6 聖女様とお食事
意外な繋がりを知った後。
無事に料理は完成して、広いダイニングで私は聖女様と一緒に食事となった。
一緒に食べるつもりはなかったのだが、聖女様から言われたら断れまい。
「肉じゃが美味しいですね」
「そう?」
「ええ。これなら毎日食べたいです」
……昔ながらのプロポーズじゃないと分かってても勘違いしそうになるのはわざとだろうか?
「普通は味噌でしたね」
「プロポーズ?」
「ええ。この前貸して貰った漫画ではそうでしたね」
あー、あのラブコメものか。
「ていうか分かってて言うかな普通」
「お嫌いですか?」
「悪い気はしないけど」
そう答えると満足そうに味噌汁を一口飲む聖女様。
ナチュラルジゴロめ。
「ここで二人以上で食事するのは本当に久しぶりですね」
味噌汁を飲んでほぅと一息してから、ふとそんな事を言う聖女様。
「そうなの?」
「ええ。父も母も多忙ですから」
「お仕事とか?」
「父は基本海外ですね。飛び回ってるみたいで私が中学に上がってからは確か一度しか帰ってきてませんね。母は父の会社の他に自分の会社もあるので半年に一度帰ってくれば良い方ですね」
愛染家も色々あるのだな。
「なので今は私しか家に居ません」
「定番のセリフだけど、使用人さんいるよね」
「ドキッとしませんか?」
するかしないかで言えば、少し悔しいがする。
わざとらしい上目遣いなのにその綺麗なオッドアイで見つめられると勘違いしそうになる。
「そういえば、私も誰かと食事は久しぶりかも」
話題を変えるようにふと私も思ったことを言ってみる。
叔父さんと住んでた頃は叔父さんと一緒に食事を取ってたけど、一人暮らしを初めてからは久しく夕飯を共にしたことはない気がする。
「なんか悪くないね」
「そうですね」
和やかだ。
実に和やか。
私がメイド服である点を除けばだが。
「着替えちゃダメ?」
「お仕事中ですからね」
「だよねー」
雇用主には逆らえまい。
でもフリフリしたメイド服で一緒に食卓を囲んでるとなんか場違い感が半端ない。
「決めました」
「何を?」
「なんだと思いますか?」
「今夜私を抱き枕にする……とか?」
「それもいいですね。していいですか?」
「着替え持ってきてないから」
「用意しますよ」
あかん、これ押し切られるやつだ。
「とはいえ、それはまたの楽しみにしておきます」
ホッとしたようなちょっと残念なような。
「決めたのはこれの事です」
そう言って食事と私を視線で指し示す聖女様。
「作るだけじゃなくて一緒に夜食べましょう的な?」
「その通りです」
「私はいいけど、ご家族帰ってきたらびっくりしない?」
メイド服を来た同級生を連れ込んだ娘を見て何を思うか非常に興味深い。
当事者でなければ。
「帰ってこないので問題ありませんよ」
「……まあ、愛染さんがいいなら私に異論はないよ」
家に帰ってから自分の夕飯作って食べる手間が無くなると思えば楽だし、何より誰かと食材も悪くない。
「次は新妻エプロンですかね」
「何を持ってその言葉を出したのか説明を求めても?」
「通い妻みたいじゃないですか。私のために夕飯作ったりお弁当作ったり。せっかくなので雰囲気に合わせましょう」
通い妻ねぇ。
「叔父さんにいつの間にか嫁入りしたって連絡しなきゃダメかな」
「責任は取りますよ」
「首輪チラつかせながら言われてもときめかないってば」
なんでわざわざ持ってきてるの?
「つまり首輪がなかったらときめくと」
「さてね」
「鈴木さん。照れた時に頬を撫でるのは癖ですか?」
ハッとして思わず手を頬にやると実に良い笑みを浮かべる聖女様。
「私、鈴木さんのこと大好きかもしれません」
「喜んでいいの?この状況で」
「はい。聖女の寵愛を受けたと悟ってください」
自分で聖女言うかね。
そんなやり取り聖女様が楽しんでる時だった。
不意にスマホの着信音が鳴る。
私……ではないな、聖女様か。
初期設定の無機質な音が響くと聖女様は少し表情を曇らせてからすぐに着信を止める。
「出なくて良かったの?」
「いいんです。今は楽しい時間ですから」
「そっか」
誰からかはさておき、さっきみたいな顔をみると……なんか少しモヤッとするのはなんでだろう?
そんな事を思いつつも食事は割と和やかに過ぎていき、初めての仕事は順調と言えた。
帰りの時間が思ったよりも遅くなったり、お風呂まで借りた時は帰れないことを若干覚悟したけど帰りの車を用意された事で少し安堵した
少しだけ……本当にほんの少し、心の奥底で残念な気持ちがないと言ったら嘘になるが絶対言葉には出さない。
まるで私が聖女様の家にお泊まりや聖女様と添い寝を期待してたみたいでなんか恥ずかしいし。
ちなみに運転手は何故か料理長がしてくれた。
いつもの聖女様の運転手ではないけど、こっちの方が気楽でいいや。
家に帰って部屋に入ると、いつもより少しほんの少し寂しく感じる。
気のせいだと思いたいと思いつつ、着替えて歯を磨いてから布団に入ると睡魔は結構すぐに来た。
よく眠れそうだ。
明日は瑞希と会うから次の仕事は日曜日か。
明日余った時間でもう少しレパートリー増やそうかな。
一夜漬けは意味無いか。
でもなんかもっと笑顔にさせたいしなぁ。
うっつらうっつらとした意識が閉じる中、頭の中で最後に考えたのはそんなことだったが、不思議と悪い気はしかなかった。
なんでだろうね。
不思議だ。




