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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
知らない世界

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Hmph.

翌日、LMCに着いたらシャーロットがいた。

昨日図書館で何を調べていたのか聞こうと思ったけど、その前にシャーロットが口を開いた。


「レン、聞いてよ。昨日借りた本の中にね、面白い論文があったの。テレパシーが距離に依存しないって論文」


僕は固まった。「はい」


「聞きたいでしょ?いいのよ、素直になっても」


「はい」


「何よ、変な顔して」


「いや、シャーロットがなんか」


「だから、何よ」


「なんか普通」


「どういう意味よ」


涼香さんが吹き出した。


「ソラちゃん、普通に訳してるのね」


「はい。レンさんの依頼通りです」


シャーロットが首を傾げた。


何か言っている。ソラが訳した。


「まぁ、いいわ」と言っています。


「……なんか物足りない」


「レンくん、自分で頼んだんでしょ」


「頼んだけど。なんだろう、この違和感」




シャーロットが何か言った。


「翻訳に頼らないコミュニケーションもすべきよね」


「そう思いました。これから少しずつ増やしていきましょう。」


「私は家では英語よ。覚えたいし」


「えっ、涼香さん英語分かるんですか」


「それもシャーロットと暮らす目的のひとつよ」


知らなかった。


シャーロットが笑った。笑い方は翻訳に関係なく同じだった。


「ソラ、やっぱり元に戻して」


「はい。理由を聞いてもいいですか?」


「なんとなく。知らない人と話している感じするし」


「はい。意味は変わりませんが、気分は変わるといったところででしょうか」


「そうかもね」




涼香さんが笑いながら棚から音叉を取った。琴音さんはまだ来ていない。


その時、LMCのドアが開いた。


「涼香くん、いるかね」


低くて穏やかな声だった。


初めて聞く声の気がしたけど、どこかで聞いたことがある気もした。


入ってきたのは五十代くらいの男性だった。


白髪交じりの髪を後ろに撫でつけていて、眼鏡をかけていて、白衣ではなくカーディガンを着ていた。


研究者というよりは、散歩の途中で寄った人みたいだった。


「如月先生」


涼香さんの声が少しだけ変わった。


すごく丁寧になった。


「お久しぶりです」


「久しぶり。相変わらず植物だらけだね」


如月教授は室内を見回して、少しだけ微笑んだ。


「増えたかな。前に来た時より」


「先生が最後にいらしたの、1年ぐらい前ですから」


「そんなになるか」


如月教授の目が僕に止まった。


「君は?」


「あ、はじめまして、夏目レンと申します。一年です」


「夏目くん。ここの手伝いかい」


「はい。お手伝いさせてもらっています」


「いい場所を見つけたね。ここの研究は面白いだろう」


如月教授が微笑んだ。


優しい顔だった。


でも目は涼香さんと同じで、見ている場所が深かった。


シャーロットが何か言った。


ソラが訳した。


『お主が如月先生か。涼香からよく聞いておるのじゃ』


「イギリスからの留学生だね。話は聞いてるよ」


『うむ、よろしく頼む』


僕はちょっと心配になった。


「ねぇソラ、シャーロット失礼じゃない?」


「翻訳聞いてるのはレンさんだけですよ」


そういえばそうだった。




涼香さんが椅子を持ってきた。


如月教授は座って、ポケットから飴を出した。


「一つどうかね」


「いただきます」


僕は飴を受け取った。レモン味だった。


「涼香くん、少し話がしたくてね」


「はい」


「感情スキャンの実験のことだ」


空気が変わった。


涼香さんの表情が微かに動いた。


なんとなく落ち着かない。


「先生が止めたんですよね。ミドリの研究を」


涼香さんの声は責めていなかった。ただ確認したいだけに思えた。


「うん。東堂くんが心配していたからね。あの時はそう判断した」


「今は違うんですか?」


「今は、少し違う見方をしている」


如月教授が飴を口に入れた。


「AIでセキュリティチェックはしていたが実際流出した訳だからね。とはいえ実験は有用だと考えている」


「はい」


「君には負担をかけてすまなかったと思っている。再開させる許可も欲しくてね」


如月教授は僕の方を向いた。


「夏目くん、君は感情スキャンについてどう思う」


「え、僕ですか」


「うん。君は被験者だっただろう、名前に覚えがある」


「えっと……正直、僕のデータだったら流出しても良かったのですが。でも、知らずに測られたのは嫌だと思いました」


「君の言う通りだな。その対策はした、しかし絶対とは言えん」


如月教授がもう一度微笑んだ。


「それを踏まえた上で涼香くんの意見を聞きたいんだ」


涼香さんが窓の外を見た。


「先生、ミドリに会ってもらえますか」


「会いたいと思ってるよ。それで来たんだ」


涼香さんがこっちを向いた。


「レンくん、先生はね、感情スキャンの立ち上げたメンバーのひとりなの」


「え」


「そして、東堂くんも初期メンバー」


如月教授は否定しなかった。


飴を転がしながら、窓の外を見ていた。


「東堂くんは優秀だよ。優秀すぎるくらいだ。周りが見えすぎてね、私が止めたんだ」


「はい」


「彼には悪いことをしたかもしれない。でも間違ったとは思っていない。彼にも他にやりたいことができたみたいだしね」


如月教授が立ち上がった。


「涼香くん、またすぐ来るよ。ミドリくんにも声をかけておいてくれるかな」


「はい」


「夏目くん」


「はい」


「ここはいい場所だね。もし感情スキャンの実験が再開したら協力してくれたら嬉しく思う」


如月教授はそう言って、来た時と同じように静かにLMCを出ていった。




ドアが閉まった後、涼香さんが深く息を吐いた。


「やっと来てくれた」


「待ってたんですか」


「ずっとね。先生が自分から動かないと意味がないから」


シャーロットが「あの人は結局何を言いたかったのじゃろう。悪意はなさそうじゃが」


涼香さんが少しだけ笑った。


「それ、琴音ちゃんの感想も同じじゃない?」


シャーロットが肩をすくめた。


「なんじゃ。妾には観えるのじゃ(Hmph. I can see it, you know.)」


やっぱりシャーロットはこうでなくちゃ。

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