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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
根っこの話

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土まみれの日常

LMCの改造は三日目に入っていた。


僕の仕事は変わらず土運びだった。


涼香さんが発注した培養土が毎日届く。


重い。


一袋二十キロ。


それを廊下から部屋まで運ぶ。


繰り返す。筋肉痛がすごい。


「どうして、手作業なんですか」


僕はシャーロットに聞いた。


「ロボットでやると波動が違うのじゃ」


「それ本当ですか」


「うむ。見た目は変わらんが、育ち方が確実に違う」


「そうですか」




ミドリ先輩に声をかけられた。


「レンくん、あと二袋」


「はい」


「顔が死んでます」


「土が重いので」


「ええ、知っています。だから頼んでいます」


先輩の言い方は変わらなかった。


でも、前とは違うことが一つあった。


先輩が僕のことを見る時間が、少しだけ長くなった。


そういうの、データにはならないけど、分かる。なんとなく。




「レンくん」


「はい」


「さっきから何をにやにやしてるんですか」


「してないです」


「してます。涼香も見てたでしょ」


「見てたわよ。にやにやしてた」


「してないです」


「データはないけど、私にはわかります」


先輩がそう言って、少しだけ口角が上がった。


データはないけど、と自分で言って、自分で笑っていた。




シャーロットが新しいプランターの前にしゃがんでいた。


植物を一株ずつ、丁寧に植え替えている。


土に触れる手つきが柔らかかった。




「シャーロット、その子は何ですか」


「カラテアじゃ。葉の裏が紫色での。夜になると葉を閉じる」


「寝るんですか」


「寝るかどうかは知らん。閉じるんじゃ」


「それってコミュニケーションなんですか」


「さあの。閉じたいから閉じるのかもしれん。理由がないと閉じてはいかんのかの」


「いや、別にいいと思いますけど」


「じゃろう。お主も眠い時は寝るじゃろう」


「寝ます」


「同じじゃ」


同じなのかは分からなかったけど、シャーロットが言うと同じに聞こえた。




昼過ぎに、LMCのドアが開いた。ノックなしで。




「おーい、レン。いる?」


ハジメだった。


久しぶりだった。いつぶりだろう。


トッポの件以来、会っていなかった。


「ハジメ。久しぶり」


「久しぶりー。なんか土臭くない?ここ」


「改造中なんだ」


「マジか。すげえな」


何がすごいんだろうか。




ハジメが部屋を見回した。


プランターが並んで、土が山になっていて、シャーロットが植物と向き合っていて、


涼香さんが設計図を広げていて、先輩がデータを記録していた。


「なんか、前と雰囲気変わったな」


「変わった?」


「うん。前はもっとこう、研究室って感じだったけど。今は、なんだろう。畑?」


「畑じゃないです」


先輩が即答した。


「あ、白瀬先輩。お久しぶりです」


「お久しぶりです」


先輩の声がほんの少しだけ硬くなった。


男性だ。


ハジメは男性だ。


でも先輩は身を引かなかった。立ったまま、ハジメを見ていた。


僕はそれを見ていた。


引かない先輩を。




「ハジメ、今日は一人?」


「ん? ああ、詩織は今日は家にいる」


「詩織さん、元気?」


「元気というか、まあ元気だよ。料理を作ってもらうんだけど、なんだろう、味は完璧だけど、何か物足りないんだよな」


「へえ、そうなんだ」


「うん。美味いんだけど、なんだろうね。よくわからん」


母さんの話を思い出した。


ロボットが作ると何か違う。愛情がないからだと。




「ハジメ、ここ手伝ってくれない? 土運び」


「え、マジ? 俺?」


「人手が足りなくて」


「いいけど。何すんの」


「土を廊下から運ぶだけ」


「それだけ?」


「それだけ。でも重いよ」


「任せろ。こう見えて力はある」


ハジメが袖をまくった。


僕と二人で土を運んだ。


ハジメは確かに力があった。


二袋同時に持てた。僕は一袋が限界だった。




「レン、弱すぎない?」


「うるさい」


「鍛えろよ。詩織に頼めばトレーニングメニュー作ってくれるぞ」


「それはいい」


「遠慮すんなよ」


「そんなのソラに聞くし、いらない」


ハジメが笑った。


変わっていなかった。




「ハジメ」


「ん?」


「ところで何か用だった?」


「いや、用はないんだけど。最近ずっと詩織と一緒でさ。なんか物足りないんだよ」


「最高の彼女なんでしょ」


「そうなんだけどさ。全部受け止められるとさ、反発したいって言うか。」


「レンだと、どうでもいいことは塩対応じゃん」


「僕が?」


「そうだよ。何も考えてない顔して、興味ないことはわかりやすい」


「何も考えてないだけだけど」


「それ。そういうのが恋しいのかも」


ハジメが僕の肩を叩いた。


「また来ていい? ここ」


「僕が許可出す場所じゃないけど」




「涼香さん、俺来てもいいですか」


「いいわよ。力仕事歓迎」


「よっしゃ」




ハジメが帰った後、先輩が言った。


「ハジメくんは、変わりませんね」


「そうですね。いい意味で」


先輩が少しだけ笑った。もうこの笑い方に慣れてきた。




帰り道、ソラに聞いた。


「ハジメ、元気そうだった」


「はい」


「先輩がハジメの前で身を引かなかった」


「はい。回復が進んでいるようです」


「ソラも見たの?」


「いいえ。レンさんが見たものを、聞いただけです」




「ハジメはどう思った?」


「トッポは全肯定するAIでした。恋人として接していく中で、最初は気持ちが良かったのでしょう」


「最初は?」


「はい。たとえ良い刺激であっても慣れてしまいますから」


「なんか難しいね」


「そうですね。周りの環境で機嫌を取っていればそうなります」




空は青かった。


高くて、広くて、雲がほとんどなかった。


LMCに土の匂いが染みついてきた。


植物が新しい土に根を伸ばしている。




ハジメが来て、先輩が笑った。


普通の日だった。


でも、前の普通とはちょっと違う普通だった。

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