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僕、絶対に嫌われてると思うんだけど  作者: かわいかつひと
僕は何を守りたいのか

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耳に聞こえない音

朝、大輔からメッセージが来た。


「今日の夕方、少し会えないか。」


それだけだった。「わかった」と送ると場所、時間が送られてきた。大輔らしい。




夕方、大学から少し離れた公園のベンチで大輔は待っていた。


僕が近づくと、軽く手を上げた。


「悪いな、急に」


「ううん、大丈夫」カップルのようだ。


大輔は隣に座れ、というように少し詰めた。


ベンチに並んで座る。


カップルじゃないよ、と自分につっこむ。




「ERAの集会、三日後にある」


「うん」


「レンが言ってた、妨害電波の話」


そういえば、次回その役をやる、と僕は言ったな。


「本気にしていいのか」


「うん」


「即答か」


「もちろん」


大輔は少しだけ笑った。


「レンのそういうとこ、助かる」


「そういうとこって?」


「即答するとこ」


「考えてないだけかも」


「そうとも言う」


公園の奥で、誰かの子供が走っていた。


ロボットが追いかけている。平和な夕方だった。




「仕組みの話、していいか」


「うん」


「ERAの集会、周波数の流し方に段取りがあるんだ」


「段取り」


「うん。演説が始まる前に低周波を流してる」


「低周波」


「耳には聞こえない音だ。人間の可聴域の下。でも体は感じる」


「感じるって?」


「なんとなく不快になる。落ち着かない、理由のない不快感。会場にいる全員がそれを感じてる」


「でも誰にもわからない、聞こえない音だから」


「聞こえないとわからないよね」


「そして、演説が始まる瞬間に、その低周波を止めるんだ」


「止める?」


「そう、止める。そして全員が気付かないうちに「楽になった」と感じる。ふっと楽になるんだ」


「そして、感情高揚の周波数を流す」


僕は少しの間、黙った。


「つまり」


「うん」


「最初にわざと不快にしておいて、それを止めた瞬間の解放感に、高揚を乗せてるってこと?」


「そういうことだ」


「すごいことを思いつくね」


「嫌だろう」


それは確かに嫌だ、と思った。


順番もいやらしい。


最初から高揚されてるだけのが、ずっとマシな気がする。


「それ、誰が考えたの?」


「分からない。ERAのメンバーで、そこまで詳しい奴はいないみたいだ」


「いない?」


「ああ。デバイスを持ち込んでセットしてるのは半田次郎だ。言われた通りに置いてるだけらしい」


「じゃあ、誰が」


「さあな。東堂以外では思いつかない。他にいないとも言えないし、証拠はまだない」


東堂さんの顔が浮かんだ。いつもの穏やかな顔。




「気分が重い日は良くない。ずっと気分が良ければ悪いことじゃない」と言った人。


「大輔くん」


「ああ」


「会長ってめんどくさいよね」


大輔は少し考えた。


「俺は知らないが、本人は善人と思っているさ」


「確かにそうだね」


「そう。だから厄介なんだ」


厄介、という言葉が、夕方の公園に変な重さで残った。




「で、妨害の話なんだが」と大輔が続けた。


「低周波の方を止める、って手がある」


「低周波?」


「ああ。演説が始まってから止めるのは難しい。でも低周波の方は、デバイスが単純だ」


「ただスピーカーから聞こえない音が出ているだけだからな。」


「低周波を止めたら、どうなるの」


「最初の不快の段階がなくなる。演説が始まっても、気分が良くなったという感覚が生まれない。高揚の周波数だけが流れる」


「それだけだと、効かないの?」


「効かない訳じゃない。ただ、下にさがってから上にいく過程がより効果的なんだ」


「へえ」


「レンに頼みたいのは、低周波のデバイスを確認。どんなものか確認」


「確認だけ?」


「ああ。いきなり止めて、気づかれてもつまらん。まず位置を確定して、それから段階的にな」


「分かった」


「本当に分かってるか?」


「分かってる、たぶん」


「たぶんか」


大輔が笑った。




ベンチから立ち上がる。


「大輔くん」


「うん」


「なんで、半田さんは仕組みも分からないのに、やってるんだろう」


大輔は少しの間、答えなかった。


「分からないが、盲信してるんじゃないか」


「それは、そうだね」


「自分で考えないで済むしな」


「楽だね」


「ERAのメンバーもほとんどがそうだ。言われたことをやってる。自分で深く考えない。エリートなのにな」


「本気で考えたら気づいてしまうからじゃない」


「そうかもな。自分たちの主張が正しいのか、本当に欲しかったものなのか、」


僕は何も言えなかった。


大輔は軽く手を上げて、先に歩き始めた。僕は少しだけ遅れて歩いた。


帰り道、ソラに言った。


「ソラ」


「はい」


「さっきの下げてから上げるってどう思った?」


「実際に効果的だと思います。コントラスト効果と言います」


「詳しくはググってください」


「意味がわからないけど、効果的なんだね」


「はい」


「ソラって、たまによくわからないこと言うよね」


僕は少し歩きながら考えた。


「最初にわざと不快にして、次にあげるっていうやり方は嫌だね」


「効果的とも言えます」


「賛成できないよ」


ソラが少しだけ間を置いた。0.三秒、だった。


「はい」


空の橙色が、少しだけ深くなっていた。

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