第34話:魔術師の言い分
今日も[二八そば 聖]は大盛況。
口コミ評判がいいのかもしれない。最近ではお客様も少しずつ増えている。
客席のエルフさんたちからお声がかかる。
「マコちゃん、オーダーいい?」
「はーい、ただいま!」
騎士さんたちがご来店。
「いらっしゃいませ、空いているお席へどうぞ!」
この店の看板娘として働くのも、少しは慣れてきた今日このごろだ。
「マコ、お座敷の山菜蕎麦とかけ蕎麦大盛り」
お父さんが呼びかける声。
「天ぷらも揚がったよ」
お母さんも声を上げる。
「オッケー!」
今日も家族の連携は抜群。
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大忙しのランチタイムが過ぎ、やっとお店が落ち着いてきた頃。あの陰気な魔術師が気配もなく来店し、カウンター席に座った。
それから、卵の蕎麦をオーダーし、一気に平らげる。
お客様が減ったタイミングを見計らって、ローブ姿の怪しい魔術師はチョイチョイとマコを手招く。
「……先日はどーも」
どうやら、家族の様子を探っているようだ。そのわりに、ヒジリに声をかける様子はない。ヒジリも、魔術師に声をかけることなく厨房の片付けを進めている。
(お父さんとこの魔術師の距離感は、よく分からないな……)
あのとき、魔術師は爆弾を投下したのち、フイと振り切るように去っていった。しかし、間をあけずに来店したところを見るに、家族のことを気にしてくれていたのかもしれない。
食後の蕎麦茶をオーダーしながら魔術師は語る。
「マコちゃん、あのねー……。あたしは硬派なの」
妙なことを言っているなぁ、と思う。
「あ、はい」
マコはニコニコと営業スマイルを浮かべながら聞くことにする。
「あたしにとってヒジリは恩人だから、やれることは全部やるつもりだったのネ。それでマコちゃんのこと、この世界に喚んだんだけどサ。そもそもあたしねえ、ご家族の再会とかいうナマアッタカイものに立ち会う気がなかったのよ」
家族の事情を「ナマアッタカイ」なんて言葉で片付けられてしまった。
「あの日、私は自分の術式であなたを、ちゃんと喚ぶことができてホッとしたわ。で、それを見届けたから、さっさと立ち去ったわけ。そもそも大魔術使ったあとの魔術師なんてヘロヘロでシナシナで、人に見せられたもんじゃないのよ。ね、あたしは功労者で、非が全然ないでしょう」
なにやら言い訳じみたことをつらつらと話している。
「そうだったんだ……」
マコは相槌を打った。
最初の日。
マコはお花畑のあぜ道でヒジリとジャスティナに出逢った。
どうやらあの場には、この妙な魔術師もいたらしい。でも、転移という突然の出来事に大混乱していたせいか、マコはその気配にすら気付かなかった。
「あの、あらためて。ありがとうございました」
マコは姿勢を正し、魔術師に軽く頭を下げる。
この人には謝意を伝えておかなきゃならない。どうしても。
この世界に喚ばれず、あの殺伐とした世界にずっと居続けたとしたら、自分はどうなっていただろうか。今でもそう考えることがある。
抜け殻みたいに生き続けたかもしれない。生きることを諦めたかもしれない。どちらにしても、今みたいに充実した毎日をあの街で送れていたとは到底思えなかった。
「私はあなたに喚んでもらえて救われたし、最高の家族に出逢えました。本当に感謝しています」
「そういうの、いいのに。あたしは硬派なんだってば」
魔術師は、なんとなく目を逸らしながらまた同じことを言った。もしかすると少し照れているのかもしれないと思った。
ややあって、魔術師はふと思いついたといった具合で言った。黒いローブの奥からいたずらっぽい目が覗いている。
「あぁ、お礼って言うならサ、マコちゃん!今度デートしましょうよ」
「絶ッ対ダメです」
間髪入れずにヒジリの言葉が飛んできた。どうやら魔術師とマコの会話を全部しっかりと聞いていたらしい。
ヒジリはフンと鼻を鳴らし、なおも言う。
「どうしてもデートしたいんならマコじゃなくて私が付き合いますよ」
「絶ッ対イヤです」
断言し、魔術師はお腹を抱えてゲラゲラと笑った。




