024 ギルドマスター
ギルドまでやってきた私たちは、重い足取りで尚且つ堂々とした態度で、ギルドマスター室の扉を叩いた。
こちらの心中を読まれれば確実に良いように利用されてしまうからだ。
「よく来たな」
真正面の立派な机に座っているのは贅肉たっぷりの大柄な男。
彼がギルドマスターだ。
ギルマスは不遜な態度で私たちを見回した。
「お前たちに来てもらったのは他でもない。Aランクパーティ昇格の試験を受けてもらう」
その言葉に全員が一斉に疑問符を投げかけた。
パーティのランク昇格に試験など聞いたことがない。
「どういうことですか。パーティのランクに試験はないはずです」
アルシウスの問いにギルマスは神経質に指先で机を突く。
彼の中で決まっている流れではないため苛々している、そんなところだろうか。
「わからんかね。この私が、直々に、お前たちをAランクパーティにしてやると言っているんだ。だがお前たちの実績は少々足りん。だからこうやって便宜を図ってやっているのだ」
ありがたく思え。
そんな態度に不快感を覚えるが、相手はギルマス。さらには貴族だ。
下手に態度に出しては何をされるかわからない。努めて平静を保つ。
「……何をすれば良いのでしょうか」
「何も難しいことではない。セレディアに行って新種の魔物を倒してくる。それだけだ」
「どれくらい時間をいただけるのでしょうか」
「そうだな。二週間あれば十分だろう」
その回答に衝撃が走った。
セレディアまでは馬車でも数日かかる。
往復するだけで二週間のほとんどを費やしてしまう。
事実上速やかに行って倒して戻ってくるというかなり無茶のある段取りになる。
滅多に現れない魔物であれば達成など不可能だろう。
「──それはもちろんセレディアのギルド支部への報告で良いということですよね」
アルシウスの表情にヒビが入り始めている。
無理やり吊り上げた口角が小さく痙攣しているのが見える。
「ふんっ。別に構わん。好きなところで報告しろ」
「わかりました。明日から、ということで良いでしょうか」
「好きにしろ」
ギルマスは見るからに苛々した様子で私たちを部屋から追い出した。
気持ちに蓋をしてギルドを出ようとした際、ふと受付のカウンターが目についた。
相変わらず横柄な職員と冒険者の男が揉めている。
冒険者が問題を起こしたのか、はたまた職員が難癖をつけているのか。
いずれにせよよく見る光景だ。
問題が絶えない状況にため息が出た。
「あーくそッ! あのクソデブ!」
ギルドを出るなりアルシウスが吠えた。
出るまで我慢していたのは彼だけではない。
言葉にはしなかったが、ファイドロもエステラも物申したい顔をしている。
私だって一度殴り飛ばしたい。
それでも何もせずに耐えたのは、そんなことをすれば確実にやり返されるからだ。
しかも、まともではない手段で。
貴族を相手にするということはそういうことなのだ。
「みんな、すまん」
叫んだことで多少は気が晴れたのか、アルシウスは振り返ってそう言った。
それに私とファイドロが肩をすくめる。
「いたしかたないだろう。相手は伯爵だからな。あれ以上食い掛かれば何をされたかわからん」
「復路の時間を無くせただけでも上出来だよ。あとはやれることをやるしかない」
そんな返答にアルシウスはほっと胸を撫で下ろした。
交渉が上手くいかなかったことを気にしていたようだ。
「それじゃあ、一旦帰って計画を──」
「悪いけど、ちょっと出かけても良いかい? さっき話してた士爵への挨拶の日取りと被っているんだよ」
横でエステラが「あ!」と声を上げた。
反応は三者三様だが、先ほどのギルドの一件が強烈だったため忘れていたようだ。
「わかった。先に始めておく」
「悪いね」
私はこの場で別れて、王都の門に向かった。
今ならまだユーリスは勤務中にはずだ。
■■■
王都を出てすぐのところで、目的の姿を見つけた。
仕事の邪魔にならないのを確認してユーリスに声をかけた。
「ユーリス、ごめん。ちょっと相談したいことが……」
「わかりました。ちょっと待ってもらえますか」
ユーリスはそれだけ言って詰所に入っていき、すぐに別の騎士を伴って出てきた。
そして私を手招いて詰所に通してくれた。
詰所の中は狭く、必要最低限のものしかない。
人一人が休めればそれで良い。そんな設計がされているようだ。
「狭い所ですみません。流石に勤務中に離れるわけにはいかず……」
「気にしないで。急に来たのはこっちだし、すぐに終わるから」
そう切り出して手短に事情を話せば、ユーリスは困ったような顔をしながら息を吐き出した。
「……わかりました。今夜迎えにいきます。先触れは出しますので悪い顔はされないかと」
「ごめん、もう連絡してたよね」
「いえ、気にしないでください。お互い不測の事態がある仕事をしているんです。士爵はそのあたり理解がある方ですよ」
ほっと息を吐き、これ以上は迷惑だろうと去ろうとしたところで、声がかかった。
「服装ですが、士爵はあまりその辺りも気にしないので、露出が多い格好でなければ何でも大丈夫ですよ」
「わかったよ。いろいろありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでですよ」
ちょっと前まで内心不安でしかなかったのに、こうやって話すだけでそんな不安も晴れていく。
少し温かな気持ちで詰所を後にした。




