26 カレンと私
ドキドキの未来の姑と大姑への料理の試練は及第点は貰えたと思う。
どこか懐かしそうな顔で料理を食べてたのは気になったけど、カレンの美味しそうな顔を見ればそんな疑問は些細なものとなった。
「ふぅ……」
借りた部屋は何故かカレンの部屋の近くだった。
しかもカレンの複数ある部屋から直に続いてる部屋なので本来は客用に出す部屋ではなさそうだ。
大きなベッドに横になって、チラリと見ると壁際に隣のカレンの部屋に続く扉があり変に意識してしまう。
うん、昨日も一昨日もホテルで同室だったし、別部屋なんだからソワソワする必要は一切ない。
ないのだが……お互いホテル生活の時は変なテンションで私は駆け落ち前提でそれなりにガチな思考だったので全て終わったせいで邪な気持ちが顔を出してきたのだろう。
そう冷静に自分を見つめていると、コンコンというノックもなしにガチャりと正面の出入りのドアが前ぶれなく開いた。
鍵は一応してたけど、マスターキーを持ってる人に逆らえるわけもなく。
入ってきたのは当然、カレンだった。
「お邪魔しますね」
ガチャりとまた鍵を締め直して、実に自然に隣に座ってくるカレン。
何故だろう。
妙にギラギラした意志を隠して入ってきたような気が。
気のせいか?
「そっちから来るのかと思ってた」
カレンの部屋に地続きの扉を見て言うと、カレンは実に良い笑みで答えた。
「それはまた今度でもいいですから」
次があるというのは素晴らしいのだが、何故だか変な昂りを感じなくない。
そう思っていると、カレンはガバッと何の前触れもなく私を押し倒すとベッドの上で馬乗りになって言った。
「母と祖母が帰るまで我慢するつもりでした」
ドキドキと心臓の音が聞こえてくる。
どちらの鼓動か分からない。
綺麗な銀髪が頬を撫でて、オッドアイがいつもよりギラギラと欲のある目で私を見つめてくる。
「なんの真似かと問うほど初心でも鈍くもありませんよね?」
分かってるつもりだった。
ホテルで着替えた時、チラチラと私が覗き見してたのに大してカレンが実に何かを抑えるようにガッツリ私の着替えを見てたことを。
薄い胸や色気のない下着姿を見て何が楽しのか分かりなかったけど、私がカレンに愛情だけでなく情欲も持ってるように彼女も私にそれを抱いてても不思議がない。
障害はなくなり、互いに気持ちが交わり、親公認となった今ここに無粋が介入する余地はない。
強いて言うなら互いに学生の身ということだが、健全な高校生の恋愛で体を交えてない清い関係は私の知る限り三割か四割くらいだろう。
遠距離とかを含めてるし多分に甘めに見積もってる偏見なので悪しからず。
そっとカレンが私の頬を撫でて、その手が首筋を撫でる。
柔らかい指先が私を楽しむように動く。
くすぐったい気持ちとゾクリとした感覚が私の体を熱くしようとする。
「我慢する気だったんですよ」
そっと耳元に顔を寄せ、息をかけるように囁くカレン。
まさぐる手が私を脱がそうとする。
「でも、幸恵さんが悪いんです。私をこんなに……ドキドキさせたんですから」
分かりますかと言わんばかりにわざとはだけさせた自身の胸に私の手を当てるカレン。
ドキドキと直に鼓動が手を脈打ち、いつもは憎悪の視線でしか見れない二つのたわわな果実が妙に色っぽく感じる。
「幸恵さん。もう逃がしませんから」
覚悟を決めないといけない。
そう思ったけど、私の勇気は少し前に底を尽きていた。
安心した私、リラックスしてる私はこれまで無視してた臆病な私に気がつけば意識を僅かに取られていた。
「や……」
「?」
「優しく……してください……」
ぎゅっと目を瞑ってそんな素っ頓狂なことを言う私を見て……カレンは思わず笑い出していた。
「ふふふ……ごめんなさい。そんな可愛いことをあれだけカッコよかった幸恵さんが言うなんて……あはは」
実に楽しそうだ。
そして煩悩が少し去ったのか隣に座り直すカレン。
……はだけた胸元やズレたスカートなんかはそのままなのであれだし、私も半脱ぎ状態なのであれだがそういう気持ちはお互い少し落ち着いてしまったらしい。
惜しいような安心したような。
複雑だが、これが今の私だから仕方ない。
「幸恵さん」
「なに?」
「今日は可愛い幸恵さんに免じて添い寝だけで勘弁します」
「出来るの?」
「非常に……本当に非常に惜しいですけど、あんな可愛いことを言われたら引かざるを得ません」
その気満々で来たので少し引づてるのは理解出来た。
「でも私はもう遠慮することはありません。肝に銘じておいてください」
「……私だってそのつもりだよ」
もう絶対に――カレンを手離さない。
「ふふ。そうですね」
そっと私の肩に頭を預けてくるカレン。
「幸恵さん。明日も学校休みましょうね」
「進路が心配になるけど……仕方ないよね」
「進路なんて決まってますよ」
「え?そうなの?」
「はい。どう転んでもどんな道を通ろうと私の元に嫁ぐと。遅いか早いかの違いです」
私が嫁ぐ側らしい。
「それは将来安泰そうだ」
「ですです」
まあ、夢も希望もない流されるままに生きる私にとってはそういう強引な選択肢の方が嬉しくもある。
「叔父さんに何て説明しよう」
「次の休みに二人で出向きましょう。県外デートのついでにきちんと挨拶もしてきます」
「ついでなんだ」
「好きな人の家族でも私は好きな人を優先しますから」
それは実にカレンらしいなぁと思わずくすりと笑ってしまう。
「カレンさん」
「はい」
「お弁当。また作るね」
「楽しみです」
「それと、部室にも来てよ。1人じゃ寂しかったんだから」
「ふふ。幸恵さんは私が居ないとダメな子になりましたか」
「うん。だから二度と……私の前から消えちゃダメだよ?」
そう祈るような気持ちも込めて言うとカレンは「絶対離しませんよ」とにっこりと答えてくれた。
その日の夜、同じベッドで初めて添い寝をした。
後から聞いたけど、ホテル暮らしの時に私が寝落ちしてる間に添い寝するためにカレンは私のベッドに侵入したそうだが……意識がない中なのでノーカンで。
ドキドキの添い寝は不思議と互いの体温が感じられて、恥ずかしい気持ちと安心する気持ちでごちゃ混ぜになって結果的によく眠れた。
同じ部屋から出たところを長谷川さんとクラウディアさんに見られてニヤリと親指を立てられたが……やましい事は何もしてませんよ?
カレンが「素敵な夜でした」とうっとりと言うので誤解が広がったが、姑にまで広まらなかったのだけは少し安心した。
大姑なら分かってるだろうし、笑って済ませてくれるだろうけど未来の姑はその辺案外キッチリしてるだろうし。
いきなり破局はごめんだと思いつつ、キアナさんの出立をお見送りした。
「今度はあの人と帰ってくるわ。なるべく頻繁にね」
その言葉にカレンは少し嫌そうだったけど、私としては生きてるうちにもう少し親子を楽しめた方が良いと思う。
私も叔父さんに出来る限り親孝行したいし。
実の両親にはしたくても出来ないし、例えしても喜ばれないだろう。
だから今の家族と未来の家族には出来る限り孝行したいものだ。
勿論、カレンと一緒に。
そっとカレンが私の手を取ると自然に恋人繋ぎをする。
「幸恵さん。行きましょう」
「うん」
休みとはいえ明日こそ学校に行かないと。
出席日数は大丈夫だろうけど、唯一の私の自慢である無遅刻無欠席は破られてしまった。
カレンにならそれも悪くないだろう。
「カレンさん。責任取ってね」
「幸恵さんも責任取ってくださいね」
うん、これぞ私達。
重い女だなぁと思いつつ悪くない気分に互いに頬を緩ませる。
ちにみにクラウディアさんはしばらく屋敷に残るらしい。
後に恵さんのことを聞くと「本人に聞いてクダサーイ」とはぐらかされるが、それが一番だと後々考えるとそう思ったのでかなり見た目によらずしっかりしてる人だなぁと思う私は結構失礼だったかも。
そんな事気にする人じゃないけど、一応後にそれを思った時は謝った。
ノープロブレムと笑い飛ばされたけど、それはそれとしてお菓子を作って大姑のご機嫌を取っておく。
無論、カレンの分のついでだが。
こうして見ると私も結構良い性格をしてたものだ。
明日、瑞希に感謝を伝えないと。
あの親友はいつも通り笑顔で出迎えてくれるのだろう。
意外と世話焼きでお節介な親友には大きな借りがまた出来たけど悪い気はしない。
結婚式には招待するつもりだ。
「花嫁姿の時は話しちゃダメですよ」
そんなカレンの瑞希への警戒と勘違い、そして嫉妬と微笑ましく感じてしまう私は色ボケだろうか?
いいや。
好きな人に面倒な自分を見せると決めた時点で今更か。
そう思いつつ明日のために色々手回しつつ、カレンと過ごした。
クラスメイト達にはまた聖女になるのだろう。
そんな彼女は私の前では素のカレンとなる。
小さな自慢を胸に……可愛い最愛とまた日常に戻る。
変わることと言えば……私たちの関係の呼び名くらいか。
友達ではく――恋人、あるいは婚約者と。
悪い気はしない。
絶対、この最愛の人を誰にも渡さない。
カレンは私のものだと今度は勇気を持って言えそうだ。
だってそれだけは譲れないもの。




