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竜の眠る場所 外伝  作者: 知花 紗采
1章 アストラ
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答え

「あの……リーゼさん……」


 依頼を終え、ギルドまで戻ってきたところで躊躇いがちにエステラが声をかけてきた。

 パーティ内の葬式のような雰囲気から言わんとすることが何なのか想像に難くない。


「まずは依頼達成の報告じゃないのかい?」


 あえて気づかないふりをして話を先送りにした。

 そうですよね、と呟いて三人でカウンターに向かうその足取りはひどく重そうだ。

 カウンターで報告し、報酬を受け取った三人はとぼとぼと私のところまでやって来た。

 ギルド内は相変わらず騒がしく、酒の臭いも濃い。大事な話をするには向いていない。


「まあ、とりあえず場所を移そうか」




 ギルドから少し離れた場所にある茶店まで案内して通りに面した軒先の席に座った。

 王都に店を構えるだけあって、大きな店ではなくても高級感が漂う店だ。

 そんな店には粗暴なものが多い冒険者は滅多に寄り付かない。

 だからか、先ほどから店員たちが怪訝な表情でこちらをチラチラ見ている。


 そんな雰囲気も気にせず軽く手をあげ目配せをする。

 そうしてやって来た店員に全員分の飲み物を注文すれば若干拍子抜けしたような態度で店員は去っていった。

 ついでに先ほどまでの視線もほとんどなくなったが、まだ一人だけこちらに注意を払っている気配はあった。


「あ、あの、リーゼさんはこういうところはよく来るんですか?」

「よくって程ではないけど、気が向いたら来てるね」

「そうなんですか」


 エステラと他愛のない会話をしている間に飲み物が運ばれて来た。

 それぞれがそれを手に取って乾杯するところではあるのだが、店の雰囲気的にも面々の雰囲気的にもそうできる状況ではないので軽く持ち上げるだけにとどめて口をつけた。


「さて、聞きたいことがあるんじゃないかい?」


 緊張感を隠しきれないままの面々に何気なしに問うてみる。途端に全員の動きがぎこちなくなった。


「──頼む、もう一度チャンスをくれ!」


 長い沈黙の後、意を決したようにそう言い放ったのはラィスだった。


「なんで?」


 意地悪に聞こえるであろうことを承知の上で訊ねてみる。

 現状予想通りとはいえ、思い込みで話を進めるのは危険だ。


「次こそは……次こそは、ちゃんと上手くやってみせるから……!」


 テーブルにぶつける勢いで頭を下げるラィスに、エステラがアワアワと何かしようとしているのだが、本人もどうすれば良いのかわからないのか結局何もできていない。

 そしてファイドロは腕を組み目を瞑るのみである。


「──プッ」


 その混沌とした有様に思わず笑ってしまった。

 そんな私の様子に三人がギョッとこちらを見た。

 まあ、意思確認もできたし良いだろう。


「そんなに必死になる必要はないよ。それに私が出した条件は、三人での依頼の達成ではないよ」


 そこでエステラとファイドロがあっと言わんばかりに目を見開いた。


「私が出した条件は、死にたがりではないことの証明。──文句なしの達成だよ」


 周りが静寂に包まれた。まるで嵐の前のようである。そして一拍。


「はあぁああ⁉︎」


 叫ぶだけ叫んだラィスと他二人は程なくして崩れるように椅子に座った。

 座ったというより、たまたまそこに椅子があったからそうなったようなものだが。

 とりあえず叫ぶのは店に迷惑なのでやめて欲しい。

 ここに連れてきた私の落ち度でもあるので後でお詫びのチップでも渡しておくか……。


「なんで、今の今まで忘れてたんだろう……」

「……不覚」


 再び落ち込む三人。

 落ち込むの好きだなぁ、と思いながらもそれを打ち切らせなければならない。

 このままでは先に進まない。飲み物一杯で長居し過ぎだ。


「だいたい、三人で依頼達成できるなら私が入る必要なんてないじゃないか」

「……確かに」


 鼻を啜りながら頷くエステラ。

 どうやら気持ちの糸が切れてしまったようだ。

 ファイドロが気を使って宥めているが、涙が止まる気配がない。

 それを本人が恥じているらしく何度も拭っているが、状況は変わらなかった。


 エステラが泣き止むのを待つことしばらく、温かった飲み物は冷め切っていた。

 店員もそろそろ帰れと言わんばかりの雰囲気を醸している。

 本当に入る店を間違えた。色んな意味で申し訳ない……。


「すみません……、こんなつもりはなかったのに……」

「それは良いって。それでリーゼさんは本当に、本当に入ってくれるのか?」

「リーゼで良いよ。仲間にいつまでもさん付けはやりづらいだろう?」

「……わかった。それで、答えを聞きたい。リーゼの口から」


 妙に落ち着いた声音のラィスが訊ねる。

 普段の少しふざけた雰囲気はなく、確信できる何かを得るために必死──というより何かに怯えているように感じた。


「【アストラ】に入るよ」


 肩肘張らず答えれば、わずかに漂っていた張り詰めた空気が一気に緩んだ気がした。

 彼らにとって、明確な回答は大事なことだったようだ。


 ほっと息をつく男たちに、再び泣きじゃくるエステラ。

 少しアンバランスな感じもするが、堅実なパーティであることは彼らが示してくれた。

 今度は私が示していく番だろう。


 私が彼らにできることはなんだろうか。

 そんな思いを抱きながら、正式なパーティ加入の手続きを終えたのだった。

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