050 行き止まり
階段を上った先は真っ暗で何も見えない。
エステラがランタンに火を灯して照らし出せばこれまでと同じ白煉瓦の壁。気配察知は相変わらず無反応だ。
しばらくは道なりに進んで問題なさそうだ。
「妙な遺跡だよな。魔物もいなければ罠もない。祭壇ってことは、なにかの信仰があって造られたものなのか……?」
ぽつりと呟かれた声が響く。
それに慌ててアルシウスが口を覆うが時すでに遅しだ。
ただし何も起こらなかったのは不幸中の幸いだった。
ふつうならこれで音に敏感な魔物が押し寄せる。
小さな声でも響いてしまうので全員黙ったまま先に進む。
しばらく歩いてたどり着いたのは小部屋のような空間だった。
壁にある明かりが点っているおかげで明るい。
「なにも、ない……よな?」
先程の失敗を警戒したのか、呟きよりも小さな声で訊ねる。
通路のような響き方をしなかったのでほっと胸をなでおろしている。
「何もなさそうですね……。何のための場所なのでしょうか。祭壇のようなものもありませんし」
小部屋の中は白い壁と床があるのみで他は何もない。
先程の場所で見つけたものを信じるならば祭壇があるはずなのだが——
「——いや、ここにはない。まだ先なんじゃないかい?」
全員が疑問を呈した表情を向けた。
そんな彼らに私は説明をすることにした。
「良いかい。祭壇の場所は南の下った先だよ。私たちはまだ下ってないじゃないか」
あの場所からここまでで階段を上って真っすぐ進んだだけだ。
記されている〝下り〟はなかった。
文字通りに受け取るなら、どこかに下りの階段か何かがあるはずなのだ。
しかし今いる部屋には来た通路以外に繋がっている通路はない。
見落としでもあったのだろうか。
「そうなのかもしれませんが……、どこにあるのでしょうか……」
明かりを持っているエステラが気づかなかったとなれば、通路で見落としがあったわけではないだろう。
残る可能性はこの部屋ぐらいか……。
とはいえ、この部屋に調べるようなものもない。
採掘場のように埋められているのか、隠されているのか、根本的に古語を読み間違えているのか。
いずれにしても時間がかかりそうだ。
「…………。ここも魔物の気配はしないし、一旦ここで休憩を取ろう」
それまで思案顔だったアルシウスが言った。
朝から山を登って今に至るので、それなりの時間を動き続けているはずだ。
その判断も頷ける。それにそろそろ私も腰が限界だ。
「そうさせてもらうよ」
壁に背を預け床に座れば、そこからは石のひんやりとした感触が伝わってきた。
それに驚いたのか、腹の子がぽこりと動いた。
そんな子を宥めるように腹を撫でる。
「体調は問題ないか?」
「ん? 今のところはね。休憩も増やしてもらってるから助かってるよ」
隣に座ったアルシウスが触りたそうに眺めているので、「触ってみるかい?」と聞いてみた。
するとアルシウスは恐る恐るといった様子で私の腹に手を触れた。
「思ったより硬いんだな……」
「あははははっ。最初の感想がそれかい?」
「いや、動いてるかどうかもわからないし……。他にどんな反応をすれば良いんだよ!」
そう言ってアルシウスは立ち上がってそっぽをむいたが、後ろから見えた耳は真っ赤になっていた。
照れ隠しのようだ。そんな後ろ姿が面白おかしくてしばらく肩を震わせることになった。
「休憩がてら状況を整理しよう。時間を有効活用したい。まず、ファイドロ。足の状態はどうだ?」
全員が落ち着いたところでアルシウスが発言した。
行き詰まっている現状、状況確認は必要だろう。
仲間の消耗、自分たちの立ち位置などは一度整理したほうが良い。
「問題ない。腫れも引いている」
「よし。リーゼ、さっきも聞いたが、体調に変化はないな?」
「問題ないよ。休んだから腰の痛みも引いた」
「……痛むならもっと早く言ってくれ……」
真実を言えば呆れたような視線を向けられた。
言ったところで休めるような状況ではなかっただけなのだが……。
そう思って肩を竦めてみせる。すると向けられた視線が疑わしげなものに変わった。
「……それから現状だが、この遺跡は魔物や罠がある類ではないってことで大丈夫だよな? 少ない手がかりを頼りに探し出すだけってところか……?」
「そう考えるしかないだろう。手がかりは南を下った先に祭壇、西に宝石、東に薬、北に記録……だったか?」
「手がかりではなく暗号か何かでしょうか……」
思い思いに意見を出す。こういったところは以前から変わらない。
そうして出てきた情報を私がまとめていたのだが、今それを務めるのは私ではない。
「やっぱりそうだよな。この部屋を調べるよりはさっきの場所を洗い直してみるか……」
何もない場所を調べるよりはまだ何か見つかりそうだ。
反対意見も出ないので、しばらく休憩したのちに来た道を戻ることになった。




