063 復活
薄ぼんやりとまどろむ。
ふわふわしたような感覚の中、再び眠気が襲ってくる。
──リーゼさん。今日はセフェムさんと薬草を取りに行ったんです。薬草って種類がいっぱいあるんですね。未だに覚えきれる気がしません。
遠くから聞こえてくるかのようにくぐもってぼやけた声が聞こえてくる。
この声はユーリスかな。また甘えたいのかな。仕方ないねえ。
今回はどう甘やかしてあげようかなんて考えている間に、またふわふわと夢見心地になる。
やっぱり甘やかすのはあと。もう少しこのまま眠っていたい。
聞こえる声もどんどん遠ざかっていく。
なんとなく体を丸めれば心地よい温かさに包まれる。
不安も恐怖も何もない。ここにあるのは心地よさだけ。
ここから動きたくない。このままでいたい、と夢の中に落ちていく。
そんな私の手を何かが引っ張る。
少し熱いぐらいの温かな手。
私はそれを知っている。
──リーゼさん! 聞こえますか⁉︎ リーゼさん!
また声が聞こえる。さっきよりもはっきりと。
その声に引っ張り上げられるようにしてまどろみから連れ出される。
突然の眩しさに目を細めた。
「ユーリス……?」
真っ白な光の中から見えたのは愛しい人の顔。
泣いているのか笑っているのかわからない表情で彼は私の手を包んだ。
「おはようございます。……リーゼさん」
そうか、私はずっと眠っていたのか。
涙をこぼし続ける彼に答えたくて手を動かそうとしたが動かせなかった。
夢の中とは違って、まるで自分のものではないかのように全身が重くて気怠い。
「ユーリス、少し代わりなさい。容体を見よう」
ユーリスと入れ替わるように見知らぬ老人が私を覗き込む。
手を取り、首に触れる。
妙に真剣な表情で、ぼんやりとした頭ではかける言葉が見つからない。
「…………。もう大丈夫じゃろう。しばらくは栄養のあるものを食べて、体を慣らしていくと良い」
バタバタと複数人の足音が去っていく。
残っていたユーリスが再び近くに来て私の頬に触れた。
「本当に、よかった……。美味しいものをいっぱい作りますから、一緒に食べましょう」
リーゼさんが寝ている間に新しい料理を覚えたんです。と微笑むユーリスに「うん」と返す。
それだけで疲れ切ってしまって、再び眠りについた。
再び目を覚ました時には窓から赤い光が差し込んでいた。
先ほどとは違ってぼんやりした感じはない。
辺りを見回せば見覚えのない部屋にいた。
確か火山の中にあった遺跡にいたはずなのだが、ここはどこなのだろうか。
先ほどはそんなことも気にならなかったと思うと、いかに自分がぼうっとしていたのかがよくわかる。
起きあがろうと体を動かそうとしたが、頭すら持ち上がらない。
私の弱り具合にため息が出た。
「情けないねえ……」
「──起きたんですね。あ、今起こしますから」
ちょうどユーリスが部屋に入ってきて、私の上体を起こしてくれた。
目線の位置が上がって、部屋の様子がよくわかる。
「ユーリス、ここはどこなんだい?」
「ああ、ここは俺の故郷からさらに北にある森ですよ」
少し驚いたように目を丸くしたのち、優しく微笑むようにユーリスは答えた。
ロヒカルメ村よりさらに北ということは〝古代竜の爪痕〟近くなのだろうか。
あのあたりで森など聞いたことはないのだが……。
「お腹は空いていませんか? 何か作りましょうか?」
聞かれて初めて空腹であることに気付いた。
しかしたくさん食べたいという感じはしない。
「じゃあお願いしようかねえ。軽いものを頼めるかい?」
「わかりました。久しぶりの食事ですし、汁物にしますね。ちょっと待っていてください」
嬉しそうに立ち上がったユーリスはそのままスキップするような足取りで部屋を出ていった。
久しぶりということは、私は相当長いこと眠っていたのだろうか。
ふと遺跡で受けた怪我を確かめようと腹に触れる。
あれほど酷い怪我だったにも関わらず、傷跡はほとんどない。
その代わりにそこにあるはずの命が感じられなかった。
「──母親失格ってことだね……」
小さいながらも命を預かっているのに、遺跡などという冒険者でも危険極まりない場所へ行ったのだ。
当然の報いだろう。
これほどまでに尽くしてくれるユーリスに合わせる顔がない。




