↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/37

第23話:死と隣り合わせの谷

 ギクッとした。


 頭の中に、ジャスティナが落下するイメージが浮かぶ。


 マコは、落下というものをイメージしたことがある。

 それも、何度も、何度も。


「その仲間をね、崖と反対側に力いっぱい引っ張り上げたんだけど、バランス崩してさ。そのまま自分だけ落下するなんて、今考えたらありえないヘマなんだけど」

 背筋にゾワゾワとした感覚が流れた。


「落っこちるのは気持ち悪かったなあ。咄嗟とっさのことで、体が自在に動かなくて。浮術、ちゃんと使ったつもりだったんだけど、崖の途中で体が大岩に当たって、気道イカれて魔術の発動が追いつかなくて。そのまま地面にしたたか叩きつけられた。それで、内臓に達するぐらいの大きいケガをしちゃってさあ」

「あれには焦りましたね。私、その場にいたんですけど、助けに行こうにも崖下がいかに下りるすべがない。全力で走って大回りして下りられる道を探して、崖をなかば滑り落ちるみたいに駆け下りて。そこから、一心不乱に治癒魔術をかけ続けて」

「それ、あとで聞いたから知らなかったのよね。私のためにそんなに焦ってくれたの、ちょっと見たかったなあ……」

「あなたね。あのときはそれどころじゃなかったじゃないですか。そもそも意識レベルが低下していて、本当に死ぬところだったんですから……」

「分かってる。意識の奥底で私は確かに、死に引っ張られた。タナトスが、こっちだよって呼ぶ甘い声が聞こえた。だけど、それより大きい声でヒジリが呼んだんだもの、そっちじゃない、こっちだ、帰ってきなさい!って。聞こえたから帰ってくるしかなかった」

「声がれるほど呼びましたよ。絶対に死なせるものか、と思いましたから」


 マコには、口にできる言葉がなにもなかった。


 この人たちは恐ろしい環境の中で、死と隣り合わせの谷で、果敢かかんに戦っていた。

 生きることだけを求めていた。

 なんて強くてカッコいいんだろう。


 そして私は、なんて弱くてちっぽけなんだろう。

 死の妄想にすがって、生への執着をあきらめて。

 なんだか、大違いだ。


 それでも、マコは異世界に来てからというもの、死を願うことはすっぱりと止めた。この強くてかっこいい2人が、マコを引っ張り上げてくれたから。

 もう、そんな妄想をしなくても生きていけるはずだ。

 今のマコは、素直にそう信じている。


「……ああ、ちょっと刺激の強い話でしたね。すみません。なにしろ、そんなケガをしたって言っても、ジャスティナは今はこんなに元気なんですから、心配はいりません」

 あまりにも神妙な顔をしていたから誤解されたのかもしれない。ヒジリはマコをいつくしむような優しい口調でフォローした。


 自身の銀髪を一房ひとふさ、つまみながらヒジリは言う。

「私ね、もともとは髪、真っ黒だったんです。一般的な日本人の髪という感じでした」

「そうなの?」

「あー、黒髪の頃、あったねえ。懐かしい」

 ジャスティナが愛おしそうに相槌を打った。


「だけど、回復魔術を使ううちに、少しずつ少しずつ、髪は銀色に変わっていった。なんだったんでしょうね、あれ。使える魔術量の残量でも示されているような気分でした。それで、ジャスティナが大怪我をしたときに三日三晩、治癒魔術をかけ続けたら、ついに全部が銀色に染まった」

 マコは、ヒジリの銀色の髪を見る。窓から差し込む午後の光を受けて、キラキラと輝いているきれいな髪だ。

「だから、それを機に、引退させてもらうことにしました。そうしたら、ジャスティナもケガを機に引退するって言うんで。2人して除隊を申請して、それで結婚したんですよ」

「そうだったんだ……」



「ねえねえ、それで、どっちからプロポーズしたの?」

 なんでも教えてくれるから、つい聞いてしまった。

 ヒジリは困り果てたように宙を仰ぐ。

「なんか気恥ずかしいからノーコメントでもいいですか……」

「えー、じゃあ私が話そうか?」

「いやー、もう勘弁してくださいよ……」


 ジャスティナがとびきり楽しそうにしているのに対して、ヒジリはどっと疲れたような表情をしている。

 なんだか今日は、ヒジリとジャスティナの意外な表情ばかりを見せてもらえた。

 それにしても。ちょっと聞いてみただけだったのに、あまりにもラブラブすぎる。あてられてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。