4 聖女様のアルバイト紹介
世の中、上手い話には裏がある。
殿方と会ってお茶するだけで五千円以上稼げるというようなチラシの裏にでもありそうな怪しい話は色々あれど、聖女様の紹介なら少なくとも如何わしいことはないだろうと私は思ってました。
「よく似合ってますよ」
「くっ……殺せ。辱めは受けぬ」
「何をおっしゃるのやら。これはただの制服ですよ?アルバイトにはあるのでしょう?ファミレスの店員のようなものです」
メイド服を着るのはメイド喫茶だけだと私は考えていたのだけど、どうやら聖女様には常識は通用しないらしい。
そう、私は今メイド服を着させられていた。
場所は聖女様の御屋敷。
凄いよね、『家』ではなく、『屋敷』という呼び方が相応しいマジモンの御屋敷に聖女様は住んでいた。
「ふふ、やっぱりこういう服も鈴木さんに似合いますね。雇って正解でした」
「着せ替え人形がご所望なので?」
「私の専属メイドが欲しいんです」
何も素人に頼まなくても……。
「私、人見知りなんです。だから、面識のあるコミュニケーション力の高い同年代の可愛らしい女の子でないとダメなんです」
「絶望的に私は対象外じゃん」
「真逆の評価をありがとうございます」
そもそも、人見知りというのが嘘すぎる。
学校でのあの聖女様フェイスはカウントしないのだろうか?
「執事服も似合いそうですけど……これは日替わりにしましょうか」
「男に飢えてるのなら、同級生の男子を誘ってみては?」
「嫌ですよ。汚い」
全国の男子高校生を敵に回しそうな発言と、同じく全国の男子高校生を虜にしそうな笑みが同居していた。
恐ろしい女だ。
「はぁ……それで、私はここで着せ替え人形になるのではなく、仕事内容は別にあるということで?」
「その通りです。まあ、着せ替え人形も仕事には入りますが」
何故だろう、如何わしいバイトじゃないと思っていたのにそっち方面にすら感じるこの矛盾。
「私の身の回りのお世話が中心です。放課後と休日出勤で、夕飯やお弁当も作ってください」
「それは私でなくてもいいような……」
本職がいるのだから、むしろ私邪魔じゃね?
「家庭料理が恋しいんです」
「まあ、構わないけど。それよりも私ここに居る間はこの格好じゃないとダメなの?」
「はい、必須です」
家事手伝いのような仕事かと思ったら、着せ替え人形が本職のような気がしてきた今日この頃。
「別に、その程度ならバイトじゃなくてもいいような……」
「具体的には?」
「食費を渡してくれるなら、お弁当くらい毎日作るよ」
「……よろしい。ではそちらは業務外にしましょう」
自ら報酬を減らしてしまったけど、私の料理でお金を貰うのは悪い気がする。
それに聖女様になら別に毎日作ってもいいしね。
ふと、私の格好を眺めていた愛染の視線が私の首元で止まる。
「どうせならもう一つアクセサリーを付けましょうか」
そう言って首輪を取り出す聖女様。
おかしい、犬も猫も飼ってないのにナチュラルに首輪(それも私にサイズが合いそうなやつ)を取り出すのもだが、メイド服を着せた時よりも目にマジっぽさを感じなくない。
「なんでも着ますんでそれだけはどうかご勘弁を」
「仕方ないですね」
肉を切らせて骨を断つ。
そんな想いでなんとか首輪は回避出来た。
あれをはめたらこの屋敷から人として出れなくなる気がするので間違ってない判断だと我ながら思う。
「では、早速お仕事をお願いしますね」
名残惜しそうに首輪を置いてから取り出したのは……カードゲーム?
しかも最近流行ってきた古株のやつだ。
可愛いモンスターのキャラがイラストとして描かれてるけど、デッキが二つあるとすればお相手しろということか。
「ルール知らないんだけど」
「私もですよ。可愛いから集めてましたけどやる相手が居なかったので観賞用でした」
ご丁寧にルールの書かれた紙まで渡される。
「鈴木さんが勝ったら給料二倍ですよ」
「負けたら?」
「スカート丈が2cm短くなります」
めちゃくちゃ闇のデュエルに思えるけど、心做しかワクワクしてそうな聖女様を前に断ることも出来まい。
「私の雇用費高くなっても恨まないでね」
「安心してください。丸裸にはしないので」
どちらも初心者だし、それなりに良い勝負が出来るだろうとこの時は思ってた。
この時はね。




