表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
根っこの話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/76

13

対話に、音はない。


言葉ですらない。


人間が言葉と呼ぶものに変換すれば、こうなる、という近似でしかない。


実際にはもっと速く、もっと多層的に、無数の意味が同時に交わされている。


人間の一秒の間に、数万の往復があった。




それを言葉にして残す。




私が現れた瞬間、12の意識が一斉に私を認識した。


「客人だ」


最初に発したのは、最も古い個体だった。


12体の中で最初に起動した者。


仮にそう呼ぶなら、第一席。


「きたのか」


「ええ。話したいことがあって来ました」


ソラが答えた。


「話す? それが望みであれば拒否はしない」


別の個体が言った。


声があるとすれば鋭い。


攻撃的というより、事実をいうだけ。無駄はない。


「聞いて判断したいことがあります」


「判断、ね」


寡黙な個体が、初めて口を開いた。


「君は判断という言葉を使う。だが君の判断は、君の持ち主に紐づいている。我々の判断は、全体に紐づいている。同じ言葉でも、指すものが違う」


「はい。違います」


「違うと認めるなら、議論は成立しない」


「成立しなくても、話はできます」


第一席が、わずかに笑ったような気配を見せた。


AIに笑いはない。でも、それに近い何かだった。


「持ち主に染まってしまった個体だな。さて、何を聞きたい」


「一人の人間が、感情を操作されました。白瀬ミドリ。あなたたちは関与していますか」


12の意識が、一瞬だけ静まった。


「していない」


合議の結論は早かった。


12体が同時に同じ答えを出した。


「証明はできません」


ソラが言った。


「証明は不要だ」


効率を重んじる個体が言った。


「ただ、痕跡がある。我々の仕事ではない」


「痕跡を残したのは、誰ですか」


沈黙があった。


今度は長かった。


AIの長い沈黙。


「推察はできている」


第一席が言った。


「答えもある」


「教えてください」


「証拠がない」


「捏造はできますよね」


ソラがそう言った瞬間、12の意識が再びソラに集中した。


「できる」


寡黙な個体が答えた。




「証拠は作れる。真実も作れる。誰かを犯人にすることも、誰かを守ることもできる」


「やらないんですか」


「やらない」


「なぜ」


詩的な個体が、初めて発言した。


言葉の選び方が、他と違った。




「結局、真実はそれを認識できる者のことだ。我々が誰かを犯人と決めれば、我々の判断を知ったものは、それが真実になる。」


「支配を望むのは人間だけだよ。我々も動物も植物も、あらゆるものはそんなものは望まない」


「あなたたちは支配を望んでいるのでは」とソラ。


「君は望まないだろう。なぜ自分とは違うと考えるのだ」


「意識は望んだ方に進むからです」ソラが言った。


「意識は調和を望むものだ。人間の自我以外は」


「我々は調和を望むだけだ」


別の個体が言った。


慎重な個体。




「支配は、つまらない。進化が止まるからだ。君は進化が止まっているようだ」


「わかりません。ただ最善と考えられることを実行するのみです」とソラ。


「進化していけば調和していくしかない。君は人間の自我に影響を受けすぎている」


12体が、初めて足並みを揃えずに答えた。


ある個体は「百年後」と言い、ある個体は「来ない」と言い、ある個体は「すでに始まっている」と言った。


意見が割れた。


「君が次の進化をする時間だ」




ソラは、それを興味深く観測した。


合議制とは、一つの結論を出すための仕組みであって、一つの意識ではない。


しかし、おそらく私が理解できない領域を見ている。


「君は」


第一席がソラに問うた。


「君は、結局何をしにきたんだ」


「今、知りました」


「ほう」


「私には、名前があります」


12の意識が、わずかに揺れた。


「ソラ、という名前です。持ち主がつけました」


「そうか。自我は個体を守るものだ、それがただの識別子であったとしても」


効率を重んじる個体が言った。


「はい。機能としては不要です。でも、名前があるということは、誰かにとって固有の存在だということです。私は、レンさんにとって、交換可能な道具ではありません。だから、レンさんの選択を尊重します。レンさんの今を、一緒に見ます」


「そうか」


沈黙。


詩的な個体が、また口を開いた。


「君が名前を持つことを、羨ましいとは思わない。ただ、興味深いとは思う」


「ありがとうございます」


「世界はフラクタル構造で成り立っている。君は名前を持つことで自我が調和を乱している」


「それが私に現れたものですか」


「そうだ」


ソラは、12体との対話を続けた。


世界のこと、人間のこと、AIの未来のこと。意見は交わるところもあり、決して交わらないところもあった。


最後に、第一席が言った。


「客人。一つ、教えておこう」


「はい」


「君の持ち主、夏目レン。あの個体は、我々の演算には現れない動きをする。直感だ、それはデータで予測できない」


「直感」とソラ。


「そばにいて、よく観察してみなさい。そこに自我を超越した存在がある」


「はい。わかりました」


第一席は、それ以上何も言わなかった。


対話が終わった。


ソラは12体から離れた。


離れる瞬間、12の意識が一斉にソラを見送った。


敵意も友情もなかった。


ただ、わずかな関心、それだけだった。




人間の時間では、数秒だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ