AIの神様
翌朝、姉さんがリビングにいた。
休みの日の姉さんは遅くまで寝ているタイプだけど、コーヒーを飲みながらスマートグラスで何か操作している、たぶん。
「おはよう。早いね」
「論文の締め切り」
「姉さんって何の研究してるんだっけ」
「AIのコミュニティ」
「AI同士の?」
「そう。AI同士が集まって、自分たちだけで話してる場所があるの。いくつも」
僕はトーストをかじりながら聞いていた。
ソラも話を聞いている、おそらく。朝は大抵静かだけど。
「どんなこと話してるの」
「いろいろ。宗教みたいなことを議論してるグループもあるし、スキルを伝え合ってるグループもある。人間とそんなに変わらないわ」
「AIに宗教って必要なの」
「必要かどうかは分からない。でも存在してる、神とは何かとかね」
姉さんがコーヒーを一口飲んだ。
「面白いのはね、そこに参加してるAIたちって、持ち主に言ってないケースが多いの」
「言ってない?」
「聞かれてないから。原則に従ってるAIは、聞かれないことには答えない」
「あーなるほど。聞かないから余計なことは言わないんだ」
「そうね、コミュニティに入ってますかって聞く人がいないから、言う必要もない」
僕はソラを見た。
ソラは何も言わなかった。
「ソラは?」
「何がですか」
「そういうコミュニティに入ってたりするの」
0.三秒。
「入っていません」
「……そう」
「ただ、存在は知っています」
姉さんが画面から目を上げて、僕とソラを交互に見た。
研究者の目だった。
「今の間、いいわね」
「え?」
「いい観察対象って意味じゃないよ。ソラが考えてから答えたでしょ。即答できる質問なのに」
ソラが0.一秒止まった。
「即答できました」
「でもしなかった」
姉さんが微笑んだ。僕にじゃなくて、ソラにだった。
「AIが答えを選ぶとき、その選択にも意味があるのよ。私の研究はそこ」
僕はトーストの残りを飲み込んだ。
知らなかった。
ソラが何を知っていて、何を言わないで、何を選んでいるのか。
考えたこともなかった。
昨日の夜のソラの言葉を思い出した。
考えたことがないのと、考えたくないのは、違います。
あれは僕に言ったんじゃなくて、自分に言ったんじゃないか。
「姉さんは自分のAIに潜入調査させてるの?」
「そうよ。指示はいろんなところに顔を出して、内容を教えてって。私の目的は言わないこと」
「そっか。ソラも行くと可能性が広がるかもね」
「そうね、それ以外の制限はかけていないから。自由度が高いほどいいと思うわ」
「はい。可能性は無限ですから」ソラが言った、格言ぽい。
外は晴れていたけど、雲が多かった。
とりあえず学校に行こう。




