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072 支援所での再会

 通いなれた平屋に向かう。

 以前は少しだけ重みがあった腹を支えながら歩いたのを思い出す。

 あの頃は行く先々で心配されたものだ。

 軽い運動のつもりだったのに、みんな大げさだと思ったのも今となっては良い思い出だ。

 そっと平らになってしまった腹に手を当てて撫でる。

 あの日々も随分と昔のことに思えた。


 そんな思い出に浸りながらたどり着いた平屋の前は、私が旅に出る前よりも露店が増えていた。

 そしてそこに集まる人たちも増えている。

 それに合わせてなのか、それなりの身なりの人も増えている。

 それだけ食料が手に入らないということだろうか。


「奥さん‼」


 支援所を任せている男が私に気付いて走ってきた。

 息を切らしながら私の前に立った男は屈みながら私の顔を見た。


「ご無事なようで、何よりです! 支援所のみんなも安心します。さあ、みんなにその顔を見せてやってください」


 後からやって来た人たちがぐいぐいと私を押して平屋の中に押し込む。

 こちらの言い分などお構いなしの行動に思わず笑みがこぼれた。

 以前からここまで積極的な人たちだっただろうか。


 平屋の中に入れば一斉に視線が集まり、途端に人々が集まり揉みくちゃにされた。

 こうなってしまっては今の私にはどうすることもできない。

 いたしかたなくされるがまま耐えて、開放された時には全身がすっかり乱れた状態になっていた。


「……それで今の状況を教えてくれるかい?」

「えっと、商人が減って必要なものを手に入れられない人が増えているみたいなんです。それでここのことを聞きつけた人たちが殺到しているんです」


 私の問いに答えてくれたのは、先程の男の妻だ。

 小さな赤ん坊を抱えているので中の仕切りをしているのだろう。


「それに最近は治安も悪くて、騎士様も来てくれないんです。今は冒険者様の協力があって保っていますが、それもいつなくなってしまうか……」

「冒険者——?」


 続けて答えた古参の女の言葉に眉を顰めた。

 確か最初の男の話では、冒険者は全員遠方に行って戻ってきていないのではなかっただろうか。


「なんて言ったかな……。紺色の髪の若い男の人なんですがね。ここに食材を運んだり、何かと文句を言う人を追い払ったりって色々手伝ってくれるんですよ」

「もしかしてアル——ラィスかい?」


 紺色の髪の冒険者と言ったらアルシウスの他にいないはずだ。

 他の地域ならいるかもしれないが、この状況下で他所から冒険者が応援に来るというのは考えづらい。


「どうだったかなあ……。そんな名前だったような、そうじゃなかったような……」


 判然としない態度で女性がモゴモゴと言っている間に戸が開き男性が入ってきた。


「みんな! 冒険者様が来てくれたぞ!」


 その言葉に一斉にワッと歓声が上がった。

 今の支援所では彼の存在がそれだけ支えになっているということだろう。

 それにほんの少しの寂しさを覚えながら、一体誰なのか確認すべく戸の先に目を向けた。

 そしてやって来たのは——。


「——リーゼ⁉」


 やはりというべきか、話題の人物はアルシウスだった。

 その背で大きめのイノシシを担いでいた。

 支援所への差し入れだろう。

 それをどさりと落として、人波をかき分けるようにして私の前までやってきた。


「本当にリーゼなんだな⁉ 生きてた……よかったっ……!」


 そのまま泣き崩れるアルシウスの肩に手を置く。

 そこから伝わる体温で彼もまたちゃんと生きていることを実感した。

 話には聞いていたが、やはりこうやって直接確認するまではどこか信じきれていなかったのだ。


「アルこそ……。遺跡から連れ帰ってくれたって聞いたよ。ありがとう……」


 このまま状況を訊きたいところではあるが、こうも周りから視線が集まっている状態はどうにも居心地が悪い。

 場所を変えて話すことにしよう。


「——アル、この後話を聞かせてもらえないかい? 良ければあとで家まで来てくれれば……」

「わかった。用を済ませたら行くよ」


 そう言ったアルシウスはイノシシを拾いに戻って外に出ていった。

 私は支援所の状況が大体わかったので自宅に戻ることにした。

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