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044 ……なんだかごめん

 翌朝、馬車は次の集落に向かって出発した。

 道中はやはり変わり映えのしない景色が続き、静かにしかし激しい揺れと共に私たちは進んだ。

 そんな旅が数日続き、ようやく辿り着いたのは最初の集落とそれほど変わらない見た目の集落だった。


「思っていたよりしっかりしてます、ね……?」


 集落の中に入り歩くことで、最初の集落とは似て非なることがわかった。

 建物の造りは他の地域ほどではないにしても、最初の集落ほど粗末な印象を受けない。

 規模が小さいとはいえ区分けもされているように見える。

 そして最大の違いは──


「お前たち、何者だ」


 門番ではないのだが、集落の中から出てきた男が私たちの前に立ち塞がった。

 その言葉を私たちも返したいところだが、今は私たちの方が不審者なので言い返せない。


「急にすまない。俺たちは王都から来た冒険者だ。依頼で探しているものがある」


 前に出て答えたアルシウスに、男は舐めるような視線を向ける。

 そして少し考えるようなそぶりを見せて口を開いた。


「…………まさか、瑠璃か? それに後ろにいるのは碧玉……」


 男の言葉が理解できず首をひねった。

 瑠璃や碧玉と言ったら宝飾品に使われる石のはずだが、まるで人に対して使っているようだ。


「もしかして、琥珀……か?」


 まるで何か通ずるものがあるかのように、立ちはだかる男はそれだけでアルシウスの肩に手を置いて笑顔になった。

 もしかしてアルシウスの一族の関係者なのだろうか。


「そうか! もてなせるほどではないが、ゆっくりしていってくれ。お前たちを歓迎しよう」

「助かる。とりあえずどこか休める場所はないか? 身重の者が一人いるんだ」

「わかった、案内しよう。お前の嫁か?」


 間違いなく言った本人には悪意はない。

 しかし言われた方はがっくりと肩を落として「そうだったら良かったんだけどな……」と小さく呟いた。

 ……なんだかごめん。


 男の案内で連れてこられたのは男の家だった。

 簡素な家ではあるが、最初の集落で見たようなその場しのぎのような造りではなく、必要なところはしっかりと補強されている。

 中にあるものも比較的私たちの知るものに近い。

 それだけで生活感がありありと伝わってくる。


「ここを使ってくれ。本当に何もなくて申し訳ないが……」


 男は樹を適当な長さで切り出しただけの椅子を用意してくれた。ありがたく拝借する。

 意外なことに座り心地は馬車の台よりもかなり良いことに驚いた。


「ありがとう。助かるよ。……えっとなんて呼べば?」


 訊ねれば男は忘れていたとばかりに驚いた。

 おそらく先程のアルシウスとのやり取りで言ったつもりになっていたのだろう。


「名乗っていなかったな、すまない。俺はルッツ。この集落のまとめ役みたいなものを任されているんだ」

「俺はアルシウス、こっちがファイドロ、エステラ、そこに座っているのがリーゼだ」


 アルシウスの紹介に合わせて全員がルッツに会釈した。

 少しだけ打ち解けたような空気感に胸をなでおろした。

 しかし本名を名乗ってしまって大丈夫なのだろうか。そう思ってファイドロを見れば問題ないと頷かれた。


「……それで探しものをしているという話だったが、具体的に何を探しているんだ?」

三賜物(さんしぶつ)だ。宝器と秘杖について何か知らないか?」


 少し落ち着いたところでそう話せば男は首を振った。やはり何も知らないようだ。

 これはこれ以上の探索は無意味ではないだろうか。


「……悪いな。それに関することは聞いたことがない。おそらく他所の集落も同じだろう。そういった伝承はあまりないんだ。その日を生きていくだけで精一杯だからな」


 この集落の状況から見てそれは真実だろう。

 この集落はまだマシだが、明らかに時代が遅れているのだから。

 小さな集落がそれぞれ分断されている状況では、必要なものを手に入れるのも苦労していることだろう。

 食べ物だって怪しいかもしれない。


「そうか……。なら火山について教えて欲しい。どこから登れる?」

「まさか、このメンバーで登るつもりか? それはやめておけ。少なくてもリーゼさんは置いていくべきだ。火山はそう簡単に登れるような場所じゃない」


 アルシウスの問いに驚きを隠さないルッツはそう言った。

 やはり険しい場所のようだ。


「わかっている。無理だと判断したらリーゼには引き返してもらう。それに俺たちはこう見えてAランクパーティなんだ」


 だから頼むよ、と言ったアルシウスにルッツはため息をついた。


「……何があっても知らないぞ。……ここから三日ほど歩いた先に登山口がある。そこからなら多少は登れるはずだ」

「馬車は使えそうか?」

「登山口までなら。そこから先は一頭立てでも難しいだろう」

「わかった。明日の朝出発したいんだが、泊まらせてもらってもいいだろうか」

「ああ、構わない。ただしご覧の通り食べ物に乏しい場所だ。食事は自分たちで用意してくれ」


 こうして私たちはそのままルッツの家に泊まることになった。

 今夜の分と火山に備えて食料を集めるため、アルシウスたちは集落の外に狩りと採取をしに出ていった。


「ルッツ、これを集落の人たちに分けてくれ。多く獲れたから」


 戻ってきたアルシウスたちは数匹の魔物を引きずっていた。

 私たちの分だけとしては多すぎる量だ。


「いいのか……? これだけ獲るのも苦労しただろう?」

「いや、これぐらいの魔物なら大したことはないさ。獣より臭いけど、食えることは保証する」


 ルッツは苦笑いのような表情で魔物を引き取った。

 それからルッツはアルシウスたちに魔物の解体の仕方を教えてもらいながら、集落の人たちに振る舞う準備を進めていった。

 もちろん私はそれを遠目に眺めるだけだ。

 血の臭いでえずいてしまうのだから。


 物珍しいのか集落の人たちが集まってきて、そのままちょっとしたお祭りのような様相になったのだった。

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