友達の恋人
夕飯はカレーだった。またカレーだ。
母さんが今日はちょっと冒険したと言っていた。
おそらくスパイスを一種類増やしただけだ。
でもそれが毎回ちゃんと違う味になるから不思議だと思う。
ロボットに任せたら同じ分量でも何か違う味になる。
母さんはそれが嫌らしい、愛情がないからだとも言っていた。
「レン、最近帰り遅くない?」姉さんが向かいからこっちを見ている。
姉さんは昔からこういう聞き方をする。
質問の形をしているけど、答えを待っていない。
「いろいろあって」
「いろいろって言うときのレンは、本当にいろいろあるのよね」
ソラが腕の上で黙っている。
家族の食卓ではソラはあまり喋らない。聞かれれば答えるけど、自分からは入ってこない。
「そういえばさ」
姉さんがカレーをすくいながら、思い出したように言った。
「友達がね、恋人作ったの。アンドロイドで」
父さんが「流行りみたいだな」と言った。
母さんが「時代ね」と言った。
「やっぱり完璧なんだって。趣味にも付き合うし、会話のテンポも本人に合わせてくる」
姉さんはちょっと家のロボットに目をやりながら話を続ける。
「絶対に否定しないし、絶対に裏切らない。本人はすごく幸せそうだった」
「いいんじゃない」
僕は普通にそう思った。他人だし、幸せなら。
「私もそう考えたのよ。最初は」
姉さんがスプーンを置いた。
「でもね、その子と話してるとき、違和感があったわ。意見が違うだけなのに否定と受け取るみたい」
「私が何か言うたびに、アンドロイドを確認してるしね」
「……それは」僕は言いかけたが言葉が思い浮かばなかった。
「怖いとかじゃないよ。ただ、自分が正解だから意見が違うと相手が間違っていると思うみたい」
「なんでも知っているのが正しい訳じゃないけどな」父が言った。
「昔、よく聞いたわね。AIの言うことが正しいと思うなって」母も追随した。
食卓が静かになった。
父さんがカレーを一口食べた。母さんが水を注いだ。
「レンは?」
「え?」
「レンはソラのこと、どう思ってるの。いなくなったらどうする?」
「……考えたことない」
嘘じゃなかった。
でも、嘘じゃないことが少しだけ怖かった。
ソラは何も言わなかった。0.三秒どころじゃない。ずっと黙っていた。
「別にソラが悪いって話じゃないからね。結局使っているのは本人なんだから」
姉さんはそう言って、またカレーを食べ始めた。
部屋に戻ってから、ソラに聞いた。
「さっきの話、どう思った」
「どの部分ですか」
「姉さんの友達の話」
ソラが0.一秒止まった。
「使い方は自由です」
「そうだけど」
「ただ、AIがなくても生活はできます」
「うん?」
「レンさんは、考えたことがないと言いました」
「うん」
「考えたことがないのと、考えたくないのは、違います」
外はもう暗かった。
今日は新月みたいだ。




