられて辱めを受けたばかりなんだよ、あたしゃあ。
「似合ってましたよ」
「ほぼパンチラしてた衣装でそんな感想言われてもなぁ」
「私も着たのでセーフです」
そう、何故か聖女様もお揃いの衣装を用意してノリノリで着てたんだよね。
私よりもスタイル良くて似合ってて、めちゃくちゃえっちかったけどそれは言葉にしない。
どうせバレてるし。
「次はどうせならそういう舞台で衣装でも着ましょうか」
「コミケとかでコスプレでもするの?」
それはちょっとなぁ。
一昨日のだって聖女様だけだから着たけど、不特定多数に見られたくないし。
何よりもあんまり露出は得意じゃないんだよね。
見せたくないものもあるし。
「いえ、私の家でですよ。私、人に素肌見せたくありませんし」
「私にはいいんだ」
「鈴木さんですから」
ペットの視線を気にしないという意味か、同性だからいいのか。
はたまたそれ以上の何かか。
深くは問うまい。
ペットだったら怖いし。
「流石に全裸はもう少し時間をください」
「私、そんな事求めたっけ?」
「一昨日のいやらしい視線はゾクゾクしました」
そ、そんな目でみてないし。
「まあ、冗談はさておき、私以外の前では鈴木さんにあんな格好はさせませんよ」
「本当に?私の辱めた顔見たさにやらない?」
「……しませんよ」
一瞬の間がめちゃくちゃ恐ろしい。
「好きな物は独り占めしたいんですよ」
ポツリと、本当に聞き取れるギリギリの声で呟いた聖女様。
独り言だろうけど、変な勘違いをしそうになるくらいには本心が混じってたような。
「ば、罰ゲームどうすの?」
目を背けるのが難しくなってる中、なんとかそう話を戻す。
「そうですね。では鈴木さんが負けたら学生証を口にくわえてピースした写真を撮るということで」
「なにその同人誌みたいなやつ」
「お嫌いですか?」
「展開的には好物だけど、自分でやる気はないかなぁ」
ていうか、よく知ってるねそんなムフフなやつ。
「では妥協案で」
そう言って、聖女様は可愛い猫の卓上カレンダーをめくると7月後半から8月を指さす。
「負けた回数に応じて泊まり込みでどうです?」
夏休みのスケジュールがこの勝ち負けで決まってしまうのか。
「うーん、1日だけ叔父さんと会う時間くれるならいいよ」
「負ける気満々ですね」
「私が何度愛染さんに負けてると思ってるの?」
アルバイトを始めた日からゲーム類はほぼ全敗してるし、何なら勝ちどころか引き分けにも持ち込めてない。
「アルバイト代、期待してるよ」
「鈴木さんが首輪を付けてくれたらプロ並の年俸出しますよ」
「尊厳までは捨てれないかなぁ」
叔父さんに就職先がペットと伝えたら絶対困惑されるだろうし。
「じゃあ、やろうか」
「断わられるかと思いました」
「断ってもいいけど?」
「いえ。鈴木さんが誘い受けしてくれるなら遠慮なく縛り付けますよ」
誘い受けか。
言い得て妙なのだろうか。
私は聖女様とどうなりたいのか。
そうなったらダメだと本能は言ってる。
叶ったら絶対聖女様を更に求めてしまうと分かってる。
答えを出さないまま気持ちだけ先走ってこんな賭けまで受け入れてしまう。
本当に――愚かな女だ、私は。
そんな母親譲りの醜さの塊は相応しくないのかもしれないが、不思議とこの場所を譲りたくない。
そんな事を思いつつもゲームはゲームなので真面目に戦うが勝てる訳もなく。
夏休みのほぼ全てをバイトに捧げることが確定したのだった。
仕方ないよね、うん、仕方ない。
私は約束を守る女だからね。




