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うちの学校の聖女様は、私の前だと何故か素になる  作者: yui/サウスのサウス


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20 迷いの先

翌日の放課後。


私は昨日貰った地図の画像を見ながら赤丸の付いた目的地の店へと向かう。


いつもの行動範囲の真反対の新鮮な道を抜けて行くと、目的地の店はすぐに見つかった。


少し路地に面してる古いけど格式のありそうなお店。


何度か本当にここでいいのか迷いつつも、勇気をだして店に入る。


「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」

「あ、えっと……待ち合わせ?」

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「鈴木です。鈴木幸恵」


訝しむ視線は霧散し、「鈴木様ですね。こちらに」とあっさりと案内される。


個室の部屋に案内されると、中には二人の女性が座っていた。


一人は黒髪の着物が似合う綺麗な女性。


もう一人は黒髪の女性に合わせるようにお揃いの着物を着てる、銀髪の綺麗な女性。


既視感のある二人だけど、銀髪の女性には既視感どころか先日会った記憶がある。


道案内をした外国人の女性だ。


「オー、キマタシタネ!コッチコッチ!」


実に良い笑顔で隣を勧めてくるその人に大して、黒髪の女性は私を見て驚いた表情を浮かべてから銀髪の女性を睨んで言った。


「……クラウディア。わざわざ呼び出した理由はその子ですか?」

「ソノトオデース!」

「そのわざとらしいカタゴトは止めなさい」

「むー、メグミは相変わらず厳しいデスネー」


「じゃあ、こっちにどうぞ」と先日とは打って変わって流暢になるクラウディアと呼ばれた女性。


普通に話せるんかいと思いつつ、状況を把握しきれずに座ると「何頼みましょうかー」と実に楽しげに話しかけられる。


「えっと。料理長……長谷川さんの知り合いですか?」

「その通りデース!もっと深い関係ですけどネ!」


よく分からないけど、長谷川さんの言ってた人がこの二人なのと長谷川さんとグルっぽいのがこの人なのは何となく分かった。


「あの、クラウディアさんとメグミさん?」

「イエース!私がクラウディアデース!」

「……苗字は申しませんが恵と申します」


銀髪の女性がクラウディア。


黒髪の女性が恵。


名前は分かったが今ひとつ長谷川さんの意図は分からない。


「あなたのお名前知ってマース!サチエ、デースね!聞きましたヨー。恋に悩んでたんデスネ!」

「恋ですか?」


ノリノリなクラウディアさんに大して、恵さん驚きながらどこか心配そうな視線を向けてくる。


「えっと。長谷川さんからはどれくらい聞いてますか?」

「あらずしは知ってマース!メグミは何も知らないので是非自分の口でお願いしますネ!」


知られてるのなら話してもいいものか。


そう迷っていると「他言はしませーん。ワタシ達口固い」と自信満々に言い張るクラウディアさんと複雑な表情をしながら静かに頷く恵さん。


この人達の事を何も知らないのに相談なんて普段ならしないが、叔父さん……いや、長谷川さんが話してる以上何かしら意図があるのだろうとポツリポツリと話していく。


私と聖女様のこと。


私が気づいた聖女様への気持ちについて。


そして……私の母のことまで気がつけば口にしていた。


騒がしいクラウディアさんはこの時は黙って話を聞いてくれた。


知ってる情報、新たに知った情報どちらも聞いてふむふむと頷く。


一方、恵さんも黙って聞いてくれたが私の話に何度か動揺するようにお茶を飲んでいた。


特に母の話をした時は悲しげというか、どこか寂しそうな表情を一瞬浮かべていた。


瞳が動揺してるように揺れ動いてるのも見た。


「……恨んでますか?家族を」


話し終えてから、少しだけ心が軽くなった気がしてきるとそんな事を聞いてくる恵さん。


「恨んでません」


それは確かな事実だ。


「私のせいでお母さんは苦しんだ。それは確かですし変えようがないので」


そう答えると恵さんはそっと瞳を伏せてから立ち上がると私の元に歩み寄ってきてそっと――私の頭を撫でた。


「えっと……」

「すみません。少しだけ」


そう言われて撫でられる。


知らないはずの手なのに、どこか懐かしさを感じる。


「一つだけ。言う権利はありませんが言わせてください」


そう言うと恵さんは私に目線を合わせるように腰を降ろすとその瞳を真っ直ぐにこちらに向けて言った。


「どんな親でも必ず子供に愛情を抱くものです。例え縁が切れようようと、例え憎くてもです」


そういうものだろうか?


分からないがその悲しげな瞳を否定は出来なかった。


クラウディアさんが仕方ないなぁと恵さんを落ち着かせると、率直に尋ねてきた。


「サチエはその子が好きなんデスネ?」

「……はい。好きです」


素直にそう答える。


あまり知らない人だからこそ自然と答えられたのかもしれない。


「何が怖いんですカ?」


ストレートなその言葉に……少し詰まりつつも答えていた。


「……気持ちを伝えて、砕けたらどうしようって思ってしまいます」

「それだけですカ?」

「愛染さんを傷つたらどうしようかって、母のように私が恋に狂って豹変したらどうしようって」


この自覚した気持ちを打ち砕かれたら、この気持ちで聖女様を……愛染さんを傷つけないかと。


母のように恋に愛に狂ってしまうかもしれない。


自分勝手に愛染さんに重荷を背負わせるかもしれない。


臆病な自分と手足を縛る過去の呪縛を言語化して並べていく。


「自分に自信がないんですネ」


それもある。


いや、自信なんてあるわけない。


私はそんな物を持てるほど立派じゃないからだ。


「なるほと。よくわかりましタ」


そう言ってからクラウディアさんは「では、聞き方を変えましょう」と質問を変えた。


「サチエは愛染カレンという子を知りたいですか?」


フルネームまで伝えただろうか。


「知りたいです」


そんなことを思う前に答えていた。


「でも。私には何も知る術がありません」

「本当にそう思いマスか?」

「えっ……それはどういう……」

「賢いその子は何も残さず、サチエを遠ざけますカ?」


その言葉に思わず目を見開いてしまう。


「動けないならそれを見越して動いていたなら何も残してませんか?サチエから見て、その子は何も残せるないような察してちゃんなか弱い女デスカ?」


違う。絶対そんなことは無い。


そう思ってふと思い出すのは部室での会話。


『私を知りたいと本気で思ったら開けてみてください』


そう言っていたのはいつだったか。


慌てて鞄を漁るとそれは出てきた。


その言葉ともに渡された鍵。


部室に唐突に置かれた謎の金庫の存在を。


あの時、聖女様が言ってた言葉、意味深な数々を裏付けるようなその鍵を見て、忘れてた自分の鈍感さに呆れつつ思わず立ち上がっていた。


「すみません、クラウディアさん、恵さん。私……」

「うむ!行ってラッシャーい!」

「……ええ。行ってください」

「ありがとうございます」


二人が誰なのか、どんな関係なのかとかなにも知らないし知る前に離れてしまったけど、それどころじゃなくなった。


知るのは怖い。


でも知らないで後悔したくない。


私は聖女様を……愛染カレンという一人の女の子のことを知りたい。


驚く店員さんに謝りつつ夢中で駆け出していく。


部室に。聖女様との想い出の場所に私は真っ直ぐ向かうのだった。





☆☆☆




幸恵が出ていった個室にて。


クラウディアがドアを閉めると恵は深く息を吐いて机に腕を着き、顔を俯かせる。


普段、そんな真似をしない恵には珍しい姿だが、クラウディアはいつも通りからかうことはしなかった。


「よく我慢できまネー」


そう言って慈しみの笑みを浮かべるクラウディア。


クラウディアと恵は親友だ。


それも古くからの。


クラウディアは幸恵の知らない、恵と幸恵の関係を知ってる。


故に急に呼び出して巻き込んでしまったことを詫びつつも、恵が冷静で居てくれたことに感謝した。


「……よしてください。取り乱しましたよ流石に」


そんな友人の言葉を顔を上げずに否定する恵。


恵は幸恵ことを知ってた。


それはかつて居た娘の忘れ形見であり、家を出ていった娘がこの世に唯一残していったもの。


幾度もツラい目にあわせてしまったと話を聞いてより一層深い深い後悔と罪悪感が胸を燃やしていた。


「……知ってはいました。あの子がどんな目にあってたのか」


家を出た息子が自分の代わりに救ったことも、自分が知らないうちにどんな目にあってたのかも知ってたつもりだった。


だが、実際に見て話を聞いた恵はそれらを改めて突きつけられて平静を失いそうなった。


何も知らない幸恵に己の気持ちを考えを伝えてしまう程度には。


「話さなくていいんデスか?」

「そのうちバレるとしても私からは名乗れません。いえ、名乗ることは許されないでしょう」


名前を言ったのも今日会ったのだってイレギュラーだったくらいだと恵はこぼす。


「では、可愛い孫娘の幸せを陰ながら手助けシマショ」

「あなたはいいんですか?孫娘のお見合いを潰して」

「ふふふ。あの子は強い子デスからネー。それに私もサチエのこと気に入りました」


元々、とある情報筋からの報告で幸恵のことは知っていたクラウディア。


実際に話して、どんな子か分かり、孫娘のセンスの良さにひっそりと鼻を高くしながらも、クラウディア自身も幸恵の事を気に入ってしまっていた。


「優しい子デスね。それに可愛い子デース」


どこの馬の骨とも知らない男よりも、幸恵の方が家族になるなら喜ばしい。


「メグミともファミリーになりますネ」

「……あの子次第です。私からは絶対名乗れません」

「ふふ、頑固ですネー」


そんな友人の隣に座ってポンポンと背中を優しく叩くクラウディア。


「クラウディア」

「なんデスか?」

「今回のことを許す代わり、今夜は付き合ってください」

「メグミから誘われたのは初めてデスね」

「不満ですか?」

「イイエ。付き合いマスよー」


そう笑う友人は知っている。


酒癖が悪くて酒の席でも絶対飲まないと誓ってる友人がどんな気持ちで誘ったのかを。


だからこそ、喜んで付き合おう。


(マイフレンドにはハッピーになって欲しいデス)


今回のことはきっと、幸恵の為だけでなく、古い友人の恵のためにもなると。


(若者の特権デスねー。ファイトです、サチエ)


どんな結果だろうと、自分たちは孫娘達の幸せを願おうとそう思いつつエールを送るクラウディア。


それに大して、恵は恵で誓う。


不甲斐ないし彼女の『祖母』を名乗る資格もない自分だが、あの子の幸せのために一役買おうと。


かつては押せなかった娘の背の代わりではなく、幸恵自身の幸せのために陰ながら後押しをしようと。


罪滅ぼしもある。


だが、それ以上に――もうあの子が悲しんでる顔を見たくないと。


それは本人は否定するだろうが確かに持ってる幸恵への愛情の証。


それを分かってる隣の親友は笑って頷き、不貞腐れる恵は大いに計ってくれた友人を毒づきつつ内心で感謝もしておく。


昔から変わらずうるさくて……そして同時にどうしようもなくお節介でありがとう――と。

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