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069 罪

「人は忘れる存在だ。いくら後世に伝えようと記録に残しても、それ自体を忘れてしまっては伝えることはできない。いたしかたないことだ」


 ため息混じりに義父は言った。

 伝えることの難しさを身をもって知っているような様子だ。

 それはユーリスや義兄も同じだ。


「俺たちはたまたま信仰があったから残っていただけなんです。この辺りは地竜様が守ってくださっていますので」

「…………私はどうすればいいのでしょうか……?」


 守られるだけ守られ、あまつさえ存在を忘れて倒してしまった私の罪は計り知れないほど重いだろう。

 ともなれば私の償いはどれほどのものになるのか。

 もはや想像すらできない。


「——火竜殺しともなれば、王竜に会わねばなるまい」

「王竜……?」


 初めて聞いた言葉に首をひねった。

 王竜も五体の竜のひとつなのだろうか。


「王竜というのは先程言った五体の竜のうちの一つです。地竜、水竜、火竜、風竜、そして王竜。それがこの国を守っている竜です」

「正確にはこの国を守っているというより、土地を守っているのだがな……」


 私の問いになっていない問いにユーリスと義父が答えてくれた。

 やはりこの村では竜については常識のように伝えられているようだ。

 その口調に淀みはない。


「村長、王竜ということは爪痕に行くことになるんですよね。あの話をしては?」


 それまで黙っていた義兄が義父に訊ねた。

 それに義父は頷く。

 しかしなぜ義兄は実の父を村長と呼ぶのだろう。


「——リーゼさん、王竜に会うのなら〝古代竜の爪痕〟に行きなさい。爪痕は竜の巣窟だ。並の精神力では立ち入ることすらできないだろう。だが——」


 言葉を切った義父がじっと私を見る。

 その視線はおそらく私の眼に向いている。


「——精霊に守られているリーゼさんならあるいは……。それに火竜に相対して戦えたのだから、爪痕の奥深くでも耐えられるやもしれない」

「父さん……」

「本来なら今すぐ行くべきだというところだが、爪痕に行くともなると生きて帰ってこれる保証はない。よく考えて行きなさい」


 本来なら少しの猶予も許されない状況だろう。

 それでもよく考えろと言ったのは、義父なりの思いやりなのかもしれない。

 それとも私の覚悟を決めさせるための一言なのだろうか。


「……リーゼさん。一度王都に帰りませんか? 士爵やアルシウスさんと話してみるのも良いかもしれません」


 少し考えるように瞑目した後、ユーリスが提案した。

 彼の言う通り、一度他の誰かに話してみても良いかもしれない。

 私一人で決断するには重すぎるのだから。

 ——あれ?


「ユーリス。今、アルシウスって言った?」

「はい。……あっ、アルシウスさんは元気ですよ。リーゼさんを王都の神殿まで連れてきたのはアルシウスさんですし」


 それは聞いていないぞ、ユーリス……。

 とはいえ、あの状況でアルシウスが無事だったのは幸いだ。


「……アルシウスは無事だったんだね。良かった……」

「——何はともあれ、今夜はうちでゆっくりしていきなさい。王都に行くにしても、そのまま爪痕に向かうにしても、明日からのほうが良いだろう」


 胸をなでおろす私に、義父が提案した。

 既に外は夜の帳が下りている。

 暗い夜道を行くのはどちらにしても危険だ。

 ユーリスと頷きあって、ありがたく言葉に甘えさせてもらうことにした。


 奥の部屋から私を呼ぶ声がする。夕食の準備を手伝ってほしいようだ。

 折角の機会なので喜んで手伝わせてもらおう。

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