066 ユーリスにも見せてあげたい
朝食後、再びユーリスに抱き上げられて、森の奥までやってきた。
ほとんど人の手が入っておらず、道などない景色は冒険者を長くやっていてもなかなか出会えない。
おそらく丘陵地帯の探索以来だろう。
「綺麗なところだねえ……。見たことのない植物も多い」
「セフェムさんに教えてもらったんですよ。気晴らしならここが良い、悩み事が些細なことに思えるって」
セフェムとは先ほどの赤茶色の髪の青年のことだとユーリスは付け加えた。
彼のおかげで私をあの老夫婦の元に連れていけたのだという。
一際存在感のある大樹の前で精霊が集まっている。
色とりどりの光が大樹と周りの草花を照らし、まるで収穫祭の王都のような美しさを演出した。
一つの光が私の近くまで来たので、手を差し伸べればそっと指先に触れて去っていった。
「どうかしたんですか?」
そんな私の動きにユーリスが疑問を投げかけたので、私は首を横に振った。
「ううん、この森は精霊が多いなって思っただけ」
「そんなに多いんですか? 俺にはただの森にしか見えませんが……」
少し寂しそうに眉尻を下げるユーリス。
彼には見えないのだから仕方がない。
それでも目の前の光景を見て思う。
この景色だけはユーリスにも見せてあげたい、と。
「いろんな色の精霊がいるんだよ。大樹の周りが特に多いね。一つ一つは小さいけど、それが灯りみたいで綺麗だよ」
すると精霊たちが一斉に光り始めた。
きっと魔法を使ったのだろう。
「あ……」
声を漏らした彼を見上げれば、その瞳に精霊たちの光が映り込んでいた。
「これがリーゼさんが見ている景色なんですね」
精霊が使った魔法はユーリスにも見えるものなのだろう。
色とりどりの光に照らされた森の景色にユーリスは感嘆の声を漏らしている。
「そうだよ。精霊たちもユーリスのことを気に入ったんだろうね」
「それは光栄です。精霊の皆さん、素敵な景色を見せてくれてありがとうございます」
彼の言葉に呼応するように一際強く光を放った精霊は、一斉にその場から消えていった。
「ふふ……。よかったね、ユーリス」
「ええ。良いものが見れました」
ユーリスはそう言って抱き上げたままの私を下ろした。
地面に触れた足から、植物の感触と土の温かさが伝わってくる。
「では、ここでなら精霊の助けも借りられそうですし、歩く練習をしましょう」
支えていた手を離して、ユーリスが一歩後ろに下がる。
私はそれを追うように前に一歩足を踏み出そうとして一気に崩れた。
バランスを崩した私はそのままユーリスにのしかかるようにして倒れ、ユーリスも仰向けに倒れた。
「ご、ごめん! 立てたから平気かと思ったんだけど……」
慌てる私にユーリスは吹き出すように笑う。
大笑いしながら私の背に腕を回した。
「はー……、リーゼさんこんな姿を見れるなんて思いませんでした。甘えてもらえるのって結構嬉しいものなんですね」
「ゆ、ユーリス……? これは甘えているわけじゃ……」
ユーリスが回した腕に力を込めた。
密着するほどに近くなって、彼の鼓動が伝わってくる。
「……俺はリーゼさんが生きていてくれることが嬉しいんです」
きっとずっと不安にさせていたのだろう。
それを出さないようにしていたのに、こうして密着してしまったから漏れ出してしまったのかもしれない。
腹の子のことも言い出しづらかったのだろう。
「うん……。心配させてごめん」
お互いの鼓動が聞こえる距離のまま私たちはそれを分かち合った。
結局、私が立ち上がれないのでどうしよう、となったのは、これからしばらく経った後だった。




