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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
知らない世界

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嫌われてなかったみたい

LMCの改造が始まった。


植木鉢を動かして、大きなプランターに植え替える。


根が繋がれるように、仕切りを外して、土を入れ替える。


涼香さんが設計図を書いて、先輩が周波数の測定ポイントを決めて、シャーロットが植物の配置を決めた。


僕は土を運んでいた。


「レンくん、そっちの袋も」


「はい」


「あと三袋」


「三袋」


「文句ありますか」


「ないです」


土は重かった。


でも、LMCが変わっていくのは楽しかった。


植木鉢に閉じ込められていた植物たちが、広い土に移されていく。


根が自由になる。シャーロットが嬉しそうだった。


「こやつらは不安がっとるな」


「分かるんですか」


「見るんじゃない、感じるんじゃ」


「僕には同じに見えますけど」


「それはお主の目が節穴じゃからじゃ」


「ひどい」


夕方になって、作業が一段落した。


涼香さんとシャーロットが先に帰った。




僕と先輩がLMCに残った。


二人きりだった。


前にもこういう時間があった気がする。


でも前は、先輩がスマートグラスをかけて、僕のデータを見ていた。


今は、グラスは外されていた。机の上に置いてあった。




「疲れましたか」


「ええ、土を運んだだけですけど」


「土を運ぶのは重労働です」


「先輩は設計の方が大変だったんじゃないですか」


「大変じゃないです。楽しかったので」


先輩が窓の外を見た。


夕方の光が入ってきていた。




「レンくん」


「はい」


「一つ、聞いてもいいですか」


「はい」


「レンくんは、私のことが嫌いですか」




僕は一瞬、何を言われたか分からなかった。


「え?」


「嫌いですか、と聞いています」


「いや、嫌いじゃないですけど」


「そうですか」


「先輩こそ、僕のこと嫌いなんじゃないですか」


先輩が僕を見た。


驚いた顔だった。


本当に驚いていた。


「なんでそう思うんですか」


「いや、だって、最初からずっと被験者扱いだったし、名前も番号だったし、実験中止した時は急によそよそしくなったし」


「それは」


「データ的に必要だからって言うし、それ以上の意味はないって言うし、期待するなって言うし」




先輩が黙った。


「僕、絶対に嫌われてると思ってたんですけど」




先輩が僕を見た。


長い時間だった。


三秒くらい。


先輩の三秒は、普通の三秒とは違った。


「嫌いじゃないです」


「え」


「嫌いじゃないです」


二回言った。


二回目の方が小さかった。


「じゃあなんで」


「なんでって」


「全部。最初から。なんで被験者にしたのか、なんでよそよそしくなったのか、なんで期待するなって言ったのか」


先輩が目を逸らした。窓の外を見た。夕方の赤が先輩の横顔に当たっていた。


「全部は、今は言えません」


「今は」


「はい。今は」


「いつか言えますか」


「分かりません、そもそもなんで全部言わないといけないんですか」


先輩の手がノートの角を探していた。


ノートは開いていなかった。


何も握れなくて、指が膝の上で動いていた。


「でも一つだけ」


「はい」


「被験者にしたのは、それ以外の接し方が分からなかったからです」


「分からなかった」


「はい。データ越しなら見れました。でも」


先輩が言葉を探していた。見つからないみたいだった。


「でも?」


「……うまく言えないです。まだ」


僕は待った。先輩は何も言わなかった。


これ以上聞かないほうがいい気がした。




先輩も大変なんだ、自分の都合を押し付けるのは違う。


「いいですよ」


「え」


「今は言えないなら、いいです。嫌いじゃないって聞けたから、それだけで十分です」


「十分って」


「はい。僕は単純なので」


先輩が僕を見た。


「……本当に単純ですね」


「よく言われます」


「データ的にも単純でした」


「先輩、もうデータないですよ」


「ああ、そうでした」


先輩が少しだけ笑った。


困ったような、でもどこか楽になったような笑い方だった。


「レンくん」


「はい」


「被験者01は、今日で終わりです」


「はい」


「明日から、どう呼べばいいですか」


「僕は最初からレンですけど」


「それは分かっています。私が、どう呼ぶかの話です」


先輩が僕を見た。まっすぐに。逸らさなかった。


「レンくん、でいいですか」


「最初からそう呼んでますよね」


「呼んでます。でも、今日からは意味が違います」


「どう違うんですか」


「……それも今は言えません」


「多いですね、言えないこと」


「多いです。すみません」


「謝らなくていいです。土運びで返してもらいます」


「それは別件です」


「先輩、別件多くないですか」


先輩がまた笑った。さっきより自然だった。


「帰ります」


「はい」


「明日も来てください。土、まだ足りないので」


「はい」


「あと」


先輩がドアの前で立ち止まった。振り返らなかった。


「いい顔してますって、データなしで言ったでしょう」


「はい」


「あれは、嬉しかったです」


先輩がドアを開けて出ていった。足音が廊下に消えた。




僕はLMCに一人で残った。


夕方の赤がLMC全体に広がっていた。


新しい土の匂いがした。


「ソラ」


「はい」


「先輩、嫌いじゃないって」


「聞いていました」


「全部は言えないって」


「聞いていました」


「それでいいと思う?」


「何がですか」


「全部聞かなくて、よかったのかな」


「レンさんが十分だと言ったなら、十分なんだと思います」


「そっか」


「はい」


「ソラは、先輩の気持ち知ってるんでしょ」


ソラが0.三秒止まった。


「データには出ていましたよ。ずっと前から」


「やっぱり」


「聞きますか」


「聞かない」


「なぜですか」


「先輩が自分で言いたいときに聞く。データじゃなくて」


「はい」


「それがいいと思うから」


「レンさんらしいです」


空は赤かった。今まで見た中で一番深い赤だった。


嫌われてなかった。


全部は分からない。でも、嫌いじゃないと言ってくれた。


今はそれだけでいい。

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