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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
僕は何を守りたいのか

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心はもやもや

集会から出ると、外は暗かった。

雨が降っていたみたいだが、すでに止んでいた。


地面が濡れて、街灯の光が滲んでいた。


身体の芯にまだ高揚の残りがあって、足取りは軽かった。


そんな時は、大切な判断をしない。


今日は決めない。




大輔くんとは目を合わせずに別れた。打ち合わせ通りだ。


駅までの通りを歩いた。街路樹が濡れて、葉っぱが街灯の下で光っていた。


普段なら気にならないことでも何か楽しく感じる。




通りを曲がったところで、足が止まった。


向かいの歩道に、ミドリ先輩がいたからだ。


並んで歩いている人がいた。男の人だった。


背が高くて、髪が短くて、知らない顔だった。


同じ大学の人かどうかも分からない。


年は少し上に見えた。


ミドリ先輩はその人の隣を歩いていた。腕とか組んでいる訳じゃない。


でも、なんていうか、距離が近かった。


肩が触れそうで触れない、慣れている感じの距離。


先輩の顔は、よく見えなかった。


横顔の輪郭だけが街灯の光に浮かんでいた。


笑っているかどうかも分からない。


でも、身体の角度が、相手の方に少し傾いていた。


僕は気づいたらずっと目で追っていた。


二人は通りの先に消えていった。


雨上がりの夜の中に、二人分の足音が遠ざかっていった。




僕はしばらく、その場に立っていた。


「ソラ」「はい」


「今の」「はい」


「先輩、だったよね」「はい」


「隣の人、誰?」


「データには該当者はありません」


「私の検索できる範囲では、特定できる情報は見つかりませんでした」


「そっか。じゃあ僕も知らないね」


知らない男の人。知らない先輩。


先輩は男性に対して反射的に身を引く、と涼香さんが言っていた。


シャーロットも同じことを感じていた。気配が縮む、と。


なのに、隣を歩いていた。


僕の時と全然違った。


「ソラ」


「はい」


「あれ、男性嫌いじゃないよね」


「男性女性で考えるより信頼できる方ではないですか?」


「そっか」


僕は唾を飲んだ。


身体の中の高揚が、少しずつ別の何かに変わっていくのを感じた。


これが何かは分からない。


胸のあたりが重くて、頭が少しふらついた。


「大輔くんに今日は気分がいつもと違うって」


「はい」


「だから、判断しない」


「はい」


「今日は、何も決めない」


「はい」


ソラは何度も「はい」と言った。


それ以上のことは言わなかった。


家まで歩いた。


歩いている間、頭の中でいろんなことが浮かんだり消えたりした。


男性嫌いじゃなかったみたいだった。


もしかしたら僕にだけ、拒否感があったのかもしれない。


でも、今日は考えない。


見たけど、何も考えない。


答えを決めない、決めないことにする。




家に着いたとき、姉さんが居間にいた。


「あ、おかえり、レン」


「ただいま」


「なんか、顔色悪いよ」


「そう?」


「うん」


「集会、ちょっと疲れて」


「集会?」


「あ、いや、なんでもない」


姉さんは少しだけ僕を見て、それ以上は聞かなかった。


「お風呂、入っちゃいなさい」


「うん」


風呂に入って、ベッドに入った。眠れないと思ったけど、眠れた。




翌日、LMCに行った。


涼香さんとシャーロットがいた。いつも通りだった。


「レンくん、おかえり」


「ただいま」


ただいま、と返してから、いつもより声が固かった気がした。


シャーロットが床から見上げた。


「お主、なんか覇気がないのう」


「そうですか?覇気って」


「うむ。変なものでも食ったか」


「食べてませんよ。シャーロットじゃあるまいし」


「こりゃ」


涼香さんもこっちを見た。


「集会、どうだった?」


「あ、はい、無事に」


「無事ねぇ。何もないならいいけど」


涼香さんは深く聞かなかった。


シャーロットも追求しなかった。


僕は鉢の前に座って、葉水をした。


少し投げやりだったかもしれない。


ミドリ先輩のことを話そう、と思った。


何度か思った。


口を開きかけて、やめた。


別の話が出てきて、流れた。


シャーロットがシダに話しかけて、涼香さんがモニターを観てる。


話せるタイミングは何度もあった。


何度もあって、何度も逃した。自分から逃した。


なんで話せないのか、自分でも分からなかった。


涼香さんとシャーロットには、今までいろんなことを話してきた。


集会の仕組みも、大輔くんとの段取りも、何でも話せる二人だった。


なのに、昨日見たことだけ、口から出なかった。


ミドリ先輩が知らない男の人と歩いていた、と言うだけのことだ。


一行で済む。なのに、その一行が出ない。


葉水をしながら、自分の手を見ていた。


動揺しているようには見えない。


「シャーロット」


「うむ」


「今日は早めに帰ります」


「ふむ」


「すみません」


「謝ることはなかろう」


涼香さんがモニターから顔を上げた。


「レンくん、大丈夫?」


「大丈夫です」


「そう」


「すみません、また明日来ます」


「うん、気をつけて帰ってね」


僕は鞄を取って、立ち上がった。


ドアを開ける前に、もう一度振り返った。


涼香さんもシャーロットも、こっちを見ていなかった。


見ていないふりをしてくれていた。それが分かった。


それが分かって、なんかもっと、話せなくなった。


「ありがとうございます」


何にありがとうなのか、自分でも分からないまま、そう言って外に出た。




外は快晴だった。


「ソラ」


「はい」


「なんで話せなかったんだろう」


「私には分かりません」


「分からないか」


「はい」


「ソラでも分からないことって、増えてきたね」


「……はい」


ソラの返事の最後に、少しだけ何かがあった気がした。


それが何かは、分からなかった。

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