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045 流浪の民

 ルッツの集落を出発して目的の火山を目指すことしばらく。

 あたりはそれまでとは比べ物にならないほどの自然に包まれた。密林の中に入ったようだ。

 そこは見たこともない植物に満ちており、他の地域では見ることはできなさそうなほど幻想的だった。

 そして火山の影響か少し蒸し暑い。


「ここが登山口か……。確かに馬車で登るのは無理だな……」


 停まった馬車から降りて見やる。

 うっすらと見える何かが通ったような跡が続く先は人が二人並べるぐらいしか幅がない。

 確かに一頭立ての馬車でも無理だ。


 気を取り直して登山を始めようとしたところで、四色の光たちが集まってきた。

 一度に複数集まってくるのは珍しい。

 それぞれがすっと私の前で止まり、代わる代わる私の腹に触れていく。

 時々順番を取り合うように押し合うが、それでも腹の子に戯れるように触れていくのは止まらない。


「この子が気になるのかい?」


 そう言って腹を撫でれば、精霊は上下に少しだけ動いてどこかに行ってしまった。


「どうかしたのか?」


 気づけば三人はすでに登山口から先に進んでいた。

 一人だけ遅れているのに気づいてアルシウスが振り返っていた。


「なんでもないよ」


 そう言って三人を追いかける。

 精霊たちが何かしてくれたのだろうか。体が少しだけ軽くなった気がした。


 こうして始まった登山は思っていたよりも難しくなかった。

 人の手が入っていないことで途中で道が途切れていることも想定していたのだがそのようなことは今のところない。

 それどころか随分と昔に整備されたような跡もある。

 昔ここで何かやっていたのだろうか。


「……少し変わった臭いがしますね……」


 どれほど登ったのか、長く続いた密林を抜けたあたりでエステラがそう言った。

 確かに嗅いだことのない独特の変な臭いがする。

 何の臭いだろうか。

 ただ、鼻を塞ぎたくなるほどでもないので、登山は続行だ。

 今までなら確実に具合が悪くなりそうな臭いなのに平気なのは先ほどの精霊のおかげなのだろうか。


「そういえば、ずっと聞き損ねていたんだけど、瑠璃とか碧玉って例の一族のことかい?」


 足で蹴ってしまった石を見て思い出した。

 ルッツは私たちを見てそう言ったが、以前聞いた〝流浪の民(ロヒツクシア)〟の呼び名のことだろうか。

 エステラも今思い出したように「私も気になっていました」と付け加えた。


「……ああ、それは……」


 アルシウスが言いかけて立ち止まった。そして私たちに休憩を言い渡した。

 それぞれが適当な場所に腰を下ろす。

 来た道を振り返れば眼下に密林が広がっていた。

 それほど広い印象はなかったのだが、火山地帯と同じぐらいの広さはありそうだ。


「それで、さっきの話だけど。瑠璃とか碧玉っていうのは、俺たちの一族の呼称なんだ。前、ファイドロも同じ一族だって話したのを覚えてるか?」


 そんな話を聞いた覚えがあるような気がして記憶を掘り返す。

 たしか拠点で暮らすようになってから聞いたはずだ。

 きっと詳しく知らないエステラに向けられたものだろう。


「昔の王家の本家本元とかって話かい?」

「ああ。俺たちの一族はかなり大きいんだ。一族の中でも血筋が幾つもあって、一族間で呼び合うときに石の名前を使っているんだ」


 この国では姓がある人は少ない。

 アルシウスたちの一族も姓がない血筋が多いのだろうか。

 そのための呼び分けなら理解できる。


「何となくわかったけど、どうして石なんだい? 他にも呼び方があっただろう?」

「いや、石の方がわかりやすいんだ。俺なら濃い青だから瑠璃、ファイドロなら茶色で碧玉って。それにこの呼び方なら一族外とは被らない」

「それは確かに」


 ルッツと初めて会った時のことを思い出す。

 あの時、互いに石の名前を出し合ったからこそ、同じ一族だとわかった。

 確かにわかりやすいし、一族でなければわからないだろう。

 さすが国を作る一族なだけはある。考えてみれば結構合理的だ。


「よし、そろそろ休憩は終わりで良いか?」


 そんな問いかけに反対の声はない。全員立ち上がって登山を再開した。

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