↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/37

第31話:1つ目の術式

「そもそも、あたしがあなたを召喚したのだって禁呪スレスレだった。あれは古代の写本しゃほんの術式を見様みよう見真似みまねでやったのだけど。……実は最近になって、あらたな写本が手に入った」

 そう言うと、魔術師はローブの下から古びた書物を取り出した。ボロボロの表紙には見知らぬ文字が並んでいる。

「なぜ今になって、とあなたは尋ねたけど、今でなきゃ手に入らなかったのよネ。でも手に入れたルートは秘匿ひとくさせて。あたしにも色々あるの。とにかく、この写本の内容をもとにあたしは、異世界にいる血縁者にアクセスする術式を確立したの」

「アクセス、とは?」

 魔術師はその写本を無造作にカウンターに置く。それから蕎麦をすする。


「間違いが起こるといけないから最初にお尋ねするわ。あなたがいた……なんだっけ。ニホン?その国で、血縁的にあなたと一番近いのはその娘ちゃん?それとも……」

「血縁?」

 ヒジリは少し考えてから答えた。

「私の母は私が若いうちに急逝きゅうせいしましたし、父は……私がこの世界にばれる頃には不治の病を患っていたので、きっともう亡くなったと思っています。私には兄弟もいませんでした。そうすると、最も近い血縁者は娘ということになるのでしょう」

「ふうん。親御おやごさんのことは残念だったわね……。とはいえそれなら、この魔術の成功率は高いと思うわ」


 蕎麦の出汁だしをグイと飲み干してから、魔術師はさらに語る。

「この写本をもとに、あたしが確立した術式は2つ。1つ目の術式は、相手の感情をはかる。そして2つ目の術式は、あなたをんだときと同じ。対象者をこの国に招き寄せる」

「推し量る、とは?」

 間髪を入れず問いかける。

「つまり、対象となる人物がプラスの感情を持って生きているか、そうでないかをる。あたしが魔法陣を描いて中心にあなたの血を、ああ、ザックリ切ろうとするのは止めて。そういうのいらないの。落ち着いて。一滴で大丈夫」

 ナイフをもつヒジリをとびきり警戒しながら、魔術師は続けた。

「それで、血縁者の感情を私が読み取る。ただし、読み取れるのは感情の色合いだけ。明るく生きていれば白、悲しい思いをしていれば黒。……こんなことを言いたくはないけれど、もしも、該当人物に尋ね当たらなかった場合には、何も起こらない」


「その魔術、今すぐできますか?」

「任せなさいよ」

 魔術師は口角を上げた。


 +++


 少し広いテーブルの上に魔法陣が敷かれた。

 ヒジリは魔術師が指示する通りに、指先に傷をつける。魔法陣の中央に血液を垂らす。


 詠唱は長い。

 ヒジリは固唾かたずを呑んで見守る。

 魔術師はグッと目を閉じ、魔法陣に触れながら不思議な発音でいくつかの呪文を発した。



 やがて、詠唱が止まる。魔法陣のぼやけた光も、ゆるりと消え失せた。

 魔術師はこめかみを押さえ「うーん」とうなった。

 困ったぞ、といった表情でヒジリの方を向き、ぼそぼそと伝える。

「アクセスできた血縁者は若い女性。10代かなあという感触」

 ヒジリに10代の血縁者は1人しかいないはずだ。きっとそれは自分の娘に間違いないだろう、とヒジリには思えた。


 しかし。

 続く魔術師の言葉に、ヒジリは言葉を失った。

「……感情の色彩が……黒だったわ。それも、結構しっかりと、黒かった……」


「……つまり私の娘は、あの国で、幸せに過ごしていない」

 呆然としたまま、声を絞り出した。魔術師は気まずそうに目を伏せる。

 ヒジリは頭を抱えた。

 娘を残してきたことがずっと悔いだった。父なし子にしてしまった。

 それでも人に恵まれて、環境に恵まれて、幸せになっていてくれたらと心から願っていたのに。


 黒い感情とは具体的にどんなものだろう。

 孤独だろうか。恨みだろうか。……それとも絶望。


「……娘を召喚、してくれませんか。今すぐに!」

 気付けば、ヒジリは悲痛な声を上げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。