079 もう一つの罰
「リーゼリア、こっちに来なさい」
私の分も作り始めようとしたところで、そう呼ばれた。
呼び出したのは王竜フェルニオだ。
最初こそ私に対して威圧的に相対していたが、リーデルの面倒を見るようになってからは、物好きな好々爺であることがわかった。
実のところ、形式的にあのような態度だったらしい。
あとでそのことについて謝られた。
それ以来、彼とは良好な関係を築けていると思う。
「なんだい? わざわざ呼び出すなんて」
初めて王竜と会った薄暗い空間。
そこで王竜は伏せるように身を低くして私を待っていた。
「リーゼリア、お前にもう一つの罰を言い渡そう」
リーデルを育てることを言われた時、罰の一つだと言っていた。
なので、他にもあるのだろうとは思っていた。
しかし一向にそれを伝えられることもなかったのですっかり忘れていた。
そのせいもあって心の準備もなく、手が汗ばみ始めた。
速くなる鼓動を必死に落ち着かせながら、王竜の言葉の続きを待つ。
私の努力など無意味だと言うように鼓動はどんどん速くなり、音も大きくなっていく。
「我が王竜の力をお前に預ける。この力を次代の王竜に託すまで守り通すのだ。それがお前に与える最後の罰だ」
「なぜそんなことをするんだい? 次代に託すなら自分でやれば良いじゃないか」
聞いた限りでは罰に思えず訊ねた。
これではちょっとしたお使いのようなのだ。
それに人よりも遥かに長命な竜がわざわざ罪を犯した人に力を預けるなど理解に苦しむ。
「儂はもうそんなに長くない。本来ならもうじき王種会議を開いて次代の王竜を決める頃合いなのだ。しかし火竜はまだ生まれて間もない。会議は開けぬ」
王種会議とは、王種と呼ばれる四体の竜の中から新たな王竜を決める集まりだ。
その四体の竜の中には火竜が含まれており、私が火竜を殺めてしまったために会議を開けないということなのだろう。
結果、寿命を迎えようとしている王竜の力を次の王竜に渡すことができない。
ことの発端となった私にその責任を負わせるということでの罰なのかもしれない。
「趣旨はわかったよ。でも、力を預かるなんてことは人の身でできるのかい?」
「──普通なら無理だろう。だが、お前の場合は……もとより精霊と交流があったゆえ問題なかろう」
不自然な言葉の詰まりに首を捻る。
言葉を選んだのだろうか。
そんな私の疑問など気にも止めずに王竜は続ける。
「ただし、力を預かった時点で精霊は見えなくなろう。それに、強すぎる力を身に宿すゆえの苦痛も伴うことは覚悟せよ」
ようやく告げられた内容に息を呑んだ。
慣れ親しんだ精霊が見えなくなるなんて考えたこともなかった。
たまにしか見ないとはいえ、今後見えなくなってしまうのは寂しい。
それに今まで何度も助けてもらっているのだ。何のお返しもせずに見えなくなってしまうのは駄目だと思う。
「わかったよ。でも……最後に精霊に会わせてくれないかい? 精霊はずっと私を支えてきてくれたんだ。最後に挨拶だけでもしたい」
これは罰なのだ。断ることなどできない。
ならばせめて、と訊ねてみた。
すると王竜は少し考えるように瞑目した。
しばらくして目を開けて口を開いた。
「良いだろう。飛竜で地上に行くが良い。後で向かわせよう」
「ありがとう」
何となく察してはいたが、この谷底に精霊はいないのだろう。
地上に行かなければならないなら飛竜に乗せてもらえるのは都合がいい。
何せどうやって地上に行くことができるのかわからないのだから。
それに帰りもまたあの真っ暗な道を降りるのは一人では無理だ。
「さてと、それじゃあどんなお礼をしようかねえ……」
この谷で私ができることは少ない。
それに精霊はどんなことなら喜んでくれるだろうか。
できることを一つ一つ上げながら考える。ふと幼い頃のことを思い出す。
〝お兄さん〟と一緒に過ごした頃のことだ。
「結局まだ何もやってなかったねえ……」
今度ご馳走しようなどと考えていたのに、未だに何もしていなかった。
我ながらの間抜けっぷりに呆れながら、それならばと踵を返した。




