059 過酷な二人旅
日長の一族がいる森への旅路は過酷だ。父は道なりと言ったが、実際はほとんど道とは言い難いのだ。
道だと分かりづらいならまだマシで、足幅しかない崖を通ったり、滑りやすい石の上を通ったりと、人一人を背負って通れるような場所ではない箇所が多々あった。
崖を通った時は、この状態でリーゼさんが目覚めたら驚きのあまり暴れて気絶するのではないかと気が気ではなかった。
そんなことが起きれば、俺一人では間違いなく一緒に落ちていた。
眠っている状態で越えられたのは幸いだ。
危ないところを越えたら休憩をして、リーゼさんに聖水も使う。
そんなことを繰り返す。
日が暮れれば、近くで簡単な野営をして夜を明かす。
この辺りも魔物が出るので安心はできない。魔物避けも万能ではないのだ。
「リーゼさん、今日はここまでにしましょう。夕焼けが綺麗ですよ」
意識がないことはわかっているが、どうしても声をかけてしまう。
山肌が剥き出しの山間ではあるが、王都では見ることができない風景だ。
その美しさを分かち合いたかった。
背負子を降ろし、敷物の上にリーゼさんを横たえる。
その隣に座って、彼女の髪を梳く。
さらさらの綺麗だった髪も手入れが行き届かず絡まっている。
目的地まで着いたら綺麗に整えてあげよう。
「──いや、その前に俺の方かな。手入れしないといけないのは」
旅慣れていないとはいえ、今の俺の状態は酷いものだ。
汗まみれ、泥まみれ。
世の冒険者たちはいつもどうしているのだろうか。
リーゼさんがこんな姿を見たら大笑いされそうだ。
「陽が昇ったら出発しましょう。それまでゆっくり休んでください」
そう語りかけて俺も岩にもたれて眠りについた。
夜が明けて朝日が昇る。
それとともに目を覚ました俺は体を動かそうとして痛みを覚えた。
昨日の疲れもあるが、座って寝たのもあって全身がガチガチに強張っているのだ。
やっぱり冒険者ってすごいな、と思いながらなんとか立ち上がる。
これはしっかり体をほぐしてから移動を始めたほうが良さそうだ。
強張った体を伸ばし、軽い準備運動をする。
道のりはまだまだある。
早々に肉離れでも起こそうものなら目も当てられないだろう。
逸る気持ちを抑えて、もう少しゆっくり進もう。
背負子にリーゼさんを乗せて背負う。
一瞬ぐらりと動いた気がして慌てた。
どうやら固定が甘かったらしい。
リーゼさんの体が大きく前傾していた。
固定し直してもう一度背負った。
「さあ、行きますよ。せっかくの二人旅なんですから、楽しんでいきましょう」
獣道のような山道を下り、大きな川を渡り、山を登る。
道中で小動物を見かければ、リーゼさんにも見せるように背負子を下ろす。
ついでに休憩したり、手入れをしたり。
夜になったら野営して、朝になったら移動を再開する。
それを何度も繰り返して、目的の森にたどり着いた頃には村を発って何日経ったのかわからなくなっていた。
森は聞いていた通り鬱蒼としていて、入るのもためらわれた。
しかし、ここに入らなければリーゼさんを助けることはできない。
それに父から聞いた目印もある。
なんとかなるはず、と意を決して中に足を踏み入れた。
森の中は外から見えた印象とは全く違った。
薄暗いことを覚悟したが、中は木漏れ日が差し込んで色彩豊かだ。
樹木が多いかと思えば、背の低い草花のほうが圧倒的に多い。
あの入り口の印象はなんだったのだろうか。
とりあえず前に進みながら、目印の白い花を探す。
森の中は当然のように道のようなものはない。
おそらく下手に進めば迷子になるだろう。
「白い花、白い花……」
周りにある草花は色とりどりだが白い花は見当たらない。
来た道を引き返すべきだろうかと迷う。
しかし、引き返したところで見つけられるだろうか。




