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うちの学校の聖女様は、私の前だと何故か素になる  作者: yui/サウスのサウス


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18 波乱と葛藤

翌朝の目覚めは最悪だった。


眠れぬ夜を過ごしたことは過去にあれど、こんなに酷いのは初めてかもしれない。


「私、かっこ悪いなぁ」


何も言えなかった。


一度は気持ちを口にできそうだったのに。


自覚した瞬間、これまで気にしてなかった奥底の臆病な私が母の陽炎のように私の動きを鈍らせた。


……いや、言い訳だな。


怖かったんだ。


自覚した気持ちを早々に打ち砕かれるのが。


なんて臆病で小さい人間なんだろうと自分に深い失望を抱く。


吐き気がする己の弱さに。


「起きなきゃ」


ダルくて重い身体をなんとか起こして準備する。


休みたいくらい気分が重い。


それでも休む訳には行かない。


凡人以下の私は毎日コツコツ積み重ねるしか道がないのだから。




教室に着くと聖女様の姿はなかった。


朝のホームルームまでまだ時間はあるが昨日の今日なので嫌な予感が沸いてきてしまう。


モヤモヤしていると聖女様はホームルーム直前に登校してきた。


「今日遅かったですね」

「少し用事がありましたので」


いつも通りの外面の良い笑みを浮かべる聖女様は何でもないよとクラスメイト達に疑念さえ抱かせずに席に着く。


声をかけたい。


でも、なんて声をかければいいのか分からない。


ホームルームをそんなグルグルした思考が巡る中で、聖女様が一瞬こちらを見た気がした。


……ええい、迷うな。


そう思いながらスマホでメッセージを送ってみる。


『遅かったけど何かあった?』


昨日のことは触れずにまずは今朝のことを聞いてみる。


するとすぐに既読がつき返事が返ってきた。


『朝から母と言い争いになってました。平行線です』


母、確かお見合いの場を設けたのも聖女様のお母さんらしいけど。


『お昼どうする?』

『食べたいです。でも母が居るうちは無理そうです』

『禁止されてる?それとも私嫌われてる?』

『いいえ。ただ変に頑固な人なので』


素人の料理は信じないとかだろうか?


仮にも良いところのお嬢様だし。


『また鈴木さんのお弁当食べたいです』


ピロンと連続でそんなメッセージが届く。


『いつでも作るよ』


そう返すと期待のスタンプが返ってくる。


まだ完全に繋がりは切れてない。


そう思えたけど、聖女様は身動きが取れないのかもしれないと同時に思った。


部室に来れないのも、お弁当も、アルバイトの件も私関連は下手したら繋がりを完全に絶たれるかもと用心してのこと?


分からない。


確かに言えるのは、私は聖女様のことを知らなすぎる。


知りたい。


もっと近づきたい。


でも……私には何もできることがない。


他人の家庭を荒らす権利が私にあるのか?


実の両親にすら見捨てられた私に。




放課後、部室に行っても聖女様は来なかった。


忙しいのだろう。


帰ってきたという母親とあるいは何かあるのかもしれない。


モヤモヤしながらループする思考を抱えながら帰り道を一人歩く。


「スミマセン。チョットヨロシ?」


後ろから声をかけれらる。


振り返ると着物を着た女性が立っていた。


綺麗な銀髪と真っ青な碧眼の美人さんだ。


外国人さんだろうか?


どこか知ってる顔立ちをしてる気がする。


「えっと、何か?」

「コノミセ、ドコカゴゾンジ?」


そう言って地図を見せてる。


この辺なら叔父さんのお陰でそれなりに土地勘はあるのでとりあえず地図を見てみる。


マークがついてるのは……あぁ、トメさんの食堂か。


叔父さんに何度か連れられて行ったことがあるし道も分かる。


「知ってますよ。良ければ案内します」

「オー!ソレハタスカリマース!」


ニコニコと明るく陽気なその人は「レッツゴー!」歩き出す。


「コウコウセイ?」

「ええ」

「ワタシノマゴモ、ソレクライデス!」


……孫?え?孫?


「お子さんとかじゃなくてですか?」

「イエス!ナニカヘン?」

「えっと、お孫さん居るような歳には見えなかったので」


パッと見だと二十歳前半の女子大生と言われても違和感ないくらいには若い。


既婚者で、子供どころか孫持ちだと人生経験豊富な人なら見抜けるのだろうか?


叔父さんは案外見抜けるかも。


少し鈍感な所はあれど、自分への好意以外は比較的鋭い傾向がある人だし。


「イクツニミエタ?」

「えっと、二十歳前後くらいかなぁと」

「ワォ!ワタシモ、マダマダステタモンジャナイネ」


ドヤぁと実に嬉しそうに笑うその人。


なんだろう、笑い方は全然違うと思うけど誰かに似てるような。


「ガッコウ、タノシイ?」

「ええ」

「デモ、ナンダカスコシ、サミシソウ?」

「そう見えましたか?」

「ナンパ、シタクナルクライニハ」


道案内を装ったナンパか。


確かにあるらしいけど、この人みたいな美人ならそんな事しなくてもホイホイ着いてく人いるだろうなぁ。


ましてや私みたいなのは選ぶまい。


「そうですね。ちょっと若者特有の悩みがありまして」

「ワカイトイロイロアリマスカラネー」


それでとワクワク気味な視線を向けてくるその人だが、生憎と時間切れだ。


「着きましたよ」

「オー!タスカリマシタ!」


サンキューサンキューと手を握ってめちゃくちゃ揺らすその人。


「オレイニゴチソウシマス!」

「あー、すみません。今日は遠慮しておきます」


生憎とそんな気分になれそうもないのでそう断ると「ジャア、マタサソイマスネ!」と連絡先の交換を求められる。


見知らぬ人、ましてや外国人の美人さんに絆された訳じゃないけど、不思議と親しみというか知ってる人に似てる気がしてついつい連絡先を教えてしまった。


普段なら断ってたかな。


そう思って楽しげに手を振るその人と別れてまた一人とぼとぼと家路を進む。




家に帰ってもグルグルと下向きな思考が巡って身体が動かなかった。


「どうしたらいいんだろ」


仰向けになって、天井を見ながら呟いてしまう。


知らない事が多すぎる。


知りたいことが多すぎる。


でも、そんな権利私にはない。


その手段も。


どうしたらいいのか、この気持ちを。


そう思っていると不意にスマホにメッセージが入る。


さっきの外国人かと思いつつ億劫な気持ちで、画面を見ると……聖女様からだった。


『最悪です』


ポップアップしてるロック画面にそんな文字が。


ガバッと起き上がって震える指でロックを外してメッセージ全体を確認する。


『母は頑固すぎです。自分が仕事で留守でも私が我儘を言えないように、祖母まで呼びました。私があの人苦手なの知っててです。酷いと思いませんか?』


聖女様の戦いの場にどうやら母親の増援が来たらしい。


『どんな人なの?』

『とにかくうるさくて面倒くさいです』


聖女様が苦手なタイプでと考えると……昼間の外国人さんみたいな感じだろうか?


あの手のタイプは聖女様は意外と苦手そうだもんなぁ。


『鈴木さんに会いたいです』


そんなメッセージが飛んでくる。


『でも、私から会いにはいけません』

『禁止されてる?』

『行けば、鈴木さんに迷惑をかけるからです』


私はそんなの気にしない。


そう無意識に打ってから送る前にピタリと指が止まる。


そんなのあの聖女様はお見通しだろうにこんな事を言うのだから、私が言えばきっと聖女様の迷惑になる。


『今日の夕飯なに?』


悩んでから話を変えるようにそんなメッセージを送ってしまう。


逃げだと分かってる。


そんな自分の情けなさも、そんな自分を後押しする幼き日の母の亡霊の存在も。


勇気が欲しい。


自分の気持ちを縛る鎖を、呪縛を、勝手にヘタレる己を脱する勇気を。


それと同時に考えてしまう。


きっとそれをしたら、変わってしまう。


聖女様との関係がどんな形であれきっと変わる。


そして、私自身もこれまでの聖女様に見せてた自分と決定的に違う自分になると。


「ホント……私ってバカ」


怖いんだ。


色々言い訳して、もし勇気をだして聖女様様に拒絶されたらと考えたら動けない。


情けない自分の気持ちを押し殺すように聖女様とメッセージのやり取りしてから適当に夕飯を食べて無気力に風呂に入って布団に横になる。


今夜も長い夜になりそうだ。


心も体も疲れてるのに眠れる自信がまるでなかった。


動かないといけない。


でも動かない。


手足の見えない、重い重い鎖が亡霊となって私に囁く。



あの日のじぶんと同じになるのか――と。

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