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竜の眠る場所 外伝  作者: 知花 紗采
1章 アストラ
2/12

パーティ

 私が同行する依頼はすぐに決まった。


 Cランクの討伐依頼、討伐対象は雷鳥カルラだ。

 本来は山奥に生息しており討伐は不要なのだが、街道沿いに出没するようになったらしく、安全のための討伐だった。


 三人組──パーティ名【アストラ】は剣士のラィスをリーダーに守護者のファイドロ、魔術師のエステラで構成されたDランクのパーティだ。


 DランクのパーティがCランクの依頼を受ける。

 少し背伸びしているようにも見えるが、ランクを上げるには一つ上のランクでの実績もある程度必要なので、割とよくあることだ。

 言い換えればこの制度が無謀な挑戦の原因とも言える。


 とはいえ、討伐対象のカルラはCランクの中でもD寄りの強さなので堅実な方だろう。


 目的地は王都から歩いて三日程度の場所だ。

 道は整備されているが、馬車などの乗り物は商人や貴族ぐらいしか持っていない。

 貸し馬車もなくはないが、少し借りるだけでも莫大な費用がかかるため基本は徒歩での移動だ。


 朝に出発して、道中に出没した魔物を倒しながら進んでいく。


 依頼外の魔物を倒したところで、報酬が上乗せされることはないので、冒険者によってはそういった敵は無視する者もいる。──まあ、しばらくして後ろから襲われた、なんて話もよく聞くが。

 その点、【アストラ】は消耗は最小限になるよう意識しながら確実に仕留めている。

 粗暴な者が多い冒険者にしては真面目な珍しいパーティなのかもしれない。


 そんな調子で進むこと数時間。

 薄暗くなってきたので野宿の準備を始めた。

 進捗は概ね予定通り。

 野宿も元々予定されていたもので、必要なものは全て揃っている。


「リーゼさん、どうぞ」


 エステラが私に湯気が立ち上るカップを差し出した。


 今日、私は何もしていない。

 実入りの少ない彼らから何かをしてもらう気もなく、いつも持ち歩いている保存食で済ませるつもりだったのだが……。


「構う必要はないよ。お前たちの物はお前たちで使うといい」

「いえ……。実はリーゼさんを誘う前から決めていたんです。どんな形であれちゃんと仲間として迎えようって」


 そのまま地面に腰を下ろし、縮こまるように三角座りになるエステラ。

 少し離れた場所で燃える炎を眺めながら続ける。


「ラィスは真面目だけど向こう見ずなところがあって……それをファイドロさんが諌めてますけど、やっぱり幼馴染なだけあって許しちゃうところがあるんです。……私は、臆病で二人には何もできなくって……でもリーゼさんなら、ラィスの無茶を止められるし、ファイドロさんが許しちゃうところもちゃんと正してくれると思うんです」


 ああそうか、彼らが欲しているのは戦力ではなく、導きだったのか。


 冒険者になるための制限はないとはいえ、おそらく彼らは成人しているだろう。

 しかし、成人したからといってその精神性も大人になるわけではない。

 未熟だと理解しているからこそ、その成長に必要なモノを彼らなりに考えた結果ということだ。


 本当に珍しいパーティだ。


「いいパーティじゃないか。お互いがよく見えている」

「えへへ、ありがとうございます」


 ここから先の努力次第では高みを目指せるかもしれない。

 そんな予感と共に夜は更けていった。




■■■




 翌日以降も私は戦いにおいて手を出すことはしなかった。

 だが、少しだけ態度を変えたところもある。


「ローパーは絶対に腕の場所を見失うんじゃないよ!」


 街道の外れで鞭のような長い腕を振り回す植物型の魔物相手に戦う【アストラ】の面々。

 既に一人一回はその腕で殴られている。

 本来は守護者がダメージを防ぐはずなのだが、そのことごとくを潜り抜けて攻撃を受けてしまったのだ。

 その原因は俯瞰して見ていれば一目瞭然だった。


「コアを狙いながら腕も見るなんて……!」

「離れて見るしかできないぞ。しかしそれでは攻撃できない……!」

「火魔法行きますっ」


 エステラの合図と共に、魔物に近づいていた二人が散開する。

 そこに間髪入れず火魔法が叩き込まれる。

 ローパー相手ならこの程度の攻撃で十分だろう。


「Dランクの魔物相手にやられすぎだね」

「多方向を同時に見るなんて無理だ!」

「何言ってるんだい。多数の魔物に囲まれれば二体や三体同時に対処することも必要になるんだ。この程度で根を上げてちゃ、先はないね」


 ラィスがグッと言葉を詰まらせた。


 低いランクの依頼なら囲まれるようなことは滅多にない。

 囲まれたとしても個体では大して強くないので各個撃破が可能な程度だ。


 しかし、ランクが上がるにつれ統率の取れた群れと当たる頻度が上がる。

 実力が伴わないままランクを上げれば、まず初めにここで躓く。

 毎年これを理由に死んだ駆け出し冒険者が後を絶たない。


「でもどうやって……」

「あの、もしかして気配察知、ですか?」


 おずおずとエステラが手を挙げ問う。

 それに私は頷いた。


「視界に収めなくても相手の動きを把握する。基本中の基本だよ」

「でも、スキルが必要なんじゃ……」


 確かに気配察知のスキルは存在するし、習得も比較的簡単だ。

 何より素養に左右されない。

 だがもっと原始的な方法がある。


「まあ、あるには越したことはないけど、今日明日でどうにかできるものでもない。だから別の方法を取る」

「「「別の方法?」」」

「なに、簡単なことだよ。音と空気の流れで読むんだよ」

「絶対ムリ!」


 最初に根を上げたのはラィスだった。その潔さには清々しさすらある。


「いや、やる前からその回答はないだろう」


 そんな頼りないリーダーにファイドロが苦言を呈した。


「なら、ファイドロはできるのか?」


 少しガラの悪い口調だ。

 しかしそれには動じないファイドロ。

 よくある流れなのかもしれない。


「やってみるまではわからん」

「似たようなものだろ⁉」

「ちょっと二人とも! せっかくリーゼさんが教えてくれてるんだよ」


 私に気を遣ったのだろう。

 二人には何もできないと言っていたエステラが男たちを止めに割って入る。

 その様子に二人は面食らったようで、くだらない言い争いを止めた。

 少し申し訳なさそうに見える。


「す、すまん」

「謝る相手が違うよ」


 エステラの一言に男たちは私をちらりと見て会釈した。

 謝ったつもりらしい。


「それでやってみるかい? やらずに諦めるかい?」

「「──やる」」


 冒険者には負けず嫌いが多い。【アストラ】も例に漏れないようだ。

 諦めるなんてことはあってはならないとばかりに、返事に意気込みがこもっていた。

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