073 覚悟
自宅の居間にて用事を済ませてやって来たアルシウスと、ユーリスが連れてきた士爵も交えて卓を囲んでいる。
用意したてのカップからは湯気が立ち上り、それをちらりと確認した士爵がおもむろにカップを手に取った。
そして少し口をつけた後、音を立てずにソーサーに戻した。
「……君たちも随分と静かになったものだな。リーゼさんのことも聞いている。実に残念だ」
士爵の言葉に全員が沈黙する。
静かとはきっと【アストラ】のメンバーが減ったことを言っているのだろう。
葬儀中のような空気感に誰も何も言えなかった。
「……ユーリスには話したが、このところ辺境伯領から領民が来ている。聞いた話では辺境伯がまた見せしめをしたそうだ」
「…………。そうですか……」
幼少時の光景が蘇る。
また罪もない人が父の気まぐれという凶刃に討たれてしまったのか。
想像するだけで体が震えた。
「とりあえず、逃げてきた領民はこのあたりの農地で働いてもらってはどうだ? 住む場所は探さねばならないが……」
「え、ええ……。そうですね……」
明らかに動揺を隠せていない私にアルシウスが訝しむような視線を向けた。
それに士爵もため息をついている。
きっと私が彼らの期待に答えられていないからだろう。
「リーゼさん、俺から話してもいいですか?」
そっと私の手に自身の手を重ねて、眉尻を下げたユーリスが言った。
私が不甲斐ないからというより心配だからという様子だ。
ユーリスに気を使わせてしまった自分にため息を吐きたくなった。
「うん、お願い……」
頷いた私にユーリスも頷いて、私がロヒカルメ村で話したことを二人に話してくれた。
遺跡で竜に遭遇したことをアルシウスは覚えていなかったようで、顔を驚きの色に染めた。
士爵も言葉では言い表せないといった様子で顔を覆った。
「——その話が本当なら、今こんなところでのんびり話している場合ではないぞ……」
「遺跡にあった祭壇ってそういう意味だったのか。……くそっ、あの時気付いていればこんなことには……!」
同時にバラバラのことを言った二人はそれで満足したのか、すっと私たちを見た。
そして私に意見を求めるように士爵が口を開いた。
「それでリーゼさん、あなたはどうするつもりだ。まさか放置するつもりではあるまい」
「……まだ決めていませんが、いずれは行かなければならないと思っています。行ったところで許されるとは思えませんが……」
俯きがちに言った。
守り神を殺したなど、いくら謝ったところで許されることはないだろう。
おそらく一度向かえば生きて帰ってくることはできない。
そもそも〝古代竜の爪痕〟に行って王竜の下までたどり着けるかどうかすら怪しい。
だからこそこうやって王都で二の足を踏んでいるのだ。
「それもそうか。王竜に会うなど前例がない。ましてやそこは〝古代竜の爪痕〟だ。無事たどり着ける保証もない、か……」
士爵はそのまま考え込むように黙った。
代わりにアルシウスが卓の上で手を弄びながら話し始めた。
「俺は、できる限り早く向かうべきだと思う。事の発端は俺なんだから、俺がこう言う資格がないのはわかってるけど……。時間を置き過ぎれば決心も揺らぐ」
アルシウスの言葉を反芻する。
こうやってすぐに行動しなかったのは、確かに命の保証がないからというのもある。
しかし、他にも気がかりだったアルシウスのことや支援所のこともあったからだ。
戻ってきて大丈夫だということを確認できた今となっては、後は覚悟の問題だ。




