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070 変わり果てた王都

 ロヒカルメ村で一晩を明かした私たちは、馬車に乗って王都を目指した。

 馬車はここに来るために士爵に用意してもらったと聞いて驚いた。

 そして森に向かっている間は義兄が面倒を見ていてくれたそうだ。


 馬車は狭い山道を滑るように降り、程なくして街道に出た。

 行きとは違って、私の大怪我はないので町に立ち寄ることは可能だ。

 しかし今は急いで私の結論を出す必要がある。

 そのためにも一刻も早く王都にたどり着かなければならない。

 なので来たときと同じ様に馬の休憩は適宜取りながらも町に行くことはしなかった。


 そんな無茶な旅が数日続き、ようやく王都の外壁が見えてきた。

 その先からは不穏な煙がいくつも立ち昇っている。


「……一体何が起きているんだい? まさか魔物に襲撃でもされているのかい?」


 王都の内側から真っ黒な煙が立ち昇るなど火事が起きたときぐらいだが、それがいくつもとなると嫌でも魔物の襲撃を予想してしまう。

 冒険者をやっていれば、そのような光景は何度も見ることになるのだから。


「……士爵の予想が当たってしまいましたか……」


 外を見ながらユーリスが呟いた。

 そんな彼に「どういうことだい?」と訊ねれば、深刻そうな表情で振り向いた。


「——国王陛下が崩御されたんです。王子殿下も立太子されていないので後継者争いが起きているのだと思います……」


 そういえば、国王陛下も高齢なのでそろそろ立太子するのではないかと言われていた。

 それが間に合わなかったのだろうか。

 立太子していないともなれば、王位をそのまま継ぐことができず、強欲な貴族たちが寄ってたかって自らの正当性を主張しあっている……。

 大いに考えられる状況だ。


 高位の貴族ともなれば、私兵を持っていてもおかしくはない。

 領地争いは起きてはいないが、いざという時に自由に動かせる戦力があると言うのはそれだけで自らの権威を誇示することにつながるのだから。

 そして、今なお上がり続ける黒煙はその私兵によるものなのだろう。


「なんというか、貴族の考えそうなことだねえ……。王都を戦場にするなんて、自分が王になった時に困るだろうに……」


 そう言って頭を振った。

 食糧生産の重要性を理解していない集まりなのだ。その後のことなど全く考えていないだろう。

 とにかく自分の権力が第一なのだ。

 後は下々が解決すべきだとでも言い出しそうだ。


「どうしましょうか。このまま王都に入るのも目立ちそうですし……」


 眉尻を下げてユーリスが言う。

 たしかに戦争状態の王都に馬車で入るのは嫌でも目立つだろう。

 これは一度馬車を降りた方が良い。

 馬車の積荷目当てで関係ない王都民が押し寄せるとも限らない。


「そうだね。このあたりで一度馬車を降りよう。馬車はそこの茂みに隠れていてもらおう」


 頷いたユーリスは、手短に御者に伝えた。

 停まった馬車を降りる。

 茂みに隠れたのを見届けて、私たちは歩いて王都に向かった。




 王都の中に入り、周りの様子を窺いながら自宅を目指す。

 この状況で一番気がかりなのは、支援所をあてにせざるを得ない行き場のない人たちだ。

 そんな弱い立場の人達が巻き込まれていないか心配だ。

 それを確認するためにも自宅に行くべきだと判断した。


「思っていたよりも影響は少なそうですね」


 大通りを歩けば、戦火などないかのようにいつも通りの景色が広がっていた。

 ただし、人影はほとんどないが。


 しばらく大通りを歩いて冒険者ギルドの前までやって来た。

 建物の前で立ち止まり、見上げる。

 ギルドマスターは貴族だ。

 この王位争いに冒険者を使うなどという馬鹿なことを思いつかなければ良いのだが……。


「——この争いで公爵閣下が勝てば、私もいずれ……」


 窓から声が漏れ聞こえてきた。ギルマスの声だ。

 どうやらギルマス本人は王位争いに直接参加はしていないが、どこかの公爵派閥に所属しているのだろう。

 さしずめ、協力して公爵が王になった暁にはより上位の爵位を与えるとでも言われたのだろう。


 あのでっぷりとした腹を思い出す。

 あれが対価として上位の爵位を貰えるほどの働きができるとは思えないが、戦力という面では冒険者をあてがえば十分すぎるほどにはなるか。

 しかし、今まで冒険者に対して尊大な態度を取り続けていたギルマスにどれだけの冒険者が従うのだろうか。

 魔物相手ならいざしらず、人間相手ともなると話は変わってくるのだ。


「厄介なことにならなければ良いんだけどねえ……」


 そんな呟きとともに見上げるのをやめて自宅に向かって再び歩き始めた。

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