第21話:はじめてのおつかい
この国には、ダカールという単位の通貨がある。金色や銀色、銅色の硬貨をマコはこのお店で毎日のように触っている。
しかし、マコはお金を外で使ったことがない。
なにしろ、町に出かければヒジリが何でも買ってくれる。そうなってくると、マコにはこの異世界で買い物をする機会がまったく訪れない。
せっかくこの街道沿いにはたくさんの素敵なお店が並んでいるというのに。
だから、これは新しい体験のチャンスかもしれない。マコはすかさず食いついた。
「えー……」
しかし、マコの勢いに対して、ヒジリの反応はイマイチだった。
「外は危ないですよ。1人で買い物なんて」
「すぐそこのマーケットでしょ?大丈夫、私行けるよ!」
「でもねえ……」
ヒジリはとびきり過保護だ。こういった態度にもそろそろ慣れつつあるけれど……。
「お父さんってさあ、私のこと5歳くらいだと思ってない?」
ヒジリの肩がピクリと動いた。
「私はもう18歳で大人だから、ある程度のことはできるよ。なんでも任せてくれていいのに」
「行ってもらいなよ」
刃の魔術で野菜を刻む手を止めず、ジャスティナが言った。
「なにごとも経験。我が子はたくさんのことを経験して成長する。そうでしょう?」
「むぅ……」
ヒジリは少し考え込む。それから、
「じゃあ……お願いしましょうか」
渋々《しぶしぶ》といった感じで頷いた。
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「買うのは小麦粉2つで大丈夫。100ダカールあれば十分……いや、念のため200ダカールくらい持たせたほうがいいかなあ。お金が余ったらジュースとか、フルーツとか買っていいですよ。道は分かりますか?街道をあっちにまっすぐ行って」
「ヒジリ、時間ないの!いいからマコに任せなさいな」
永遠に続きそうだった説明をジャスティナがうまく遮ってくれたから、その隙に、
「いってきます!」
元気よくあいさつして外に飛び出した。
マーケットの場所くらい知っている。歩いたら4分、5分くらいだろうか。
賑わいに満ちた街道を、少しだけ急ぎながら歩く。
(なんだか、あれみたいだな……)
日本にはこういう文化があった。「はじめてのおつかい」というやつだ。
だからといって、まっすぐ行ってまっすぐ帰るだけのおつかいを、18歳にもなって失敗するわけがない。
(テレビだったら「撮れ高がない」ってやつだろうけど)
そんなことを思いながら、ソツなく小麦粉を2袋購入。あとは来た道を逆戻り。
帰り道に、ふと通りかかったお店に目が留まった。
「あ、そうだ……まだ少しなら時間あるかな」
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「ただいま!」
元気なあいさつは「はじめてのおつかい」の基本だ。
「ああっ、よかった!無事で帰ってきましたね……って、どうしたんですか、それ……」
ヒジリが目を丸くする。
小麦粉が入った袋とは別に、マコは小さな鉢植えを抱えていた。鉢植えには、赤い花と白い花がふんわりとかわいらしく植えられている。
「お店に、飾ろうかと思って……勝手に買っちゃった。いいかな……?」
「ねえジャスティナ!マコがプレゼントをくれましたよ!!」
飛び上がりそうなほど嬉しそうにヒジリが言うと、ジャスティナは少し呆れたような顔をした。
「ヒジリ、今マコの話聞いてた?プレゼントっていつ言ったのかしら……」
「あ、ええと。そうね。これは、いつもお世話になっているお父さんとお母さんにプレゼント」
「ほら、やっぱりプレゼントじゃないですか」
ヒジリはニコニコ、デレデレと表情を崩す。
「嬉しいなあ。マコがお花をくれました」
歌い出すのではないかと思うくらい喜びながら、ヒジリはその花を受け取る。それから、
「どこに飾ろうかなあ」
などと言いつつ、レジカウンターに置いてみたり、エントランスに置いてみたりしている。
「……まあ、ヒジリが嬉しそうならなんでもいいのだけど」
マコから小麦粉を受け取りつつ、ジャスティナが笑った。




