第22話:なれそめ
仕事が終わって、まかないの時間。
今日はキノコの蕎麦を作ってもらった。とはいえ、キノコ蕎麦の見た目は日本のお蕎麦屋さんで出てくるものとは少し違う。
使われているのは黄色と紫色のキノコなのだ。なにしろ、茶色いキノコはこの世界では高価らしいから。
異世界のキノコは見た目がファンシーで、一見すると毒キノコみたいに見える。だけど、意外とおいしい。
さて。
仲睦まじく仕事をする2人と過ごしていて、ふと聞いてみたくなったことがある。
「この国の結婚制度って、どういうものなの?お父さんとお母さんは、結婚しているのよね?」
2人は顔を見合わせたあと、少し照れくさそうに微笑む。
「王城に届けを出すんですよ。日本で役所に婚姻届を出すのと、よく似ていますね」
「新婚さんって言ってたけど……」
「そうですね……結婚したのは最近とはいえ、付き合い自体はかなり長いんです。もう10年以上」
「12年、13年くらいかな?」
ジャスティナが補足した。
「私は異世界転移後、ヒルデガルト国境付近に配置されて、騎士や警護隊のケアを担当していたんですよ。その騎士の1人が、ジャスティナでした」
「騎士!……カッコいい」
マコは思わず、キラキラした目でジャスティナを見る。騎士ということであれば、竜の谷で見せつけられたあのとんでもない強さにも納得がいく。
「そうですね。騎士として働くジャスティナはとんでもなくカッコよかったですよ」
「あら、嬉しいわね」
褒められてニコッと笑うジャスティナの表情は、どこか騎士らしくハンサムな雰囲気だった。
「……それに、ジャスティナは誰よりも強かったですね」
ヒジリは、思い出深い過去を語る。
「ドラゴンを倒す速度が、ほかの騎士とは段違いなんですよ。それに、瞬発力も勘もいいから、大きなケガはたった一度だけ。……小さい傷は無数に作っていましたけどね。腕とか、顔とかに細かい傷を負っても気にせず戦い続けるし。治療するって言ってもとにかく強情で。そんなの治す暇があったら一体でも多く倒してくる、ほかのヤツらを回復してやれって聞かなくて」
クスッ、と笑い声がした。ジャスティナの声だ。
「あー。あれね。私がさ、こんな小さい傷くらい舐めときゃ治るって言ったらさ、ヒジリがすっごい怒るのよ。そういうこと言うならそこ座んなさい、舐めてあげますから!とか言って」
ヒジリが慌てて止めに入った。
「ちょっと!娘の前でそれ言うんですか!?」
「だってヒジリが話し始めたんじゃない」
マコは、おもしろがってさらに聞いてみる。
「舐めたの?」
「舐めてません舐めてません」
首を振って早口で言うヒジリは、なんだか大慌ての様相だ。
ジャスティナがニヤニヤ笑う。
「え?」
「え、って何ですか!」
あまりのことに、ヒジリは食事中にも関わらずガタリと立ち上がった。
「……ね、マコ。ヒジリはおもしろいでしょう。それに優しいの。どうでもいいような小さなケガすら放っておけないくらい、すごく優しいの」
ジャスティナが、幸せで仕方ないといった風に微笑む。
「だから結婚したの?」
せっかく興味深い話をしてもらったのだから、さらに突っ込んで聞いてみることにしよう。
「んー……」
ジャスティナが、思いを巡らすように空中に目をやってから、おもむろに話す。
「1年ちょっと前に、騎士隊の編成が大きく変わったんだけど、そのときのトップが無能なタイプで、連携がもうグッチャグチャになってね」
「ああ、……あれは大変でしたね」
ヒジリは力を抜いて座り直す。
お蕎麦をさっさと食べ終わって「ごちそうさま」と言ったあと、ジャスティナは思い出話を続けた。
「十分に人員配置がされない状態で、孤立無援の状態で戦っていた仲間が、格別大きいドラゴンに襲われてね。それをかばったときに……私は、崖から落ちたの」




