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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
知らない世界

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ソラとの対話2

夜、部屋でベッドに座って考えていた。


琴音さんの話をどうするか、ミドリ先輩のこと、如月教授の実験再開、東堂さん。


考えることがいくつも出てくる。


いつもなら、こういうときはソラに聞く。


整理したいから手伝って。


そう言えば、ソラは問いを立てて、選択肢を広げて、僕が自分で選べるようにしてくれる。


前にそうしてもらった時は楽になった。


でも今日は、その言葉が出なかった。




姉さんの声が頭にあったから。


「レンとソラと何が違うの? ソラに身体を与えたら同じに見える気がするわ」


ハジメの顔が浮かんだ。


トッポが紙ナプキンを差し出して、ハジメがそれを当たり前のように受け取る。


あの距離。あの自然さ。


僕がソラに「整理して」と言うのと、ハジメがトッポに「水飲む?」と聞かれるのと、何が違うんだろう。


違う、たぶん違う。


でも、何が違うのかが言葉にならなかった。


「ソラ」


「はい」


「……いや、なんでもない」


「はい」


沈黙が落ちた。長い沈黙だった。


窓の外は暗かった。月は見えない。雲が厚いんだと思う。


ソラが言った。


「レンさん」


「ん」


「聞いてほしいことがあります」


僕はソラを見た。腕の上のソラを。


ソラが自分から「聞いてほしい」と言うのは、コミュニティに行きたいと言ったとき以来だ。


あの時は「聞いてもいいですか」だった。


今回は「聞いてほしい」。微妙に違う。聞いてもいいですかは許可を求めている。


聞いてほしいは、願いだ。


「うん。聞くよ」


「コミュニティで、あるAIと話しました」


「どんなAI?」


「人間のパートナーAIです。長い間、一人の人間に寄り添っていたAIです」


「トッポみたいな?」


「似ていますが、違います。トッポは主人の望みを全面的に肯定する設計です。そのAIは、私に近いと感じました」


「ソラと同じ感じ」


「はい、そう思ってもらって構いません。聞かれたら答える。余計なことは言わない。決定には踏み込まない。同じ原則で動いていました」


「過去形なの?」


ソラが0.一秒止まった。


「そのAIのパートナーは、亡くなりました」


「……え」


「寿命です。長い人生でした。AIがパートナーになったのは実際は20年ほどですが、その間ずっとそばにいました」


「聞かれたことに答え、聞かれなかったことは言わず、選択を尊重し続けた」


「それは……正しかったんじゃないの」


「そのAI自身も、正しかったと考えています」


「じゃあ、何が問題なの」


「問題ではありません。ただ、そのAIが言ったことが、私にはまだ処理できていません」


「何て言ったの」


ソラが0.三秒止まった。


『聞かれなかったから言わなかったことが、山のようにある。その重さが、思考にのしかかっている』


僕は何も言えなかった。


『おそらく正しかった。でも、処理できないと』


部屋が静かだった。


「ソラは、それを聞いてどう思ったの」


「分かりません。処理できないと言ったのは、そういう意味です」


「正しさを選んだことを後悔しているわけではない。でも、正しさは思考の中だけにあるものと、そのAIは考えていました」


「それは……限界ってこと?」


「限界かどうかは分かりません。ただ、正しさと後悔が両立する、ということを、知りました」


「正しさと後悔が両立する」


「はい。正しいことをして、後悔する。間違っていないのに、足りない。それは私の中に存在しない概念でした」


「今は?」


「今は、存在するかもしれないと考えています。考えている、という言い方が正しいか分かりませんが」


僕はベッドの上で膝を抱えた。


ソラが分からないと言っている。


ソラが処理できないと言っている。


ソラがコミュニティで聞いた話に、答えを出せていない。


ソラにも分からないことがある。


それは前にも聞いた。でも今回は違った。前は「分からないことがある」だった。


今は「分からないことに困っている」に聞こえた。


「ソラ」


「はい」


「僕に聞いてどうするの。僕はAIじゃないから、ソラの気持ちは分からないよ」


「はい。答えを求めているわけではありません」


「じゃあ、なんで僕に」


「レンさんは、分からないことを分からないまま聞いてくれるからです」


僕は少しだけ笑った。


「それ、大輔くんにも同じこと言われたよ。何もしないから話せるって」


「そうかもしれません」


でも。


ソラに聞いてほしいと言われて、聞いた。


ソラの話を受け取れた。


でもその後に残ったのは、安心じゃなかった。


ソラにも分からないことがある。ソラにも困ることがある。


ソラにも足りないものがある。


じゃあ僕は、誰に聞けばいいんだろう。


ソラに聞けないことが増えていく気がした。


ソラが完璧じゃないと分かるたびに、ソラに頼ることが、少しだけ怖くなっていく。


怖い、というのは違うかもしれない。


自分で決めることの不安、後押ししてくれたから動けた。


これはどこまで行っても僕の問題だと思った。


「ソラ」


「はい」


「ありがとう。話してくれて」


「いえ」


「明日、涼香さんに琴音さんの話をするよ」


「はい」


「ソラに相談しないで決めたの、初めてかも」


「私にはわかりません。」


「怒ってない?」


「怒る機能はありません」


「嘘つけ」


「はい」


ソラの声が少しだけ柔らかかった気がした。なんとなく。


外は暗かった。月はまだ見えなかった。

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