062 待ち侘びた瞬間
日長の一族の元にやって来てしばらく経った。
はじめはずっとリーゼさんの傍につきっきりだったが、流石にお世話になったままは悪いと思い、手伝えることは手伝うことにした。
家の中の掃除から片付け、高い場所にある薬草を取ったり、逆に高い場所に薬をしまったり、簡単な料理を振る舞ったり、と割と忙しく日々は過ぎていった。
「おぉ、悪いなあ。どこぞのバカ弟子と違って気が利く男じゃ」
そんな事を言う老人——ジジ様に苦笑いを返す。
俺にはここではこれぐらいしかできないのだ。
役目があるセフェムさんと比較してはいけないと思う。
「いえ。他にできることがありましたら言ってください」
「もう十分じゃよ。そろそろ傍に行ってやりなさい。寂しがっているかもしれんじゃろ」
ジジ様もババ様もことあるごとにそう言ってリーゼさんの傍にいられるようにしてくれる。
きっと彼らなりに気を使ってくれているのだろう。
「……わかりました。何かあったら呼んでください」
うむ。と頷くジジ様を背に部屋に入る。
部屋の中では相変わらず穏やかな表情でリーゼさんが眠っている。
お湯を貰って体を拭いたり、髪を梳いたりとできる限りのことをする。
今日も変化なしだ。
「リーゼさん。今日はセフェムさんと薬草を取りに行ったんです。薬草って種類がいっぱいあるんですね。未だに覚えきれる気がしません」
手入れをしている間にそんなことを話す。
どうにも黙ってやるのは落ち着かない。
「リーゼさん。目が覚めたら何をしましょう? 森の中を歩いてみますか? 俺と一緒に薬草を覚えてみますか? ……あ、父さんに帰ってこいって言われてるんでしたね……」
話しかけたところで返事はない。
それに虚しさを覚えながらも、いつか目覚めたときのことを夢見る。
希望を口にし続ければいつか叶う。
そんな気がした。
「……割れてる……」
俺から贈ったピアスの飾りが割れて半分ほどなくなっていることに気づいた。
このままだと割れた先端で傷がついてしまうかもしれないと、それを外すために手を触れた。
「ん……」
留金を外そうとしたところでそんな声が漏れた。
驚きのあまり手を止め、その顔を凝視した。
「……リーゼさん?」
微かに瞼が動いた気がして、肩を揺すった。
「リーゼさん! 聞こえますか⁉︎ リーゼさん!」
ゆっくりと瞼が上がり、綺麗な黄金色の瞳が現れる。
その様子に視界が潤む。
ようやく待ち侘びた瞬間なのにこれでは見れないではないか。
部屋の外からバタバタと足音が聞こえる。
そして勢いよく扉が開かれた。
現れたのは老夫婦とセフェムさんの三人だ。
俺の声が聞こえて駆けつけてきたのだろう。
「何事じゃ──……まさか、生きて見ることができようとは──」
部屋に入るなり、その場で固まったジジ様が呟く。
その表情は驚き一色だ。
「ユーリス……?」
ぼんやりとした表情で彼女が俺を呼ぶ。
蚊の鳴くほど小さなその声は間違いなく彼女のものだ。
「おはようございます。……リーゼさん」
無理やり作った笑顔から熱い雫が溢れた。
あれほど語りかけていたのに、言葉が出ない。
その代わりに痩せ細った手を両手で包むように取った。
ついにリーゼが目を覚ましてくれました……!
「おはようございます」と涙を流すユーリスの姿に、少しでもホッとしていただけたら嬉しいです。
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