24 聖女じゃないカレンの気持ち
スカートは置いてきた。
この戦いには着いてこられないから。
そんな覚悟で乗り込んだ先で、見知った銀髪の外国人さん……クラウディアさんが居た気がしたけど、割といっぱいいっぱいな私は気にすることも出来ず、愛染さんを――カレンさんを連れて走っていた。
息が上がる。
ここに来るまでも走ってきたし、逃走車も追いかけてる車と比べると心もとない。
「愛染さん乗って」
「可愛い白馬ですね」
言わないで!
私は白馬の王子様ではない。
用意できたのは小さな小さなシルバーの子馬。
その名は――荷台付きのママチャリだ。
「お願いしますね」
「ガッテン!」
運転席に座る私に抱きつくように着物なのに綺麗に座る愛染さんは実に楽しげだ。
もっと思い詰めてるかと思ったけどそんな訳なかった。
瑞希の言う通りだったかな。
「二人乗りは怒られますね〜」
「いいんだよ。後で私がしこたま怒られるから」
その程度で済めば御の字だ。
息の上がる中、慣れない二人乗りをなんとか制御して会場をグングン離れていく。
追ってがいつ来るかというドキドキと漕ぐ度に上がる息、そして後ろから抱きついてくる愛染さんの心臓の鼓動がダイレクトに響いてくる。
「来てくれたんですね」
ぽつりと風を感じながらそんな事を言う愛染さん。
「私、面倒くさい女だから」
「そうみたいですね。私も同じです」
手が少し震えていた。
私の震えが伝染したのかと思ったけど、それだけじゃないらしい。
「ごめん。遅くなって」
「いいんです。来てくれたから」
「愛染さん」
「違いますよね?」
ジーッと欲するような視線を向けてくる想い人に――私は恥ずかしさを誤魔化すように全てをかなぐり捨てて叫んだ。
「――カレンさん!」
土壇場での咄嗟の名前呼びと違って、恥ずかしさもある。
でも――。
「――はい。幸恵さん」
そう答えてくれる好きな人にそんな気恥ずかしさは消し飛ぶ。
名前で呼ばれた。
最後の線引きが消え去ったようなそんな感じ。
「――幸恵さん。私のこと好きですか?」
追い打ちをかけてくる想い人。
「好きですよね。言葉にしてくれないと分かりません」
――あぁ、もう!本当に良い性格してるよ!
そんないつも通りなカレンに私はやけになって叫ぶ。
「好きだよ!カレンさんのこと好きだから、誰にも取られたくなかったから奪ってきたの!」
そう叫ぶとカレンは更にぎゅっと嬉しそうに抱きついてくる。
「私も好きです。幸恵さんのこと大大大好きです。もう絶対離しません。どこまでも逃避行しましょう」
そのつもりだけど言葉にされると照れるから!
「幸恵さん。私は聖女なんかじゃありません」
「知ってる!」
「私はそんな神聖なものじゃなくて、一人の想い人を無理矢理連れ去るように暗躍する悪女です」
「それも知ってる!」
「悪女は否定してくださいよ」
事実だし。
でも――。
「そんな所も好きだから仕方ないじゃん!」
「――っ!もう、幸恵さんは本当に……」
――愛おしい人ですね。
そんな声なき声が伝わってくる。
私はこの時アドレナリンやらドーパミンがドバドバだった。
会場までチャリで来て、走ってカレンを迎えに行って、二人乗りで去っていく。
間違いなく過去一の運動量だけど、汗が出てもカレンは決して離れようとしなかった。
むしろ絶対離さないよう――離れないように抱きつく。
いつもなら汗臭いと思われたくないから離れて貰おうとするだろう。
でも今だけは――どうかこのままカレンとの二人だけの時間を。
風で後ろの銀髪が舞う。
「最高に綺麗だね!カレンさんの髪も目も!」
驚くオッドアイにしてやったりと思う。
私は今ハイになってた。
その反動は止まってから全部来るのだが――今だけは格好つけておく。
「カレンさんの全部全部――私のもんだ!」
そう叫ぶとカレンは更にぎゅっと抱きついて「幸恵さんの全部も私のものです」と負け惜しみを言う。
「幸恵さん――ありがとうございます」
そう心から笑みを浮かべるカレン。
「私を奪い去ってくれて――私を愛してくれてありがとうございます」
お互い様!と叫ぶまでもなく私は速度をもう一段階あげる。
格好つけてもこの後情けない姿を見せてもいい。
これからは何があっても――ずっと一緒だ。
そう決意したから。
呪縛は燻る。
臆病な自分は驚き目を見張る。
関係ない。
私はカレンのことが好きなんだ。
この気持ちだけは――真実なんだから!




